主にアジアに生息するツマアカスズメバチは、大きさこそオオスズメバチより小さいが、攻撃性・凶暴性は群を抜いて高い。最近ではその生息域を拡大させ、危険な外来種として恐れられている。
日本では対馬のみで確認されていたが、九州本土や山口県でも確認されるようになり、2015年に特定外来生物に指定された。
侵略してきたツマアカスズメバチに手を焼いているのは人間だけではない。常に襲撃される危険性があるのはミツバチの仲間たちだ。
だが西洋のマルハナバチはすでにその撃退方法を編み出したようだ。ただしそれは自分たちの成長を阻害される諸刃の剣でもあるという。
【画像】 危険な侵略的外来種として世界で猛威を振るうツマアカスズメバチ
日本で危険なスズメバチというと、オオスズメバチやキイロスズメバチが思い浮かぶが、東南アジアには「ツマアカスズメバチ(Vespa velutina)」という仲間がいる。
働きバチは20mm(女王蜂は30mm)とそこまで大きくはないが、非常に攻撃性が高く、世界各地に進出し厄介な外来種として問題視されている。
人間にとっても危険なハチで、台湾、マレーシア、インドネシアでは刺傷による死者が発生しているが、特に心配されるのは農業や養蜂への影響だ。
ミツバチのような作物の受粉を助けてくれる生き物を襲って食べてしまうため、最近のミツバチの減少は彼らが関係しているのではと疑う声もある。
[もっと知りたい!→]マルハナバチは視覚と触角を使って、それが何かを認識する認知能力がある(英研究)
日本のミツバチは「熱殺蜂球」という必殺技で対応
ツマアカスズメバチは、ミツバチの巣を見かけると、"ホーキング"という行動をとる。巣の外でホバリングして待機し、帰ってきたミツバチに襲いかかるのだ。
くわえて、このスズメバチは花の蜜も食べるために、ミツバチは彼らと餌を奪い合わねばならなくなる。
ニホンミツバチの場合は彼らに対抗する技を取得した。襲ってくるスズメバチがいれば、一斉に群がって閉じ込め、胸の筋肉を震わせて発熱し、熱で蒸し殺してしまう必殺技「熱殺蜂球」を繰り出すのだ。
だがホバリングできるツマアカスズメバチの場合、これを回避するのがうまく、ミツバチにとっては非常に危険な相手となる。
マルハナバチは決死のダイブでスズメバチを撃退していた
ところが今回、英国エクセター大学をはじめとする研究チームが、スペイン各地の養蜂場を観察したところ、意外にもこのスズメバチが撃退されていることがわかったのだ。
観察されたのは、ポンテベドラ地域12ヶ所で商業的に飼育されたミツバチ科の「セイヨウオオマルハナバチ(Bombus terrestris)」だ。
空中でツマアカスズメバチに捕獲されたマルハナバチは、スズメバチをひきずりこんで地上めがけて決死のダイブを行い、見事にその魔の手から逃れていた。
マルハナバチとツマアカスズメバチは一緒に進化してきたわけではない。そのため、こうした防御術が通用するのは、ただの偶然かもしれない。
それでもこの作戦は実に効果的で、120回以上にわたる観察で、スズメバチがマルハナバチを狩るのに成功したことは1度もなかったという。
それでもスズメバチは危険な存在
ところが、原因ははっきりしないが、やはりツマアカスズメバチはマルハナバチに大きな影響を与えているようなのだ。
マルハナバチの巣の重さ(巣の成長の指標となる)を定期的に測定したところ、スズメバチがたくさんいる地域ほど巣の成長が遅いことがわかったからだ。
その理由ははっきりしない。もしかしたらスズメバチには有利で、マルハナバチには不利な環境があるのかもしれない。
研究チームの推測では、やはりスズメバチの存在がマルハナバチの成長を邪魔している可能性が高いだろうという。
今回の観察では、スズメバチの狩りが成功する場面は見られなかったが、それでも彼らがマルハナバチを食べていることがきちんと確認されているからだ。
またこうした襲撃から身を守る決死のダイブが、マルハナバチにとっては余計な負担となっている可能性もある。
マルハナバチは花畑でスズメバチからの絶え間ない攻撃にさらされつつ、危険な敵と花の蜜まで奪い合わねばならない。こうしたことがマルハナバチを苦しめていると考えられるそうだ。
この研究は『Communications Biology』(2023年10月5日付)に掲載された。
追記:(2023/10/17)本文を一部訂正して再送します。
References:Bumblebees drop to shake off Asian hornets - News / written by hiroching / edited by / parumo
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