製造強国への仲間入りを目指す中国は、「中国製造2025」を掲げ、独自のやり方で急速な進展を見せています。本記事では、株式会社伊藤忠総研・主任研究員の趙瑋琳氏による著書『チャイナテック 中国デジタル革命の衝撃』(東洋経済新報社)より、産業の高度化を目指す「中国製造2025」について解説します。

産業の高度化を目指す「中国製造2025」、3つの狙い

建国100年を迎える2049年までに「世界の製造強国のトップグループ入り」を果たすことを長期戦略とする中国は、2015年に次世代情報技術や新エネルギー自動車開発など重点10分野(図表)を設定し、巨額の助成金を投入して産業の高度化を目指す経済政策「中国製造2025」を公表しました。

中国の製造業をアップグレードさせ、世界における競争力を高めるための2016年から10年間の行動計画を示したグランドデザインで、長期戦略の第一段階として、25年までに「製造強国の仲間入り」を果たすことを目指しています。

図表に示した通り、重点10分野には次世代通信規格5Gが含まれ、他に先端的鉄道整備、新素材バイオ医療・高性能医療機械などがあります。

10分野には合計23品目を指定して、品目ごとに国産比率の目標値を設定しています。例えば、5Gの移動通信システムでは、25年に中国市場で80%、世界市場で40%という高い目標を掲げています。

中国政府にも衝撃を与えた2010年代の中国人の「爆買い」

中国製造2025」には具体的な三つの大きな狙いがあります。一つ目は、製造業のローエンドからハイエンドへの脱皮です。

2010年代中葉の中国人観光客の「爆買い」は日本で大きな話題となりましたが、中国政府にも衝撃を与えました。世界の工場と称されながら、ローエンドの中国製品が自国民からさえ支持されていないことを目の当たりにしたからです。品質向上により、中国製品の「低価格・低性能」のイメージを払拭することが「中国製造2025」の狙いの一つです。

二つ目の狙いは、中国が直面する生産年齢人口の減少と人件費の高騰という課題の克服です。この課題を解決するため、中国では工場の無人自動化を進める産業用ロボットの需要が高まっています。国産のロボット産業でその需要に応えることも「中国製造2025」の狙いなのです。同時に、産業のデジタル化の加速も目指しています。

そして、三つ目がハイテク・次世代産業の育成です。特に、輸入制限を受け易く供給が安定しない素材やコア部品の国産化を急いでいます。

中国政府は重点10分野に取り組む企業に対して、減税や低利融資といった資金支援に加え、「中国製造2025」に特化した補助金(中国語では「専項資金」)を交付する優遇政策を実施しています。

貿易摩擦の標的にされた「中国製造2025」

2018年春に勃発した米中貿易摩擦で、米国政府が真っ先に矛先を向け撤回を求めたのは、「中国製造2025」でした。補助金交付や国産比率の設定は不公正な国内企業の保護政策に他ならず、外国企業が不利益を被るというのが表向きの理由ですが、背景には次世代情報技術をめぐる米中の覇権争いがあると指摘されています。

米中対立が激化するなか、「中国製造2025」は軌道修正を迫られ、逆風に晒されているのは事実です。しかし、中国政府や中国メディアによる表立った宣伝こそ激減はしましたが、製造強国を目指す中国の産業振興の動きが止まるわけではありません。

中国流の産業振興の進め方

中国政府は、産業の高度化で先行する地域や企業をモデルとして、他地域や企業に波及効果を及ぼすという方法で「中国製造2025」の目標を達成しようとしています。先行モデル地域で、製造業のデジタル化を実現するパイロット拠点の一つとなっている広東省仏山市の取り組みを紹介しましょう。

仏山市は、上海を中心とする長江デルタと比肩し中国の製造業を代表する中国大陸南部の珠江デルタに位置します。約900万人の人口を抱え、セラミックやディスプレー、白物家電メーカーなどの集積地を擁する製造業の町として知られています。2019年には域内総生産が初めて1兆元(約16兆円)を突破し、広東省内の深圳市と広州市に次ぐ経済規模に成長しました。

仏山市は近年、「機器換人」(人間の労働力にとってかわる機械の導入)のスローガンの下、ロボットやAI技術の活用などを通じ、製造業のスマート化を積極的に推し進めてきました。その結果、工場の自動化と無人化が進み、既に400超の企業が「機器換人」を実現しています。

例えば、世界の企業を番付するフォーチュン・グローバル500にランクインし、仏山市を代表する大手家電メーカーミデア(美的集団)は、スマート製造に積極的に取り組む企業の一つです。2017年1月には世界トップクラスのドイツのロボットメーカークーカ(KUKA)を買収し、産業用ロボット市場にも攻勢をかけています。

仏山市の他にも、内陸では山東省の青島市などでも製造業のスマート化は進行しています。

仏山市や青島市は製造業スマート化の先進的な事例であり、スマート化が中国全土に広がっているわけではありません。が、先行モデル都市を作って、そのノウハウを他地域に広げていくのが中国流の産業振興の進め方なのです。

趙 瑋琳

株式会社伊藤忠総研 産業調査センター

主任研究員

(※写真はイメージです/PIXTA)