動乱の砂漠から、その男は脱出できるのか!?注目のアクション『カンダハル -突破せよ-』(10月20日公開)がいよいよ日本に上陸する。舞台は政情不安のアフガニスタンイランでの核施設爆破ミッションを完遂したCIA工作員トム・ハリスは、次なる任務を受けてこの地に飛ぶ。ところが、CIA内からのリークにより先のイランでの極秘作戦が明るみに出て、正体が世界的に報道されてしまった。イランの精鋭部隊はもちろん、タリバンやISI(パキスタン軍統合情報局)ほか世界中から追われることになった彼は、唯一の味方である現地出身の通訳モーと共に、CIA基地があるアフガン南部のカンダハルを目指して逃亡を繰り広げる!

【写真を見る】屈強なスパルタ兵や熟練のシークレットサービスを演じてきたジェラルド・バトラーが百戦錬磨のCIA工作員役に!(『カンダハル -突破せよ-』)

『300 スリーハンドレッド』(07)や『エンド・オブ・ホワイトハウス(13)などのシリーズでおなじみのジェラルド・バトラーが、主人公のトムに扮して決死の逃避行をスリリングに体現。カーチェイスや戦闘、爆破など、迫力のアクションも緊迫感にあふれている。また、実際にアフガニスタンに何度も派遣された元アメリカ国防情報局職員ミッチェル・ラフォーチュンが脚本を手掛けているだけに、物語のリアリティも圧倒的。これらはもちろん大きな見どころだが、ドラマ面でも本作には様々な注目ポイントがある。ここでは、その要素を紹介。類似作品を挙げながら、見応えたっぷりの本作について解説していこう。

■『アメリカン・スナイパー』に通じる“戦場の英雄”としてのキャラクターの魅力!

まず注目したいのは、主人公トムの“戦場の英雄”的なキャラクターの魅力。百戦錬磨のトムは、もともとは英国諜報部MI6の所属で、その辣腕ぶりが広く認められ、本作の時点ではCIAに出向している。状況を的確に把握し、素早く行動、偽装任務も得意としている。もちろん戦闘の訓練も受けており、危機に直面した際には反撃にも打って出る。言うなれば、諜報という分野のプロ中のプロフェッショナルだ。

それは、実在の狙撃兵の“生”を描いたクリント・イーストウッド監督作『アメリカン・スナイパー』(14)の主人公と共通する部分がある。イラク戦争で多くの戦果を挙げ、米軍内ではレジェンドと称される一方、敵からは賞金首にされるほどの狙撃のプロフェッショナル。それゆえに、より危険なミッションの渦中へと放り込まれていく。『カンダハル -突破せよ-』の主人公トムとは、我が子を思う父親という点でも境遇が似ている。

ほかにも「タイラーレイク 命の奪還」シリーズでクリス・ヘムズワースが熱演した傭兵のようなタフネス、揺るぎない信念を持って銃を持たずに闘う『ハクソー・リッジ』(16)や自軍の仲間たちの命を守るために戦場を駆け抜ける『1917 命をかけた伝令』(19)の主人公にも似た大きな戦功が連想されるところ。いずれにしても、戦闘アクションの主人公として、とてつもなく魅力的なキャラクターだ。

■『西部戦線異状なし』を思わせる無慈悲に命が奪われる“戦争の悲惨さ”

とはいえ、『カンダハル -突破せよ-』は単にヒロイックな戦闘アクションではない。戦争がもたらした生々しい傷痕を見据えており、平和の重要性もしっかりと訴えている。トムはアフガニスタンからの脱出任務に臨む一方で、イランでのミッションの仲間や、古くからの盟友の死に直面することになる。ミッションに伴う犠牲ではあるが、やりきれない気持ちは隠せない。また、彼と行動を共にするモー(ナヴィド・ネガーバン)も、戦争で最愛の息子を失ったという悲痛な過去があり、深い悲しみから抜け出すことができない。戦争には、このような無慈悲な死別がつきものだ。

戦争の悲惨さにフォーカスした作品では、第96回アカデミー賞で9部門にノミネートされ、国際長編映画賞など4部門に輝いたドイツ映画『西部戦線異状なし』(22)が記憶に新しい。第一次世界大戦の惨状を若いドイツ兵の立場から見つめた本作。死んでいく者は常に最前線に置かれた末端の兵士で、仲間の死を目の当たりにするのは日常茶飯事だ。時には無能な、もしくは非情な上層部の判断ミスにより命を落とすこともある。

『カンダハル -突破せよ-』で最前線に立つトムも、上層部に捨て駒にされかねない立場にあり、それは戦争の非人間性を生々しく伝えている。このような戦時における人命の軽さは、すべての戦争映画に宿っているといっても過言ではなく、ソマリアでの軍事作戦中に暴徒化した民衆に包囲されてしまった米軍の惨状を描く『ブラックホーク・ダウン』(01)をはじめとする作品が思い起こされるだろう。

■危機的状況を的確な判断と勇気で切り抜けていく「ガールズ&パンツァー」のようなエンタメ感!

3つ目のエッセンスとして取り上げるのは、危機的状況を打開する脱出劇としてのおもしろさだ。アフガニスタンの国土は決して狭くないし、1人の人間がそこから抜け出すことにはとてつもない危険が伴う。敵がどこに待ち受けているのかわからないし、旧知の友と思われた人物も状況次第では敵に転じることもある。さらに、未知の砂漠や丘陵地帯は徒歩で進むには困難で、灼熱地獄も手伝い容赦なく体力を奪い取る。独特の気候や自然は、現地を知る者に有利に働くのだから、アウェーの立場のトムには圧倒的に不利な条件だ。それだけに、この状況をどう乗り越えるのかが本作のおもしろさとなっている。

決死の覚悟で生存を図るサバイバルアクションという意味では、敵地に迷い込んでしまった兵士の奮戦を描く『エネミー・ライン』(01)や『ローン・サバイバー(13)、麻薬カルテルの殲滅作戦中にエージェントの主人公が想定外の事態に陥ってしまう『ボーダーラインソルジャーズ・デイ』(18)とも共通するところ。さらに、意外と思われるかもしれないが、最新作『ガールズ&パンツァー 最終章 第4話』(公開中)が現在公開中のアニメーション「ガールズ&パンツァー」との類似性にも言及したい。

戦車道”と呼ばれる架空の武道を題材にした作品で、主人公の西住みほ(声:渕上舞)が牽引する大洗女子学園チームの活躍が見どころ。廃校寸前の弱小校でバラバラだったチームが、みほを中心に団結し、彼女の状況に合わせた様々な作戦や対応力を駆使して強豪校を次々と破っていく。経験豊富なトムもまた、逃走車両が追手にバレていると気づいた瞬間、すぐに近隣住民のトラックに乗り換えて方向転換。追撃してきた武装ヘリ相手にも、地形をうまく利用しながら生身で迎え撃つなど、その場その場での最善策を導き出そうとする。機転と勇気を武器に逃走を続けるそれらのアクションにハラハラさせられ、エンタメとしても楽しめる作品になっている。

3つのエッセンスについて解説してきたが、本作にはほかにもドラマ的な見どころがある。娘の卒業式に出ると約束したトムの、なにがなんでも母国イギリスに帰ろうとする意志。心を通い合わせたモーを、生きてアメリカの家族のもとへと帰そうとする奮闘。家族愛や友情といった絆のドラマのエモい味わいもまた、観る者の心を引きつける重要なエッセンスだ。様々な要素が絡み合い、エキサイティングなクライマックスへと突入する『カンダハル -突破せよ-』。戦場の壮絶なドラマを、ぜひ体感してほしい。

文/有馬楽

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