第二次世界大戦中のドイツが計画したイギリス本土上陸作戦。これは結局中止となりましたが、このとき本土上陸を想定した「潜水戦車」という特殊な車両が開発されました。

英本土上陸用に計画されたが…

第二次世界大戦中に「ゼーレーヴェ(アシカ)作戦」という名称で計画されたドイツによるイギリス本土上陸作戦は、1940年10月18日に、最短でも1941年春までの延期が決まります。その後ドイツソビエト連邦独ソ戦に突入しこの作戦は実行されることなく終わりましたが、このときイギリスの本土上陸を想定し「潜水戦車」という特殊な車両が開発されていました。

1940年6月25日、約1か月という短期間でフランスを屈服させたナチス・ドイツでしたが、あまりに急すぎたため、残った敵であるイギリスをどうするか、方針が全く決まっていませんでした。

そもそもドイツは、1935年3月16日に再軍備を始めましたが、大規模な上陸作戦を行う上陸用舟艇の数が揃っておらず、1940年4月のノルウェー侵攻(ヴェーザー演習作戦)では、イギリス海軍相手にドイツ艦艇の多くが喪失あるいは重大な損傷を受けており、上陸に必要な能力が決定的に欠けていました。

それは戦車も同じで、全く上陸作戦は想定しておらず、かといって新たに水陸両用の車両を作るには時間がなく、既存の戦車を水陸両用にしようと考えます。

そこで、当時の主力であったIII号戦車IV号戦車に潜水能力を持たせ、海底を走らせようと開発されたのが、III号潜水戦車とIV号潜水戦車でした。

結局海ではなく川で使用された!?

車体そのもの改造はほぼなく、車体各部のハッチ類、砲の防盾基部、照準器用開口部、同軸機関銃開口部、車体銃開口部など、水が入り込みそうな穴にゴム製の防水シールを施したうえ、さらに転輪などの取付部やその他の微細な隙間にはグリースを塗り込んで水密化を施しました。

ある程度の深さから英仏海峡を潜り上陸することを想定し、水深15mまでの潜水が可能で、水中を移動中は、吸排気口に接続されたシュノーケルのような逆止弁のあるホースの先端にブイを装着することで、吸排気を行う方法がとられました。走行不能になった際の脱出用呼吸器具なども備えられていたようです。

結局ゼーレーヴェ作戦は中止になってしまい、英仏海峡で投入されることはありませんでした。しかし独ソ戦の序盤、渡河用にシュノーケルを固定式のパイプに変更するなどの改良が施され、戦場で使われることとなります。これら潜水戦車は独ソ戦初期のドイツ軍の快進撃を影で支えました。

ちなみに、現在ドイツ軍が採用している主力戦車「レオパルト2」にも、潜水機能が備わっており、通常で1.2m、シュノーケル装着時は4mまで潜ることができます。

テスト中のIII号潜水戦車、ホース式のシュノーケルが確認できる(画像:連邦公文書館)。