2016年1月から交付が開始されたマイナンバーカード。交付開始から5年近く、交付率が20%未満と低迷していたが、20年を境に交付率が急激に伸長した。そもそも国はなぜ、マイナンバーカードの普及に力を入れているのだろうか。諸外国との比較で考えてみたい。

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●伸長した理由は「マイナポイント」「オンライン申請」



 マイナンバーカードの交付率が伸長した理由は大きく二つある。一つは国のマイナポイント事業が始まり、マイナンバーカード取得により、5000円相当のポイントがもらえるようになったこと。もう一つはコロナ禍の特別定額給付金が、マイナンバーカードがあればオンラインで申請できたこと。この二つによって、20%くらいだった交付率が、翌年の暮れ(21年12月)には40%近くにまで跳ね上がった。

 その後、22年6月からマイナポイント事業の第2弾が始まり、交付率はさらに伸長し、23年9月時点で交付率は全人口の76.4%にまで達している。保有率(交付枚数から死亡や有効期限切れなどにより廃止されたカードの枚数を除いた比率)で見ても約70%(約9000万枚)となり、顔写真入りの公的な身分証明書として運転免許証の約8200万枚を大きく超えている。


●そもそもマイナンバーカードを交付しているのは?



 マイナンバーカードはその名の通り、個々人に付与された個人番号マイナンバー)が記載されているカードであり、個人が自分の個人番号を証明するためのカードだ。また、前述した通り、公的な身分証明書としても使える。その他にもマイナンバーカードには電子証明書があらかじめ搭載されており(交付時に電子証明書の搭載を希望した場合)、個人が定めた暗証番号とともに用いることで、オンラインでの本人確認にも使える。

 マイナンバーカードの役割は、以下の通りだ。

(1)個人番号を証明するもの

(2)公的な身分証明書

(3)オンラインでの本人確認に使われる電子証明書(デジタルID)

 日本では個人番号とデジタルIDが、マイナンバーカードとして一緒に配られているが、諸外国の事情は少し異なる。政府が個人を識別するために使われる番号(共通番号)が付番され始めたのは、早い国では1900年代初頭に遡る。その後、2000年代に入り、情報化社会の到来に合わせて、オンラインでの本人確認に使われるデジタルIDが付与されることになった。

 そのため、諸外国では共通番号とデジタルIDは別物と理解されている。また諸外国ではデジタルIDの付与に必ずしもICカードが配られているわけではなく、スマホアプリなどで付与されている国もある。日本のようにICチップが搭載された高価なカードを、誰一人(デジタル化社会から)取り残されないよう、全国民に対して無償で配っている国は世界的に見ても珍しい。

 日本では、個人番号と呼ばれる共通番号とデジタルIDがマイナンバーカードとして一緒に配られているため、マイナンバーカードのことを「マイナンバー」と呼ぶ人がいたり、マイナンバーカードでオンライン申請をする時にはマイナンバーは使いませんと、わざわざ説明が必要だったりと、国民に混乱をもたらしている面があることは否めない。だが、日本政府がここまでICカードの普及に力を入れているのは、まさにデジタルIDを全国民に付与することを目的としているからだ。

 一時期メディアを賑わせたマイナンバーカードの返納についても、カードを返納したところで個人番号が消えてなくなるわけではない。ただ、近い将来に訪れるデジタル化社会において、本人確認に使われるデジタルIDを自ら放棄しているに過ぎない。


●「公共サービスメッシュ」の実現を目指す



 昨年4月に開催されたデジタル田園都市国家構想実現会議において、当時の牧島デジタル大臣がマイナンバーカードの市民カード化構想を発表した。それによれば、令和7年(25年)頃までに、マイナンバーカード一枚でさまざまな市役所サービスが受けられる社会を目指すとある。

 マイナンバーカード一枚でさまざまな市役所サービスと言われても、思い浮かべる絵姿は人それぞれかもしれないが、政府は今、「公共サービスメッシュ」と呼ばれる社会の実現を目指して数多くの取り組みを進めている。マイナンバーカードによる社会のデジタル化は、その基礎となるものである。

 公共サービスメッシュが実装された社会では何がどう変わっていくのか、注目が集まるところだ。(シーイーシー・加藤雄一)

マイナンバーカードを海外と比較