取材・文=吉田さらさ

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大宮区にある壮大な古社

 さて、ようやく涼しくなり、行楽の季節がやってきた。今回は、東京とその近郊あたりからの日帰り旅におすすめの武蔵国一宮氷川神社をご紹介しよう。

 埼玉県さいたま市大宮区にある壮大な古社で、武蔵国の一宮にして東京都埼玉県などにある約280社の氷川神社の総本宮。他の氷川神社と区別するために、大宮氷川神社と呼ばれることもある。大宮という地名も、もちろん、このように大きな宮があるところから来ている。

 武蔵国は律令制に基づいて作られた地方行政区分である律令国のひとつで、現在の東京都埼玉県神奈川県川崎市横浜市の一部を含む広大な地域である。一宮とはそれぞれの律令国においてもっとも格式の高い神社のこと。つまり武蔵国一宮は、われわれ東京都民にとっても一宮なのである。これはぜひともお参りしておかねばいけない。

 公共交通機関でこの神社に行くには三つの方法がある。一般的なのは大宮駅から行く方法だ。JR在来線だけでなく新幹線も止まり、他の私鉄も発着する埼玉県随一のターミナル駅であるため、駅前は賑やかな繁華街になっている。ここからなら徒歩約15分。

 なるべく歩きたくないという場合は東武アーバンパークラインの北大宮から徒歩10分という選択もある。

 三つ目大宮駅の一つ手前のさいたま新都心駅から歩く方法だ。さいたまスーパーアリーナがある未来都市のような駅から線路沿いに10分ほど歩く。するとそこに大宮氷川神社一の鳥居がある。ここから神社へのまっすぐな参道が続いており、その距離おおよそ2キロ。直線の参道としては日本一長いと言われている。時間はかかるが、はじめて行くのなら、この道がベストであろう。

 大宮はもともと大宮氷川神社の門前町として発展した町だったが、江戸時代になり、徳川家康が五街道の整備に着手。大宮は中山道の宿場のひとつとなった。当初、中山道氷川神社の東側を並走するように通っており、神社の手前で参道を横切って北上する形であった。その後中山道は参道の西側の少し離れたところに造り変えられ、大宮宿も新しい中山道沿いに移された。現在の地図を見ると、その道には「旧中山道」という表記があり、大宮宿があったあたりは大宮駅からほど近い繁華街であることがわかる。

 さて一の鳥居をくぐって参道を歩き始めよう。両側には欅並木。入口付近には「武蔵国一宮」という文字が彫られた標石がある。1722年に奉納された、現存する石造物の中では最も古いものである。

 道中には宮までの距離を示す丁石や常夜灯などもある。参道沿いには美味しいコーヒーを飲ませてくれるカフェやスイーツ店も点在しているので、疲れたら休み休み行こう。お参り前に飲み食いしてはいけないと昔親に言われたものだが、ここには魅力的な店が多すぎて素通りが難しい。やがて二の鳥居があり、続いて三の鳥居をくぐると、ようやく大宮氷川神社の境内である。

 左右には摂社や池などがあれこれあるが、ひとまずまっすぐに歩いて楼門に向かう。回廊に囲まれた神聖な空間に舞殿、続いて拝殿、その奥に本殿がある。

 社伝によれば、創建は今からおよそ二千年前の第五代孝昭天皇の御代。祭神は須佐之男命稲田姫命、大己貴命の三柱。須佐之男命天照大神の弟神で、乱暴狼藉の結果高天原から追放されたが、八岐大蛇を退治して英雄となり、救出した稲田姫命と結婚した。大己貴命は国造りの英雄である大国主命の別名で、須佐之男命の六世もしくは七世の孫とされる。この神々はいずれも出雲系だ。

関東でも最強のパワースポットとされる蛇の池

 本殿でのお参りを終えたら、境内に点在する摂社末社やパワースポットゆっくり巡ろう。まずは、楼門向かって右側にある門客人神社。こちらの祭神は足摩乳命と手摩乳命。須佐之男命の奥さんの稲田姫命の両親、つまり八岐大蛇に次々と娘を食べられて須佐之男命に助けを請うた出雲の民である。こちらにそうした出雲系の神々が祀られるより前、この場所には別の地主神が祀られていたという。

 社伝には、第十三代成務天皇の御代に出雲族の兄多毛比命という人が勅命により武蔵国造となり、この神社を奉崇したと書かれている。武蔵国は遠い昔に出雲からやってきた人々が開拓した土地だという説があるが、この神社の歴史もそれと重なる。

 その隣の御嶽神社と参道の右手奥にある天津神社は、実は旧本殿である。本殿が現在の形になる以前は、三柱の御祭神それぞれに本殿があったという。その後現在の本殿には三柱が一緒に祀られ、稲田姫命を祀る本殿だった建物が御嶽神社の社殿、大己貴命を祀る本殿だった建物が天津神社の社殿になった。今は、御嶽神社の祭神が大己貴命と少彦名命、天津神社の祭神が少彦名命であるのも面白いところだ。

 楼門の手前には「神池」と呼ばれる池があり、畔に酒造の神である大山咋命を祀る松尾神社、少し離れたところには赤い鳥居が並ぶ稲荷神社もある。池に浮かぶ小島には宗像三女神(多起理比売命、市寸島比売命、田寸津比売命)を祀る宗像神社も鎮座している。市寸島比売命は弁財天同一視される神であり、このように池の中の小島に祀られていることが多い。

 数々の摂社末社でそうそうたる神々にご挨拶したら、最後に、この神社のみならず関東でも最強のパワースポットとされる蛇の池に行こう。本殿に向かって左側の奥まったところにある小さな池だが、実は地中から清水が湧いており、先に歩いた神池やその先に広がる見沼の水源のひとつでもある。このように神秘的な湧水があったために、この地に氷川神社を建てたと言われる。つまりここがこの神社発祥の地ということだ。

 かつては一般人が足を踏み入れることができない禁足地だったが、今は道ができて近くまで行くことができる。蛇は龍と同じもので水神の化身と見なされる。祭神の須佐之男命八岐大蛇を退治したことから水を治める神とされ、そのご神徳を讃えるため蛇の池と呼ばれるのである。この場所の霊気はひじょうに強く、天から降臨する龍神様の姿を見た人もいるそうだ。由緒ある神社の多くは古くからの神域であった場所に存在し続けているため、こんな都会の真ん中にも、異世界を垣間見るようなスポットが残されている。

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大宮氷川神社 写真=アフロ