インターネットで誹謗中傷を繰り返されたとして、プロゲーマーの男性が投稿者の特定をすすめたところ、面識のある人物が契約しているネット回線が使われていたことが明らかになった。

この知り合いのAさんは一貫して、自分は投稿していないと否定している。男性が損害賠償をもとめる裁判を起こしたが、1審・東京地裁は第三者による投稿だとして、請求を棄却した。

しかし、今年9月の控訴審・東京高裁は、1審判決を変更し、Aさんによる投稿と認めて賠償を命じた(10月17日付で確定)。さらにAさんが「隠ぺい行為」をしていたことまで認定した。

原告男性は、弁護士ドットコムニュースの取材に対して「嘘を嘘であると証明することの難しさを痛感しました」と語る。何があったのか。(ニュース編集部・塚田賢慎)

●争点は「誰が投稿していたのか」

原告は、プロの音楽ゲームプレイヤーとして活動するDOLCE.(ドルチェ)さん。2006年ごろからネット掲示板で誹謗中傷されてきたという。

「色々感覚おかしくて気持ち悪い」「デブ」などの侮辱を受けたため、いくつかの匿名の投稿について特定をすすめたところ、開示手続きによって、インターネット回線の契約者は、知り合いのAさんだとわかった。

判決文によると、2人は10年以上前からの知り合いで、一緒に動画配信などで共演したこともある関係だ。一方で、配信の収益分配をめぐって揉めたことがあるという。

プロバイダからの意見照会で、Aさんは「自分の発信ではない」と否定。Aさんの元交際相手Bさん名義で「私(B)が書いた」という回答もあった。

損害賠償の裁判が始まると、今度はAさんは第三者のCさんが書き込んだと主張。Cさんは「自分がAさんの部屋を利用して、問題の投稿をおこなった」と証言した。

DOLCE.さん側は、Aさんが「身代わり」としてCさんを立てたと主張したが、今年2月3日の1審・東京地裁(俣木泰治裁判官)は、Cさんによる投稿として、請求を棄却していた。

ところが、控訴審・東京高裁(三角比呂裁判長)は、AさんがBさん名義の回答をするなど「隠ぺい行為」をしていたことを認めただけでなく、Cさんの証言も信用性に乏しく採用せず、Aさんが侮辱の投稿をしたとして、計33万円の支払いを命じた。

1審判決からの変更には、控訴審で証人となったBさんの影響が小さくないようだ。

元交際相手Bさんは、Aさんとの会話の内容として「Aさん自身が投稿したことを認めつつ、部屋に遊びに来ていた者が投稿したという虚偽の回答をする」といった話をしていたと証言した。

●DOLCE.さん「日本の司法制度にも強く疑問を抱いた」

弁護士ドットコムニュースは、控訴審判決を受けて、双方に取材依頼した。

最高裁への上告の考えや、控訴審判決で「Aさんの隠ぺい行為」が認められた点について、Aさんに尋ねたところ、回答が得られないうちに、東京高裁が取材に判決確定を明らかにした。この記事が出たあとでAさんから回答が届いたので、その一部を後段で紹介する。

DOLCE.さんは次のように回答した。

「やっと認められたのだと、ほっとしています。

最初は、裁判が始まると投稿者が突然別の人物に代わるなど、本来考えられないような主張が繰り返され、『流石にそんな嘘は認められないだろう』と思っていました。

ですが、1審の判決では相手の主張が認められ、信じられない気持ちでいっぱいでした。

『身代わりをたてられれば、具体的な証拠など一切なくても発信者として認められる』という判例ができることの今後の影響の大きさも計り知れないと思いましたし、何より日本の司法制度にも強く疑問を抱きました。

そのため、控訴審で本人の書き込みであること、裁判で嘘をついたこと(隠ぺい行為を行ったこと)が認められて、本当に安心しました。

同時に、加害者の『言ったもの勝ち、主張したもの勝ち』に立ち向かう辛さや、嘘を嘘であると証明することの難しさを痛感しました」(DOLCE.さん)

DOLCE.さんの代理人をつとめた藤吉修崇弁護士は、匿名の投稿を突き止めようとしたとき、投稿者が「身代わり」を立てることができてしまう現状を問題視する。

「身代わりの弊害は真の発信者がわからなくなることです。現に1審判決では高裁で身代わりとされた人物が書き込んだと認定されています。ただ、現実的にこの問題を回避するのは、現在のネットや法律の仕組み上、難しいと思っています」(藤吉弁護士)

⚫️Aさんの回答

この記事が出たあとで、質問への回答がAさんから届いた。

「事実認定に関する上告は行っても仕方ないと思いますので、上告はしておりません」

「こちらとしては断じて書き込みを行っておりませんが、先の通り事実認定に関して上告しても仕方ないので、あくまで高裁の判断として認識するほかありません」

「書き込みをしているのは確実にこちらの主張通りの人物です。したがって、こちらとしては隠ぺいという認識はありません」

また、判決文には「ゲーマー」と記載されているものの、Aさんは自身について「私はまったくゲームを生業としていない一般人でまったく同業者でもないです」と説明した。

10月20日午前10時15分、Aさんの回答内容を追記した) (10月23日午前10時29分、見出しと記事の一部を修正した)

プロゲーマーが侮辱投稿を特定したら「知り合い」だった…逆転勝訴で認定された「隠ぺい行為」が示す課題