中国が、北朝鮮との協議に基づき、自国で勾留されていた脱北者を段階的に北朝鮮に強制送還したことは、デイリーNKジャパンでも既報の通りだ。

北朝鮮は2020年1月、新型コロナウイルスの国内流入を防ぐために、国境を封鎖し、海外で拘束され強制退去命令を受けた者を含めて帰国を禁止した。そして今年8月末、自国民の帰国を認めたことで、段階的に送還が行われた。

送還された脱北者は、いずれも国境沿いの地域にある集結所に勾留されているもようだ。

デイリーNKが平安北道(ピョンアンブクト)、咸鏡北道(ハムギョンブクト)など国境沿いの地域の複数の内部情報筋を通じて確認した結果、今月9日に中国の遼寧省丹東と、吉林省図們を通じて強制送還された200人は、新義州(シニジュ)と穏城(オンソン)にある保衛部(秘密警察)の集結所に勾留されていることがわかった。

中国の情報筋によると、彼らは9日午後8時ごろに中国側から北朝鮮側に身柄を引き渡され、その数は200人から300人とのことだ。

その8割が女性であり、全員が手錠をかけられた状態でバスに乗せられ、丹東税関に身柄を移された後、北朝鮮に送り返された。いずれも、国境の川を越えて中国側に忍び込み違法行為を働いた者、また韓国行きを試みた者で、中国公安当局により逮捕・勾留されていたというのが、情報筋の説明だ。

保衛部は現在、脱北の時期や経緯、中国での足取りなどについて取り調べを行っており、今後はもともと住んでいた地域の保衛部などに身柄を移され、予審(起訴前の証拠固めの段階)を経て、処分が下される。

経済的目的で一時的に脱北した者には労働鍛錬刑(短期の懲役刑)、中国で罪を犯した者には教化刑(中長期の懲役刑)の判決が下されると見られるが、韓国行きを複数回試みた者、韓国人と接触し続けた者に対しては、国家保衛省(秘密警察)傘下の管理所(政治犯収容所)に送られる可能性が高い。スパイ罪に問われれば処刑もあり得る。

もはや説明する必要もないが、いずれの施設も人権蹂躙のオンパレードだ。暴言、暴行は当たり前、拷問や性暴力(強制堕胎を含む)など、非人道的な扱いを受けることが知られている。

その前の段階の集結所でも状況は同じだ。女性の看守がほとんどいないため、強制送還された女性は、男性の看守により身体検査を受け、その過程でセクシャル・ハラスメントや性暴力を受けることが頻発している。

韓国・ソウルに本部を置く「転換期正義ワーキンググループ(Transitional Justice Working Group=TJWG)」でプロファイラーを務めるイ・スンジュ氏は、送還後の取り調べの過程で拷問、性暴力、強制労働などが行われる懸念が高いと述べている。

韓国外交省のイム・スソク報道官は、12日の定例ブリーフィングで、「政府は具体的な事実関係確認のために努力している」「脱北民が自らの意志に反して強制送還されず、望むところに安全かつ迅速に移動できるよう、様々な機会をとらえて中国側に協力を要請し続けている」と述べた。

また統一省の当局者は、記者からの質問に、「報道の事実関係については確認中で、関連事項を鋭意注視している」「政府は海外滞在脱北民が、本人の意志に反して強制的に北朝鮮に送還されてはならないという立場で、意志に反する強制送還を禁止する国際規範に反している」と述べた。

中国も加盟している難民条約の第33条は、難民を「生命や自由が脅威にさらされるおそれのある領域の国境へ追放しまたは送還してはならない」という、いわゆる「ノンルフールマン原則」を明記しているが、中国は脱北者を「経済目的の違法越境者であり難民ではない」と見なしているため、躊躇なく強制送還している。それでも、拷問が行われるおそれがある者を追放してはならないとしている拷問禁止条約の第3条には明らかに抵触する行為だ。

今後さらなる強制送還が行われるか否かは、それに反対する国際世論の高まりにかかっている。

北朝鮮当局に強制的に撮影された20代女性(画像:デイリーNK内部情報筋)