中華料理店などに行くと、チャーハンや炒め物など、中華鍋が万能の調理用具として活躍しているのを目にしますよね。

料理人のみなさんが見事に鍋を振って料理を作っている姿に、見惚れることがあるでしょう。

実はこの片手で握って振る中華鍋が、実は日本生まれであることをご存じでしょうか。

片手用中華鍋の開発者とは?

片手用中華鍋を開発したのは、横浜市金沢区にある山田工業所です。

打ち出し中華鍋にかけては日本一、いえ世界一のメーカーで、今なおプロの料理人から「これでなければダメ」といわれるほど高く評価される中華鍋を製造しています。

ちなみに、料理名人としても知られる、タレントのタモリさんも、かつて放送されていたバラエティー番組『タモリ倶楽部』(テレビ朝日系)で同社の工場を訪ね、紹介したことがあるほどです。

本記事では、山田工業所の山田豊明代表取締役に話をうかがいました。

中華鍋のパイオニアにして最高峰

打ち出し中華鍋や各種製造卸の山田工業所は、最高峰の中華鍋を造るメーカーとして知られています。

2023年現在、山田憲治さんが3代目として同社を継いでおり、中華街のプロ料理人も高く評価する中華鍋を作り続けています。

山田工業所の山田豊明代表取締役

もっとも手間のかかる『打ち出し』で作る!

みなさんが中華料理店で見る、片手用中華鍋は上記のとおり、山田工業所が生み出したものです。

他メーカーがマネして作り始めたので、現在ではすっかりポピュラーになっています。

このような中華鍋を作るには、主に以下の3種類の方法があります。

1.プレス加工。

2.へら絞り。

3.叩いて作る打ち出し加工。

もっともポピュラーなのは『1』で、その鍋の金型を作って、それに鉄板を押し付けて、形を作ります。

山田工業所ではもっとも手間のかかる『3』で中華鍋を作り続けているそうです。

プレス加工で一発成形の鍋とは異なり、鉄板を丁寧にハンマーで叩いて叩いてくぼみを作り、曲げて中華鍋の形にします。

家庭用のものでも約5千回、業務用では数万回も打って形を作る、とのこと。このため『打ち出し』と呼ばれます。

打ち出しで作るため、山田工業所の中華鍋には金型がありません。材料となる鉄板があって、これをクライアントの深さ・厚さのオーダーに応える鍋に仕上げるのです。

大変ですが、これにはメリットもあります。

プレス加工などで特別なオーダーがあると、金型から作らないとできません。

ところが、山田工業所の場合には、鉄板の厚さ、鍋の深さ、鍋の径などを指定すれば、職人の経験と技術ででき上がってしまうのです。

そのため、「特注で」となると、山田工業所の出番。山田代表取締役によると、同社の技術を求めて「特注品のオーダーも結構ある」とのこと。

取材時には某チェーン店から特注された1.6mmの鉄板を2枚重ねて打った皿を見せてもらいました。鉄の蓄熱性に注目した特注品で焼き物が冷めにくいようにというものです。

プロが愛用するにはワケがある

丹念な打ち出しによって、まるで日本刀の鍛造のように鉄を頑丈、堅牢なものに変質させるとのこと。

山田代表取締役にうかがったところ、「鉄というのは、分子が縦に積み重なった構造になっていて、叩いてやると密になり、薄くしてももろくならない」とのこと。これが山田工業所の中華鍋が堅牢な秘密です。

何千回、何万回とハンマーで叩くので、目で見えるほど鍋に微妙なくぼみを生みます。このため、食材がこげつきにくくなるとのこと。

プロの料理人から「食材離れがいい鍋」「調理しやすい」と評価されるのは、叩いて作っているからなのです。

また、持ってみると、ほかの中華鍋と比べて軽いことにも驚きます。

プロの料理人になると、毎日鍋を多数回振るので、少しでも軽いほうが手首への負担が軽く済みます。この軽さもまたプロから愛用される理由なのです。

山田代表取締役によれば、「業務用の中華鍋は消耗品です。強い火力にさらされ、何万回も振るし、扱いも荒い。だいだい3か月ぐらいが寿命」とのこと。

山田工業所の中華鍋は堅牢に作られていますが、それでもプロの手にかかれば消耗品なのです。

ただし、家庭用の場合には大事に使えば一生、あるいは世代を継いで使えるといいます。

鉄分の補給は大事

鉄で作られた中華鍋フライパンは、鉄分を取るために最適の調理器具です。特に女性にとっては、鉄分補給に役立つでしょう。

山田工業所ではフライパンも手掛けている。

さらに、山田工業所では、『チタニア』というブランドのチタン製の中華鍋も製造しています。

驚くほど軽く、材料がチタンなので熱を効率よく食材に伝えることができるそうです。

手に持つとビックリするぐらい軽いチタン製の中華鍋

山田工業所の中華鍋はプロが愛用する基本業務用ですが、家庭用も製造しています。決して安くはありませんが、みなさんが一生使えるだけのクオリティであること請け合いです。


[文/高橋モータース@dcp・構成/grape編集部]