※このコラムは『いちばん好きな花』1話までのネタバレを含んでいます。

■エモさの地雷があらゆる場面に散りばめられたストーリー

大ヒットドラマ『silent』の脚本家、プロデューサーの2人が送る、秋の新ドラマ『いちばんすきな花』。それだけでもう絶対おもしろいじゃん!? と期待にあふれる待望の第1話が放送されました。

もうとにかくエモい……人間関係における「二人組」にあらゆるトラウマのある4人のストーリーの中に、胸がチクっと痛くなるエモ地雷が多量に仕込まれています。

■唯一の親友との突然の別れ

主人公・潮ゆくえ(多部未華子)は昔から「二人組を作るのが苦手」。ゆえに友達がおらず、唯一の友人でもあり心を許せるのは、男友達の赤田(仲野大賀)だけ。

そんな赤田が彼女と結婚することに。親友の結婚ですから、ゆくえにとってもそれは喜ばしいこと。二人恒例のカラオケで、「結婚式では木村カエラButterflyを歌おう!」「ゆくえの時には安室ちゃんだ!」と大盛り上がり。そんな幸せの絶頂から一転。赤田との友人関係は終焉を迎えます。

■女友達に近い、ゆくえと赤田の友人関係

ある日、赤田の婚約者がゆくえの存在を男友達と勘違いしていたことが発覚します。

何もやましいことなく、純粋に友人関係だったはずの二人。しかしこの世には2つの宗派があります。「男女の友情は成立する派」「しない派」。

二人の間では成立していたわけですが、婚約者は「しない派」であったがために、赤田が婚約者の意思を尊重し、誠実に対応したことによって、ゆくえとの友情はある日呆気なく終わることになりました。

いつものカラオケで別れを告げられ、結婚式で歌うはずだったButterflyを歌いながら涙するゆくえ。婚約者のために部屋にも入らず、理由を告げ、結婚式で聞くはずだった曲を耳にしながら部屋を後にする、誠実な赤田。

いつものように楽しく歌いながら、二人で食べるはずだった山盛りポテトが運ばれてくる一人きりの部屋。あらゆるエモさが一つ一つの描写に詰まりまくっていて、もう胸が苦しくて呼吸できなくなります……。

ただ、この二人に男女の友情が成立するとしても、「頻繁に二人でカラオケに行く」「スタバの新作を飲みにいく」「洋服を買ったら変じゃないか見てもらう」の関係が結婚後も続いていたら、いくら妻が友情を許容できる派でも少しもやついてしまいそうです。

赤田との交流内容が、男友達というより、女友達に近いような印象を受けるからでしょうか。男女の友情といえど、これが3人組なら婚約者の受け止め方も、また違ったのかもしれません。

■松下洸平だから許されるど真面目感

春木椿(松下洸平)は昔から「二人組にさせてもらえなかった」男。

真面目でいい人だけれど、いい人止まり。つまらないと見なされて、二人きりの誘いのはずが誰かを勝手に呼ばれていたり……よくいる「結婚するにはいい人だけど……」というあれです。

どれほどかというと、仕事上で軽い飲みに誘われても「彼女がいるので二人ではいけません」と馬鹿正直に答えてしまうほどクソ真面目。これ松下洸平がイケメンだからまぁ許されますけど、フツメン以下がやったら「あぁー? 勘違いすんなよ?」となんだか違う火花が飛び散り、職場で距離すら置かれそうな感じです。

■椿はとにかく慰謝料ふんだくろ?

そんな彼には美人な婚約者がおり、彼女には頻繁に遊ぶ男友達がいました。もちろん人のいい椿はその関係を、一切疑問を持つこともなく受け入れていました。しかしある日、彼女からその男友達と一線を超えてしまった、と婚約破棄を切り出されます。それも電話一本で。婚約を交わし、二人で住む一軒家まで購入した段階でありながら、電話でって舐め腐りまくってます。

でもこれも、椿だから許してくれる、と「いい人」にあぐらをかかれている証拠ですよね。椿は今までもこうやって軽んじられて、搾取されることも多かったのでしょう。

とりあえず婚約者は自ら不貞を証言してくれてありがとう。まずは慰謝料を絞れるだけ絞って心の傷を癒やしましょう。

椿にもう一つ同情すべき点は職場のIT介護おじさんの存在ですね。業務に支障が出るレベルでエクセル足し算ができないんだけど〜?」と底辺すぎる質問で頻繁におじさんに呼び出しくらってIT介護をさせられてる様子に、また同情の涙が出ました。あるよね、こういうの。

あと春木椿って、全て「春」と「木」で名前が構成されているのもおもしろいですね。

■ただ生きているだけで勘違いされる女・夜々

深雪夜々(今田美桜)は「一対一で人と向き合うのが怖かった」女性。

かわいいがゆえに、男性には誘惑していると勘違いされ、女性には男に色目を使っていると勘違いされ疎まれ……当人はそんな気など一切ないのに、とんでもない未知のフェロモンが分泌されているのか? というくらい、生きているだけで勘違いされ、人と一対一で向き合うことができません。

職場の男性と話の流れで飲みに行けば、腕をつかまれ家に連れていかれそうになり……もちろんそんなつもりはないとはっきり伝えると、「友達というのを男と遊ぶ言い訳にするの良くない!」と、謎の逆ギレクソ男ムーブをかまされます。勝手に“いける”と勘違いしたくせに、いけないと分かった瞬間この言い草。

同僚にこれ言えちゃうこの男もすごいメンタル&ツラの皮ですが、こういうことが日常的にあるのでしょう。生きづらさと人間不信に苛まれそうな毎日です。

■夜々の問題のルーツとカタツムリの謎

幼少期の描写で、母の前ではプリンセス姿でお人形遊びをしていたのに、いなくなった瞬間ドレスを脱いで将棋を打ち始める、という場面があったので、この問題の根っこには、母との関係があるのかもしれません。いちばん近い家族である母に本当の自分を見せられない訳ですから。

それと、スマホの待受がカタツムリで、嫌なことがあった時に「カタツムリになりたい」を連呼していた理由も気になります。

ちなみに夜々が働く美容室の店名も「SNAIL」でカタツムリなんですが、もしや名前で働く店決めた? いやいやまさか。

■友達が欲しいのに、その他大勢になる男

佐藤紅葉(神尾楓珠)は「一対一で向き合ってくれる人がいなかった」男。

大勢の中にはいられるのに、一人の人間として自分に興味を持ってくれる人間がおらず、二人で遊ぶような友人がいない、という悩みを抱えています。グループの中にはいるんだけど、いてもいなくても変わらない。その他大勢、クラスのモブキャラ的な立ち位置といったところでしょうか。

久しぶりに友人から連絡が来たと思えばマルチの勧誘。この中の誰よりも友人を求めて行動しているのに、実にならない様子に胸が痛くなります。にしても、友人も会う前に「水を買わせたい」本題を電話で話してしまうとか、マルチの勧誘も下手くそか!

彼が必死で探している先生とはどんな存在なのかも気になります。

■男女の友情って成立する? しない?

同じ「結婚」という節目で、男女の友情が成立していたのに信じてもらえなかったゆくえと、信じていたのに成立しなかった春木。

そもそも男女の友情って成立するんでしょうか? その答えは、一概に成立する、しないとは言い切れず、時と場合と相手による、が正解な気がします。

赤田だって、今回はゆくえだから成立していただけで、性的に魅力を感じる相手であれば、友情は成立しなかったはずです。そのように一方がほんの少しでも異性として好意を持っていたら、いつでも恋に発展する可能性をはらんでいます。

例えば椿の婚約者のように、友人だったはずが、ふと男女としての関係に転がってしまうこともあるわけです。

ですので、互いに一切性的に魅力を感じない、という状況になった時に初めて友情として成立するのだと思います。ただ、本当に成立しているのかは、その二人の心を暴かない限り分かりません。無理やり成立させるために、一方が友情ではない気持ちをひっそり隠し持っている場合もあります。

つまり男女の友情は、外野からは分からない不確定な関係でしかない以上、赤田の婚約者のように、分からないものは排除すべき、という対応は一つの正解だったのだと思います。

一方で受け入れるには、椿のように全面的にパートナーを信頼するか、その関係が本当に友情かを自ら確かめにいくか、しかありません。

ゆくえも「自分が男ならよかったのに」と言っていたように、性別の違いって実は想像以上に大きなハードルなのかもしれません。

■全く価値観の違う4人

それぞれが「二人組」に大きなトラウマや悩みを抱える中、ひょんなことから4人が出会います。しかし、それぞれの「男女の友情」への価値観や、コミュニケーションの取り方が違うので、とにかく噛み合わない。

連絡先も交換せず、一度お茶をしたのみで解散しましたが、自らは連絡を取りにいかないであろう者同士が今後も関わるには、偶然の再会しかありません。人との関係をうまく築けない4人がどのように再会して、運命の糸が絡んでいくのでしょうか。

全く価値観の違う4人の化学反応が楽しみですね!

やまとなでし子)

男女の友情は成立する? エモ地雷が仕込まれすぎて呼吸困難になる新ドラマ【いちばん好きな花#1】