高齢ドライバーの規制が進まない中で、また幼い命が奪われた。

 10月17日の午前10時45分頃、北海道釧路市の市立釧路総合病院の駐車場で、4歳の女児とその母親が乗用車にはねられた。2人は同病院に搬送されたが、女児は全身を強く打ち、間もなく死亡が確認されている。母親は腰の痛みを訴えているという。

 釧路署は自動車運転処罰法違反(過失運転致傷)の疑いで、乗用車を運転していた77歳の無職男性を現行犯逮捕した。地元テレビの報道によると、自宅から病院までは容疑者の妻が運転し、駐車場で容疑者と運転を交代した直後に、母親と女児の方向に急発進したという。暴走した時点でペダルから足を外せばいいものを、母子を轢いた上に再度バックして、女児を轢いた。夫婦揃って車庫入れも満足にできないなら、免許を返納していれば起きなかった悲劇だ。

 容疑者が運転していたのは、2019年に12人の死傷者を出した池袋母子殺傷事故、2021年に大阪府内のスーパーに車が突っ込んだ事故、そして今年2月に北九州市で3台の車と道路周辺の民家に次々とぶつかり3人が受傷した暴走事故を起こした「あの車」だった。

「あの車」は無音で暴走するため、通行人や自転車はぶつけられる直前まで、車が近づいていることに気が付かない。事故にはならずとも、住宅街や通学路でヒヤリとした経験がある人もいるだろう。「ステルスミサイル」と揶揄されるゆえんだ。

 人気車だから事故が目立つだけだ、という反論もある。シフトレバーゲーム機のコントローラーのようで、ゲームに慣れている世代には持ちやすく、操作しやすいが、高齢者は別だ。シフトは昔ながらのAT車のように縦に一直線に並んでおらず、表記も特殊。どこにシフトが入っているのかも、わかりづらい。

 高齢者には昔の記憶ははっきりしているが、直近のことは覚えられないという特性がある。ただでさえアクセルペダルとブレーキペダルを踏み間違えるような年代に、新たなレバー操作は覚えられない。そして白内障が進んでレンズが白濁した高齢者の目には、鮮明な運転席のパネルやシフトレバー表記は、乱反射して見えづらい。先端技術に、高齢ドライバーの特性も残存機能も追いついていないのだ。

 中古車販売業者の中には「弊店は高齢者に『あの車』は勧めません。運転し慣れたシフトレバーと同じ仕様の中古車を勧めます」と店舗公式サイトで宣言しているところもある。顧客を「犯罪者」にしないための、良心的な対応だろう。

 車がないと生活できない地方に考慮して運転免許に年齢制限を設けられないなら、せめて重大事故を何度も起こしている「あの車」を後期高齢者に売らないよう「販売規制」に乗り出せばいいのに、既存メディアはダンマリを決め込んでいる。

 テレビ局にはスポンサー企業幹部の子供も就職している。それが報道に影響しているとは思いたくないが、高齢ドライバーが起こした死亡事故を報じるのみで、また悲劇が繰り返されることに、もはやメディアにいる我々も視聴者も「無力感」しかない。

 池袋母子殺傷事故の遺族である松永拓也さんはXの公式アカウントで、

〈あの時の苦しみを思い出し、また誰かがあの体験してしまっていると思うと悔しい〉

 そう苦悩を絞り出しながらも、次のように締めくくっている。

〈高齢者の幸福度がなるべく落ちないようにしつつ、出来る限り被害者が生まれないようになんとか出来ないか。本当に社会全体で考えていかなくてはいけないと思う。誰しもがいずれは高齢者になるし、誰しもが被害者にもなり得るからこそ〉

 悲惨な事故はもうこりごり。今こそ動き出すべきだろう。

(那須優子)

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