SNSを媒介として密かに進行する薬物汚染は、夜職の女性のあいだでも広がっている
SNSを媒介として密かに進行する薬物汚染は、夜職の女性のあいだでも広がっている

違法ドラッグが今、夜の街で爆発的な広がりを見せている。

【写真】六本木で警察署長が薬物の注意喚起

その"主役"となっているのは、覚醒剤ヘロインなどハードなものではなく、大麻やMDMA、ケタミンといった比較的ソフトなものだという。港区・六本木のラウンジで働く亜里沙さん(22歳・仮名)が実態を語る。

「アフターで連れられて行った西麻布の個室系バーで、お客さんから勧められたのがきっかけでした。一番始めにやったときは男性3,女性3というメンツだったんですが、折り曲げられたストローが回ってきて。『片方の鼻を指で押さえて、逆側で思いっきり吸い込んで』と言われるままに鼻の穴から吸い込んだら、めっちゃすごかった。

視界は歪み、体は自然と揺れて、トイレに行こうにも足元がおぼつかずにフラフラしてしまう。カラオケを歌おうにも呂律が回らず、しゃべることもままならない。その場にいるみんながフラフラになってる状況が面白すぎて、爆笑したんです」(亜里沙さん)

■「MDMAやコカインも回ってきた」

このとき亜里沙さんが吸ったのはケタミンだった。透明な結晶がパケに入れられ、それを細かく砕き、ストローや鍵を使って鼻から吸い込んだという。

「麻酔薬の一種らしく、『海外では象の麻酔に使われている強力なものだ』ってお客さんは言ってました。一回吸ったら20~30分ほどトリップが続いて、ふんわりと現実世界に戻ってくる感じ。悪酔いしたり、翌日に持ち越すことも私はまったくなかった。『あ、これ楽しいやつじゃん』って思いました」(亜里沙さん)

この体験を機に、亜里沙さんのドラッグへの意識は開放的になってしまった。別のアフターの席では、ケタミンとともにMDMAコカインが回ってきて、抵抗なく受け入れるようになってしまったという。ケタミンが、いわゆるゲートウェイドラッグの役割を果たしてしまった形だ。

MDMAは錠剤で飲むと胸の奥から幸せが込み上げてくるようなかんじで、超気持ちよかった。気づいたらお客さんといい感じになって、トイレでずっとイチャイチャしてました。

コカインは"気付け"みたいな感じで、テキーラとか強いお酒を飲まされるときにあるとシャッキリできるので便利だと思った。ただ、どちらも翌日けっこう辛いので、なるべく回数を減らすようにはしています」(亜里沙さん)

■客のところまで届けるスタイルが普及

ケタミンを入り口に、ドラッグへの世界へと足を踏み入れてしまった亜里沙さん。彼女によると、こうした違法薬物はラウンジ嬢やキャバクラ嬢の間で相当流行っているらしく、「見たことがないっていうコのほうが少ないのでは。やったことあるコは、どうだろう。3人か4人に1人は経験あると思います」と語る。

流行の背景には、流通経路の進化という側面が深く関わっている。都内で違法薬物の売人稼業に携わる某氏が語る。

東京・六本木の街頭で、薬物乱用の危険について呼びかける警視庁麻布署長
東京・六本木の街頭で、薬物乱用の危険について呼びかける警視庁麻布署長


「一世代前のネタの売買って、客が我々のところまで来て買っていくケースが大半だった。シャブ、大麻、MDMAコカイン、ケタミン。扱ってる品種に寄らず、客は向こうから来るものだった。

それが今は逆で、我々売る側がお客さんのところまで届けるスタイルになった。これはTwitter(現・X)なんかの影響が大きいね。

『手押し』と呼ばれるプッシャーたちが、SNSで集客して、客のところまで届ける。客はその場で使い切る分とちょっと、を注文してくるんだけど、足りなくなって追加発注がその日に来るケースも多い(笑)。都度、足代をつけてくれるような上客が港区界隈には多いから、よいビジネスですよ。

実際に品物を届けさせるのなんてネットで拾ってきた若いやつなので、俺らが捕まるリスクは格段に減ったし、職質されたとき、万一逮捕されたときのマニュアルなんかも徹底させてます」(売人の某氏)

■シャブの炙り動画が配信された

SNSがドラッグ市場に与える影響は、「宣伝」という意味でも大きいようだ。前出の売人が語る。

「悪ふざけなのか何なのかしらないけど、ドラッグやってる姿を動画で載せちゃう奴って結構多くて。こないだ覚せい剤をあぶってる動画を顔出しで載せるかわいい子がTwitter(現・X)にいてさ。ガラスパイプに器用にライターの火をあてて、思いっきり吸引してるの。

あの日はいつもよりシャブの注文多かったもんね(笑)。他にも注射載せるやつ、大麻のジョイント巻いて吸うやつ。ちょっと検索すればたくさん出てきます。あれ見て湧いちゃってる中高年も意外と多いよ」(売人の某氏)

夜の街からSNSまで、至るところで浸透の兆しを見せるドラッグ。これ以上深刻な社会問題とならなければよいが‥‥。

●吉井透 
フリーライター。中国で10年、米国で3年活動したのちに帰国。テキストメディア以外にも、テレビやYoutubeチャンネルなど、映像分野のコーディネーターとしても活動中。

文/吉井透 写真/photo-ac 時事通信社

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