独身貴族に運命の出会い…58歳で結婚した「20歳以上若い」妻

高校卒業以来、今の会社に長く勤務している会社員・Aさんは現在59歳。長らく独身だったので、自分の趣味のために好きなようにお金を使っていました。もちろん、老後資金も多少は貯めていたつもりなのですが、58歳で突然、36歳のBさんと結婚。今年になって子ども(Cさん)も誕生しました。

Aさんの貯蓄は、今後受けられる退職金を合わせると3,000万円程度になりそうですが、これから子育てや教育にかかるお金を調べてみたところ、かなりの金額がかかると気が付いて大慌て。

Aさんは60歳の定年後も65歳まで再雇用で勤務するつもりではいたものの、60歳から65歳までは給与の年収は500万円と、現在の年収800万円より大幅に下がる予定です。65歳からの年金(老齢基礎年金・老齢厚生年金)は、直近の「ねんきん定期便」の見込額では年間200万円と表示されています。

急に家族が増えたことによって、家計はAさん1人だけのものではなくなっています。また、Bさんについては勤務先をすでに退職していて、子育ての時間を十分取れると感じているものの、無収入で貯蓄額も500万円程度です。

老後資金だけでなく教育資金についても考えないといけないなか、Aさんは「このままでは老後破産の可能性も……」と不安そうにつぶやいていました。どうにかなるのでしょうか。

年金生活が迫っているAさん

まだ生まれたばかりのCさん。将来どのような人生となるかはまだわかりません。成長するにつれ、「私立の学校に行きたい」「理系の大学・学部に進みたい」「留学したい」などと考える可能性があり、そのためには塾・予備校通いも必要でしょう。

ほかにも、学校の部活や習いごともあるかもしれません。そうなると教育の費用も含め、社会人になるまでにかかるお金もかなり高額になってしまうことが予想されます。

そんななか、Aさんは定年間近、再雇用されたとしてもあと6年で勤務が終わってしまいます。

Aさんの「ねんきん定期便」によると、65歳からの老齢基礎年金と老齢厚生年金で合計200万円ですが、60歳から65歳まで勤務すると、Aさんの老齢厚生年金は13万円程度増えて213万円になり、さらにBさん(65歳未満)とCさん(18歳年度末まで)がいることによっての加給年金・合計約62万円(39万7,500円+22万8,700円)も老齢厚生年金に加算されます。

年金としての合計は275万円(月22.9万円)が見込めそうですが、再雇用勤務で働いて得た収入・500万円と比べても少なくなってしまいます。

「就労の延長」が確実な方法

このままAさんの年金収入のみでは、とても家計を支え切れるものではありません。教育資金だけでなく、自身の老後、さらに自身の亡きあとのことも考えるのであれば、できるだけ収入を確保しなければなりません。そして、そのためには長く働くことが必要です。シンプルですが、就労の延長こそが家計を支える確実な方法といえるでしょう。

現在の会社では65歳までの勤務ですが、将来65歳以降の勤務延長など、会社の制度が変われば勤務を続けたいところです。また、65歳でそのまま辞めることになってもほかの勤務先を探し、たとえフルタイムは難しくても、勤務して給与収入を得続けることが大切となるでしょう。

非正規雇用でも、65歳以降も厚生年金に加入(※最大70歳まで加入対象)することができれば、その分、老齢厚生年金がさらに増えます。また、Aさん自身が亡くなった後にBさんに支給される遺族厚生年金も多く計算されることになります。

年金の受給について注意点

年金については、繰下げ受給で65歳開始の受給額より増額(1ヵ月0.7%)させる方法もあります。公的年金は終身で受給できる点が特徴であり、「長生きリスク」への備えとなります。

ここで注意すべきは、老齢厚生年金を繰下げしても、加算される加給年金には繰下げ分の増額がないという点です。老齢厚生年金を繰下げすると、受給開始前・繰下げ待機期間中の加給年金を捨ててしまう形になります。

たとえば、老齢基礎年金と老齢厚生年金を70歳で繰下げすると、65歳時に213万円の年金は、42%(0.7%×60ヵ月)増額されて302万4,600円となりますが、加給年金は70歳からの加算開始となり、かつ加算額は先述の62万円のままとなります。

実際のところ、Cさんへの教育資金その他の支出のこともあり、収入の不足分を埋めるはずの貯蓄は取り崩しがしづらく、その結果、繰下げ受給は選択しづらい状況になるかもしれません。

老齢基礎年金と老齢厚生年金は、それぞれ受給開始時期を選択できることになっています。年金額、繰下げ受給の詳細については今のうちに年金事務所でも確認しておくとイメージできるようになるでしょう。

子育てが落ち着いたらBさんも働く

妻のBさんは、Aさんより20歳以上若い以上、今後10年先、20年先も現役世代となります。とりあえず子育てに専念したいとも考えるBさんも、これから先、その状況を見つつ、再び働くことがポイントです。Aさん同様、フルタイム勤務が難しい場合でも、パート勤務や在宅業務で働き続けることを検討してみましょう。

そうなると、Aさんが完全に年金生活になって以降も、Bさんの給与収入とAさんの年金収入で家計を支えられるイメージとなります。Aさんと比べれば、まだ先になりますが、Bさんの老後のことも考えると、やはり長く働ければ理想です。

Cさんの教育資金やAさんの老後資金、その他の急な支出で3,500万円の貯蓄(Aさん3,000万円+Bさん500万円)のほとんどを使ってしまうことも想定しながら、日々の生活費などはAさんとBさんで協力して稼ぐくらいのつもりがよいでしょう。いずれにせよ、今から夫婦で働き方についてしっかり考えて、計画を立て、実行することが肝心です。

※本記事は、実際にあった出来事をベースにしたものですが、登場人物や設定などはプライバシーの観点から入れ替えている部分があります。また、実際の相続の現場は、論点が複雑に入り組むことが多々あり、すべての脈絡を盛り込むことで話の流れがわかりにくくなります。このため、現実に起こった出来事のなかで、見落とされた論点に焦点を当てて一部脚色を加えて記事化しています。

井内 義典

株式会社よこはまライフプランニング

代表取締役

(※写真はイメージです/PIXTA)