三宅裕司、小倉久寛らを中心に創立された劇団スーパー・エキセントリック・シアター。アクション、ダンス、歌、笑いをふんだんに取り入れ、わかりやすくて誰が見ても楽しめる“ミュージカル・アクション・コメディー”を40年以上にわたって作り続けてきた。第61回本公演では、とある地方都市を舞台にしたスパイアクションが描かれる。

劇団SETが最も得意とするアクションの集大成となるような作品だという本作。10月19日(木)からの開幕に向け、大詰めを迎えた稽古場で行われた通し稽古を取材した。

<あらすじ>
とある平凡な地方都市に潜入した 2 人の男。1人は国家を守る特殊部隊の精鋭、もう1人は世界中で暗躍する腕利きのスパイ。彼らのミッションは、極秘に開発されたと噂される超小型スーパーコンピュータの回収。
純朴な町の人々を巻き込んで、水面下の攻防戦が繰り広げられる。 超小型スーパーコンピュータの全貌とは一体?そして彼らの命がけのミッションは成功するのか?!


今回は、公安の特殊部隊スパイ組織が暗躍する骨太なストーリー。冒頭からキレのあるアクションがフルスロットルで繰り広げられる。稽古中のため衣裳やセットは完全ではないものの、空間を余すことなく使った派手で見応えのあるアクションに一瞬で引き込まれた。また、稽古場の距離で見ると一人ひとりの身体能力の高さや無駄のない動きの美しさに改めて驚かされる。緊迫した雰囲気の中、着地の衝撃まで伝わってきて、思わず息を呑むほどの迫力があった。

とはいえ、カッコいいだけではないのが劇団SET。冒頭のアクションで魅せたかと思うと、すぐに公安特殊部隊の隊員・隊長が時事ネタを交えたコミカルな掛け合いを披露して笑いを誘う。

また、シリアスな設定が提示され、王道スパイアクションが繰り広げられるぶん、町の人々のシーンの和やかな様子にホッとする。道の駅で採れたての野菜を売っていたり、みんな気さくに旅行者に話しかけたりと、こんな町がどこかにありそうだと思わせるリアリティがある。

もちろんアクションだけでなく歌とダンスも健在。町民文化祭のシーンでは、ラップと女性ボーカルによる面白さとカッコよさを両立したパフォーマンスで場を沸かせたり、アクション研究会を演じるメンバーによる軽やかで華のあるアクションを披露したり。女性陣のパワフルな歌唱や和と洋のコラボレーションのようなダンスなど、ストーリーの本筋以外の部分にも楽しさが詰まっている。 町民一人ひとりが強いインパクトを残しているため、彼らの個性を楽しみつつ、「ここに潜入したスパイは大変だっただろうな……」といささか同情してしまう。

公安・スパイ陣営もシリアスから一気に笑いに振り切る場面が多く、出番は少なくても強烈な存在感を放つキャラクターが多数。パブリックイメージとのギャップで笑わせるキャラクター、ハラハラと笑いを同時に生み出すキャラクターなどが物語に華を添えている。劇団員の個性を活かしたネタや、劇団ならではのチームワークが感じられるシーンも楽しい。

座長の三宅と看板役者の小倉のやりとりでは、どこまでが台本かわからない掛け合いに、稽古に参加したスタッフや劇団員、取材陣からも大きな笑い声が。小倉のとぼけた雰囲気と、それに鋭くツッコミつつ時折反撃をくらう三宅のやりとりに、本番ではどんな笑いが飛び出すのかワクワクさせられた。

2人以外にも、本番での爆笑に向かって、稽古ではアドリブで手応えを試していたり、誰かがセリフを忘れると助け舟を出したり、思いがけないアクシデントから笑いが生まれたり。若手からベテランまで臆せず挑戦し、自分たち自身も楽しみながら魅力的な作品を作っている雰囲気が印象的だった。本番まで約1週間というタイミングでの取材だったが、ここからさらにブラッシュアップされ、芝居としての魅力も笑いも増すだろうという期待を抱かせてくれる。

全体を通してコメディーではあるものの、終盤で一気に熱いバトルアクションになるのも大きな魅力だ。山場となるシーンでは、小道具とセットも存分に活用し、見た目も音もド派手なアクションが展開される。アクションが好きな方にとってはたまらない見応えたっぷりな作品であると同時に、超小型スーパーコンピュータを巡る2人の男の生き様、平和な町が抱える秘密など、警察・スパイものが好きな方に刺さるだろうポイントもたくさん。一人ひとりの芝居を楽しめるシーンもふんだんに盛り込まれているため、見ている側も約2時間、ラストまでノンストップで熱中できるのではないだろうか。

思わぬ部分が伏線になっていたり、コミカルなシーンが王道の熱い展開に繋がったりと、シリアスとコミカルの緩急も心地よい。現代社会が抱える問題や身近な不安、この先起こるかもしれない問題も描かれており、笑いながら時折ハッとさせられる場面も。本番では衣裳やセット、音楽や照明が加わり、よりリアリティと迫力を増した、楽しくも考えさせられる作品に仕上がるのではないかと感じた。腹の探り合いや策略といった部分も描きつつ、一人ひとりのキャラクターに愛嬌があって憎めず劇団SETらしいユーモアに満ちた本作。難しいことは抜きで楽しめる極上のエンターテインメントを、ぜひ劇場で見届けてほしい。 

本作は10月19日(木)から29日(日)まで、サンシャイン劇場で上演される。

取材・文=吉田沙奈