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 人間はもともと雑食性の生き物だが、近年では野菜中心の食生活を送ることを志す人が増えている。だが、いざベジタリアン(菜食主義)になったものの、長続きしない人も少なくない。

 それはいったいなぜなのか?

 アメリカ、ノースウェスタン大学の新しい研究によれば、菜食を続けられるかどうかは、その人の持つ遺伝的特性に大きく左右されるという。

 これは、ベジタリアンと遺伝子の関係を調べた初めての研究で、人それぞれに合った食生活の考案や、より食べやすい代替肉作りなどを進める大切なヒントになるかもしれないそうだ。

【画像】 菜食生活が続かない人は意外と多い

 「誰もが完全に野菜だけの食事で長期間生きていけるものなのでしょうか?」と、ノースウェスタン大学ファインバーグ医学部の病理学名誉教授ナビール・ヤシーン博士はプレスリリースで問いかける。

 ベジタリアンを自称する約48~64%の人は、野菜だけでなく魚・鶏肉・赤身肉も食べているという。

 このことから、肉はもう食べないのだという決意は、環境的または生物学的な制約が、菜食主義に従う意志を上書きする可能性を示している。

ベジタリアンになりたいと思っている人のほうが実際のベジタリアンよりも多いようですが、それは人々が見逃している何かが固定的に組み込まれているからだと私たちは考えています(ヤシーン博士)

 だとするならば、こうした理想と現実のギャップには、人間に生まれつき備わった性質が関係しているのかもしれない。

 そう、遺伝子が裏で糸を引いている可能性があるのだ。

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菜食主義が長続きするかどうかは遺伝子特性が関係している

 『PLOS ONE』(2023年10月4日付)に掲載された研究は、そうした遺伝子とベジタリアンを続けられる力との関係を探った初めての本格的な学術調査だ。

 ヤシーン博士らは、UK Biobankに登録されている5324人の完全なベジタリアン(魚、鶏肉、赤身肉を摂取しない人)の遺伝子を、32万9455人のものと比べてみた(なお、人種の影響を抑えるために、データはすべて白人のものだった)。

 その結果、確かにベジタリアンと関係しているだろう遺伝子3つと、関係する可能性がある遺伝子31個が発見されたのだ。

 注目すべきは、ベジタリアンとの関係がはっきりしている3つの遺伝子のうち2つをはじめ、いくつか遺伝子が「脂肪の代謝」や「脳の機能」に関係していることだ。

[もっと知りたい!→]ベジタリアンから肉食に転向した女性。きっかけは妊娠中に食べたハンバーガー1個(オーストラリア)

 これについてヤシーン博士は、「植物性食品とお肉との大きな違いの1つは、複合脂質です」と説明する。

 このことから、肉に含まれる脂質を合成できる人とできない人がいると考えらえるという。

 ある人はそれを肉を食べて補給するしかない。ところが、またある人はそれを自分の体内で合成できる。これがベジタリアンを続けられるかどうかの大きな違いの1つなのではと、博士は推測している。

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ベジタリアンになれる人、なれない人

 ベジタリアンになる動機は様々で、宗教的なもの、道徳的なもの、環境への配慮、健康への配慮などがあげられる。

 最近では肉を控えようと考える人たちが増えているが、世界的に見ればベジタリアンはまだ少数派だ。

 例えば、ノースウェスタン大学によれば、ベジタリアンの割合は米国では約3~4%、英国では成人2.3%、子供1.9%だ。またForbesによれば、日本は5.9%であるという。

 少しずつ増えているとはいえ、いまだにお肉を食べる人が多数派なのは一体なぜなのだろうか?

 ヤシーン博士によれば、食べ物の好みは単純に味だけの問題ではなく、体がそれをどう代謝するのかも関係しているのだという。

 例えば、初めてお酒やコーヒーを飲んだとき、ほとんどの人はそれらを楽しめなかったはずだ。だが時間が経つにつれて味覚が発達し好みが変わる。これは、アルコールやカフェインが体に与える感覚によるものだと研究者は指摘している。

 もちろんどんな食べ物、飲み物でも人によっては体質的に受け付けなかったり、一生苦手な人もいるが、ここでは適応した人にしぼって話を続ける。

 ヤシーン博士も、お肉もこれらに似たところがあり、おそらく脂質に対しての味覚が発達しておいしく感じるようになったのではと考えている。(当然肉が苦手なままの人もいる)

 確かに宗教的・道徳的なものなど、それぞれの理由で肉を食べない人たちもいるが、それでも遺伝子は大きな影響を与えている。そのことは今回の研究でも示されている。

 将来的に、ベジタリアンになれる人となれない人との体の違いがきちんと理解されれば、人それぞれにピッタリな食事や、もっと食べやすくおいしい代替肉を作れるようになると期待されるそうだ。

References:Being a vegetarian may be partly in your genes - Northwestern Now / written by hiroching / edited by / parumo

 
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ベジタリアンが続けられるかどうかは遺伝子によって左右されるという研究結果が報告される