これまで数多くのトップスターを輩出してきた宝塚歌劇団。明日海りおは、約5年半の長きにわたって花組を牽引した伝説的タカラジェンヌだ。そんな明日海が主演を務めた日生劇場開場60周年記念 音楽劇「精霊の守り人」が、CS放送「衛星劇場」で10月21日(土)午後5時に放送される。明日海がいかに歌劇団の歴史のなかで光り、また退団後の現在も輝いているのか。本記事では、改めて明日海の魅力を確かめていく。

【写真】明日海りお凛々しい表情にうっとり…音楽劇「精霊の守り人」ポスターカット

■真琴つばさ主演公演に触れて宝塚の道へ

1985年に静岡に生まれた明日海。1歳からスイミング、3歳からバレエ、4歳からピアノと習字を習うなど、幼少期から体幹と音感を養っていた。宝塚を志すきっかけとなったのは、中学3年生の時に友人から借りた真琴つばさ主演の月組公演「LUNA-月の伝言-/BLUE・MOON・BLUE」のビデオ。音楽と共に場面が次から次へと転換していく舞台と、出演するキャストが衣装やメイクをくるくると変えていくことが新鮮に感じられたとのこと。

家族に「宝塚音楽学校を受験したい」と告げたとき、1度は猛反対されたという明日海。しかし3日3晩部屋にこもって泣き喚き、やがて発熱して寝込む姿を見て、「そんなに言うのなら受けてみなさい」と受験を許されたそうだ。思い込んだら一直線、宝塚にかける情熱の強さが伺える。もちろん受験できるとなっても“東の東大、西の宝塚”と評されるほどの難関校だが、明日海は1回目の受験で合格し、入団時の成績は8番目だった。

■宝塚ファン以外にも、宝塚の存在を周知させた「ポーの一族

2003年に音楽学校を卒業し、月組に配属。血の滲むような努力の末、2008年にトップスターの登竜門とされるバウ・ホール公演「ホフマン物語」、新人公演で「ME AND MY GIRL」、2011年に東上公演「アリスの恋人」で主演に選出され、徐々に頭角を表すようになる。

2012年には月組準トップスターに就任。当時トップだった龍真咲と共に、宝塚歌劇団の代表作「ロミオとジュリエット」「ベルサイユのバラ」で役代わりで主演を務めた。これまでにも、真琴つばさや紫吹淳とのブロマンス的なトップと2番手の関係性などはあったものの、事実上のトップと同格と呼んでも差し支えないほどの扱いは、劇団史上初。当時からどれほどの人気を誇ったかを象徴する、異例の抜擢だ。

このまま生え抜きのトップになるかと思いきや、翌年の2013年には花組に組み替え。2014年に満を持してトップの座に輝いた。

約5年半の任期の中で代名詞的作品として有名なのは、萩尾望都原作の舞台「ミュージカルゴシックポーの一族』」だ。脚本・演出を手掛けた小池修一郎が、萩尾に「いつか劇化させてほしい」と懇願し、30年以上の時を経て実現させた作品という逸話も。どんな条件を突きつけられても首を縦にふらなかったという萩尾が、目を輝かせて絶賛したという明日海の役作りは、永遠の時を彷徨うヴァンパネラであるエドガー・ポーツネルの妖艶さとはかなさ、物悲しさを余すところなく表現したクオリティで、それまで宝塚に興味のなかった層にも、宝塚歌劇団夢と現実の狭間を行き交うような世界観を広くアピールした。

■退団後も華やかな道を歩み続ける明日海の現在とこれから

“芝居の月組”で長年屋台骨として劇団を支えた抜群の演技力、“ダンスの花組”の名に恥じない華麗な身のこなし、そしてきらびやかなビジュアルで長年花組を率いた明日海。退団後はジェンヌ時代に培った表現力をますます進化させながら、テレビ、舞台など、あらゆる場で活動している。

2023年7月には、上橋菜穂子の人気小説シリーズを舞台化した「精霊の守り人」で主演。人間の世と精霊の世が交錯する世界で、精霊の卵を宿した皇子を守ることになった女用心棒バルサの役に挑戦し、凛としたアクションと華のある演技で観客を魅了した。特に宝塚時代とは違って対男性ということもあり、殺陣シーンの迫力は目が覚めるようだ。

ポーの一族」で演じた人ならざるエドガー役で、ヅカファン(宝塚歌劇団ファンを指す呼称)もそれ以外の観客も虜にした明日海が、ファンタジーの金字塔的作品で見せる新境地。期待して損することはないだろう。

明日海りお、音楽劇「精霊の守り人」が衛星劇場にて放送/(C)曳野若菜