一般社団法人フィリピン・アセットコンサルティングのエグゼクティブディレクターの家村均氏が、フィリピンの現況を解説するフィリピンレポート。今週は、フィリピン経済の動向と世界経済の動向について、IMFの最新データを元にお伝えするとともに、徐々に個人投資家の裾野が広がりつつあるフィリピンの株式市場の動きについて解説していきます。

世界経済は成長鈍化も「フィリピン」は高成長を予測

国際通貨基金(IMF)は、世界経済の成長が鈍化する見通しの中で、フィリピン経済を今年もアセアン地域内で最も強力な成長を続けると予想しています。

IMFの最新の世界経済展望(World Economic Outlook:WEO)によると、IMFはフィリピンの国内総生産(GDP)が今年5.3%成長すると予想しています。これはフィリピン政府の6~7%を下回り、2022年の7.6%のGDP成長からも鈍化します。一方で、2023年のフィリピンの成長見通しは、新興国上アジア地域で2番目に高い数値で、インド(6.3%)に次ぐものです。これは中国とインドネシア(いずれも5%)、ベトナム(4.7%)、マレーシア(4.0%)、タイ(2.7%)よりも高い数値です。新興アジア地域の成長は、今年は5.2%から5.3%に前回の予想を下回る見通しで、2024年には5%から4.8%に減速するとされています。

IMFは、世界経済は昨年末に底をつき、インフレ(ヘッドラインおよびコア)は徐々に制御されているとしています。しかし、新興国において、パンデミック前の水準への完全な回復にはもう少し時間を要するとしています。

IMFの今年のフィリピン成長予測は5.3%で、ASEAN東南アジア諸国連合)の5つのメンバー国の中で最高です。ASEAN-5地域は、今年は4.2%、来年は4.5%の成長が見込まれています。

WEOに基づき、IMFは2024年のフィリピンのGDP成長率を5.9%と予測していますが、これはマニラでの協議ミッションの終了後に6%に修正されました。これにより、フィリピンは新興上アジア地域で、インド(6.3%)に次いで2番目に成長が速い経済となります。また、ASEAN-5地域では、来年も最高数値で、インドネシア(5%)とマレーシア(4.3%)が続きます。

IMFのフィリピンの成長見通しに対する主な下方リスクは、持続的なインフレで、これが中央銀行に金融引き締めを再開させる可能性があることです。IMFはフィリピンインフレ率が今年約6%に上昇し、2024年には3.5%に減少すると予想しています。また、フィリピン中央銀行(BSP)は、今年の平均インフレ率が5.8%で、2024年には3.5%と見ています。

BSPは今年3月以来、政策金利を16年ぶりの高水準である6.25%で維持しています。インフレ率が目標範囲内に収まるまで、この高い政策金利が必要な状況です。IMFはフィリピンインフレ率が来年第1四半期までに2~4%の目標に戻ると予測しています。

一方、IMFは世界経済の成長が今年3%に減速すると予想しており、世界経済はパンデミックロシアウクライナ侵攻、生活コストの高騰リスクから徐々に回復はしているものの、2024年の見通しを3%から2.9%に引き下げました。

また、IMFは、成長は全体的に鈍化しながら、世界中で成長の格差が広がっているとしています。IMFは、世界的なインフレが今年は6.9%に上昇すると予測しており、2024年には5.8%に緩和すると予想しています。多くの国々でインフレが目標範囲に戻るのは2025年になるとしています。

フィリピン株式市場…取引活発化への取り組み

フィリピン証券取引所(PSE)は、小規模な投資家のアクセスを広げ、市場流動性を高めるために、企業の株式を取引するために必要な最小ユニットを減らすことを検討しています。

PSEは株式取引をより広めるために、最低投資額を100フィリピンペソ(約1.80ドル)に見直す提案を行っています。この提案は、PSEが先物取引(ショートセリング)やモバイルアプリを介した株式取引の導入など、取引所の流動性を高める取り組みの一貫として行われています。

モバイルアプリのGCashには、昨年7,600万のユーザーを登録し、最小取引額を減らすことへの要望が多く、これが実現すれば、より多くの人々が株式市場に入ってくることになります。

PSEによれば、オンライン株式取引口座の数は昨年約130万件に上り、総口座数の約4分の3を占めるています。オンライン口座のの平均価値は約46,200フィリピンペソで、これは対前年で33%増加となります。

写真:PIXTA