アイルランド出身の劇作家コナー・マクファーソンの代表作『海をゆく者』を、9年ぶりに上演。クリスマス・イヴの夜、酒とカードゲームをこよなく愛する男たちの身に起こる、ある奇跡を描き出す。09年の初演、14年の再演に続き、ミスター・ロックハートを演じるのは小日向文世。そこで間もなく古希を迎える小日向に、本作に寄せる想い、さらに同世代の共演者たちへの想いを、たっぷりと語ってもらった。

神の祝福を受ける者と受けない者の攻防

――三度目の上演となる人気作です。小日向さんはこの作品のどんなところに魅力を感じますか?

まず男しか出てこない、それもかなり年配の、どうしようもないおやじたち5人っていうのが面白いですよね。しかも全員酒に溺れていて、ずーっとベロベロに酔っ払っている(笑)。決して裕福でも、恵まれているとも言えない彼らですが、唯一の楽しみがクリスマス・イヴの夜にカードをすること。そしてクリスマスの朝を迎えるころ、フッと神様の存在を感じるというか、温かい眼差しが注がれて。改めて本当によく出来た、いい話だなと思います。

――酔っ払いダメおやじたち。ただそれだけではない、愛嬌を感じさせるおやじたちですね。

さみしい男たちではありますが、なんか笑っちゃうんですよね。兄のリチャードは酒の飲み過ぎで転んで、目が見えなくなってしまうし、弟のシャーキーは酒癖が悪く、喧嘩が原因でずっと職を転々としている。アイヴァンも酒が大好きで、奥さんの尻に敷かれていて。またニッキーがおかしい奴で、恋人がシャーキーの前の彼女だっていう(笑)。みんなそれぞれにドラマがあって、そこが本当に面白いなと思います。

――ただ小日向さん演じるミスター・ロックハートは、この中では異物な存在ですね。

リチャードとシャーキーの兄弟が神の祝福を受ける側だとしたら、ロックハートは受けない側ですからね(笑)。一見穏やかな老紳士を演じながら、シャーキーとの間には、ほかの3人にはわからないような暗黙の会話がある。それでいて怖い人一辺倒ではなく、愚痴を言ったり、ベロベロに酔っぱらったり。つまりある一瞬以外は、ヨレヨレのおじいちゃんのままでもいいのかなと思います。そのほうがこの役は活きてくるというか。また役者としても、ひとつ楽ではあるんですよ。酔っ払っている状態に自分を置く、というのは。少しくらい台詞を噛んでしまっても、酔っ払っているせいに出来ますから(笑)。

稽古ではお互いの“老い”を確認したい(笑)

――小日向さんを始め、アイヴァン役の浅野和之さん、ニッキー役の大谷亮介さん、シャーキー役の平田満さんの4人は、初演からの続投組です。

この4人は全員同い年で、もうすぐみんな70歳。ちょっと信じられないですよね。同じ時代に小劇場を経験していた僕らが、もう70だなんて! 全然実感がわかなくて。まぁその分、お互いに対する信頼感はやっぱり強いです。同じように食えない時期を過ごしながらも、なんとか70まで役者をやってきた仲間ですから。とりあえず今回の稽古では、お互いの“老い”を確認したいなと思います(笑)。僕もついに膝を悪くしましたし、絶対みんな体にガタがきているはずなので。歳を取って唯一良いことがあるとしたら、若い時よりも気負いがなくなったこと。どんなにあがいたって、せいぜい10年くらいしたらあっちに行っちゃうんですから(笑)。だったら「70の俳優がよくあんなにしゃべるよね」なんて、客観的に楽しめたらいいなと。そしてそれを見た若い人たちに、「自分たちも歳を取ったらあんな楽しそうに芝居が出来るんだ」と思わせたいですね。

――リチャード役は前回、前々回の吉田鋼太郎さんから、高橋克実さんへとバトンが渡されました。

新しいリチャードに会えるんだと思うとすごく楽しみです。ただ克実くんは相当大変ですよね。僕らは3回目ですけど、彼は初めて。しかもリチャードってとにかく台詞が多くて、最初からテンション高く、ずっとしゃべりっぱなし。しかも目が見えない役なので、しゃべっている相手と目を合わせられない。ただ知ったメンバーばかりではあるので、みんなで助け合っていけたらと思います。

――演出も初演からの続投となる栗山民也さんです。栗山さんとのもの作りの面白さとは?

演出家なので当たり前と言えば当たり前ですが、やはり脚本の読み込みが圧倒的ですよね。栗山さんの中にこうしようってイメージがしっかり出来上がっているので、僕らに対する指示にも迷いがない。それが見事に「なるほど!」と思わせてくれるものなので、僕はもう完全に委ねています。栗山さんとしても、再演で、もういじる場所がないくらい作り上げられている気がするんです。だから今回は新たになにかを発見しようというよりかは、前回の動きを忠実に再現したいなと思っています。

――カードゲームの動きも、この作品では非常に重要な位置を占めるものですね。

そうそう! ポーカーのやり取りが本当に大変で、初演の時は5人でずっと居残って、自主稽古をしていました。「俺は賭ける」とか、「俺は降りる」とか、「じゃあ俺はプラスいくら」とか、もう面倒くさいんですよ!(笑) あれ、70歳で出来るだろうか……?

――70歳のリアルおやじたちの挑戦、期待しています! では最後に、公演を楽しみにされているお客様へメッセージをお願いします。

この中では克実くんだけがまだ63歳ですが、若い人から見たら63歳も70歳も変わらないですよね(笑)。そんな間もなく古希を迎えるおじさんたちが、どんどん酔っ払っていくおやじたちを一生懸命演技で表現する。その面白さを、ぜひ劇場で体感して欲しいなと思います。

取材・文:野上瑠美子 撮影:石阪大輔

<公演情報>
PARCO劇場開場50周年記念シリーズ『海をゆく者』

作:コナー・マクファーソン
翻訳小田島恒志
演出:栗山民也
出演:
小日向文世 高橋克実 浅野和之 大谷亮介 平田満

【東京公演】
2023年12月7日(木)~12月27日(水)
会場:PARCO劇場

【新潟公演】
2024年1月7日(日)
りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館・劇場

【愛知公演】
2024年1月12日(金)~14日(日)
穂の国とよはし芸術劇場PLAT 主ホール
【岡山公演】
2024年1月17日(水)
岡山芸術創造劇場ハレノワ中劇場

【福岡公演】
2024年1月20日(土)~21日(日)
キャナルシティ劇場

【広島公演】
2024年1月24日(水)
JMSアステールプラザ 大ホール

【大阪公演】
2024年1月27日(土)~29日(月)
サンケイホールブリーゼ

チケット情報:
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2346008

公式サイト:
https://stage.parco.jp/program/seafarer2023

小日向文世