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これからのステアリング技術

ステア・バイ・ワイヤという技術が最近注目を集めている。これまで大々的に使われることのなかった技術だが、クルマの走りや性能に大きな影響を与えるだけでなく、ドライバーが得るフィーリングも柔軟に調整できるようになってきた。

【画像】未来感満載のトヨタのステア・バイ・ワイヤ【レクサスRZ 450eとトヨタbZ4Xを写真でじっくり見る】 全46枚

ステア・バイ・ワイヤでは、従来の電動パワーステアリング・システム(EPAS、電動パワステ)のように電気モーター駆動のステアリングラックを使用するが、ステアリングコラムや人間のドライバーとは機械的に接続されていない。

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タイタン社の開発したステアリングラック    タイタン

最新の技術では、市街地での低速走行から郊外での爽快なドライブ、高速道路のクルージングまで、クルマのキャラクターと走行状況に応じた「特性」を正確に表現できるようになった。

今年トヨタbZ4Xに搭載され、2024年にはレクサスRZ 450eにも導入される予定だ。日産の海外向け高級車ブランド、インフィニティは約10年前にQ50に導入したが、万が一に備えてステアリングコラムが残されている。

「真」のステア・バイ・ワイヤは、先述の通りステアリングホイールとステアリングラックの間に機械的な接続がなく、電子的な接続のみが存在する。トヨタレクサスのワンモーショングリップはこれにあたる。

一見いかがわしいコンセプトに見えるかもしれないが、メーカーにとってもドライバーにとってもメリットは多い。前者にとってのメリットの1つは、作動油を使用しない “ドライ” シャシーを製造できる可能性があるということだ。車両の各サスペンションコーナーがあらかじめ組み立てられ、生産ライン上で固定され、文字通りプラグインされることで、面倒な作動油やそれに伴うすべてが不要になるというもの。

英国のタイタン社は、1960年代にレーシングカーの開発からスタートし、現在は高度なステアリング・システムを開発している。同社は最近、少量生産メーカー向けに精密なステア・バイ・ワイヤ・システムを開発した。将来的には少量生産車だけでなく、例えばスポーツカーや自動運転の配送車向けにカスタマイズされたシステムも実用化の可能性がある。ステア・バイ・ワイヤはそうした実用的な用途にも適している。

自動運転車には当然ながら自動ステアリング機能が必要だが、人間のドライバーにもメリットがある。例えば、可変ステアリングレシオ(ステアリングギア比)と可変ウェイトだ。機械的な接続がないため、直進巡航時にレシオを下げることができ、これにより不要な入力に対するステアリングの感度を下げ、敏感に反応しにくくなる。簡単に言うと、高速道路ではゆったりとリラックスしたクルージング、市街地ではテキパキとした走りをするといった二面性を実現できるということだ。

走行フィールの課題、メリットとは

ステア・バイ・ワイヤの機械的な仕組みは単純。ステアリングホイールがゲーム機のようにコントロールユニットを動かし、ステアリングラックの電気モーターが実際に車輪を動かす。

この2つをつなぐコンピューターの頭脳が、ドライバーのステアリング入力から信号を受け取り、ステアリングラックに中継する。注意点は、車輪の動きを決定するのはコンピューターであり、必ずしもドライバーではないということだが、そのメリットとして、ステアリングロックをほぼ無段階に変えられるということが挙げられる。トヨタレクサスの場合、駐車時の低速度でステアリングホイールのターンを左右わずか150度まで減らすことができる。

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ステア・バイ・ワイヤを導入するレクサスRZ    レクサス

ステア・バイ・ワイヤは、事故回避のような半自動的な安全システムにおいてもメリットがある。万が一の際にドライバーが素早く反応できなかった場合、車両側がステアリングを切り、回避を試みることができる。

タイタン社の技術責任者であるポール・ウィルキンソン氏は、ステア・バイ・ワイヤがもたらす「チューニングのしやすさ」が大きなメリットだと考えている。直線のクルージングと市街地走行を区別するアルゴリズムにより、走行状況に合わせてフィードバックを調整することができる。

あるいは、現在と同じように、走行モードを任意で選択することもできる。サスペンションの「スポーツ」と「コンフォート」、パワートレインの「ノーマル」、「スポーツ」、「エコ」など、ドライバーの設定に応じてステアリングのレスポンスとフィーリングを適応させるのだ。

電動パワステが登場した当初は、それまでの油圧機構と比べてフィーリングやフィードバックに欠けるというデメリットがあった。しかし、エレクトロニクスの進歩により、開発エンジニアは内部摩擦や周囲温度の変化さえも補正できるようになった。

ウィルキンソン氏によると、路面からのフィードバックをステアリングホイールに伝える際の最大の問題の1つは、ステアリングラックを作動させる電気モーターの慣性であり、事実上、ドライバーへのフィードバックがほとんど届かないことだったという。

そこでタイタン社は、電気モーターの慣性のデジタルモデルを作成し、制御ソフトウェアでそれを補正することでこの問題を解決した。車輪からドライバーの手にフィードバックが伝わるよう、電気モーターが反応するという。

運転が苦手なドライバーにとっては、小径ホイールやジョイスティックなどで運転できるというメリットもある。民間および軍用の航空機分野でも長年フライ・バイ・ワイヤが使われてきたが、システムは完全に冗長化されており、重要なハードウェアないしソフトウェアが故障した場合でも、すぐに対応できるよう機械式のバックアップが用意されている。


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