GODZILLA ゴジラ』(14)、『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』(16)のギャレス・エドワーズ監督の最新作『ザ・クリエイター/創造者』がついに公開された。人類とAIが敵対する近未来を舞台に、ある兵士とAIの少女の逃避行をスリリングに描くSFアクション大作だ。公開を前にエドワーズは、本作がインスピレーションを受けた作品として『ブレードランナー』(82)や『AKIRA』(88)、『地獄の黙示録』(79)など多くの作品の名を挙げている。80年代の作品を中心にしたラインナップは、1975年生まれのエドワーズが少年時代に出会った傑作ぞろい。時代を超えて愛されてきた名作たちが、『ザ・クリエイター』にどんな影響を与えたのかを見てみよう。

【写真を見る】漢字など日本的な要素にあふれた『ブレードランナー』の近未来都市

21世紀後半、人間社会を支えるために進化してきたAI(人工知能)搭載ロボットが人類に反旗を翻した。ロサンゼルスでの核爆発を機に、アメリカを中心にした西側諸国はAI撲滅を宣言。AIと人類が共存する“ニューアジア”へも攻撃を開始した。ニューアジアに潜伏するAI創造者(ニルマータ)の暗殺作戦に参加した元特殊部隊員のジョシュア(ジョン・デヴィッドワシントン)は、研究施設のラボで少女の姿をした超進化型AI、アルフィー(マデリン・ユナ・ヴォイルズ)を発見。彼女は人類を滅亡させる危険な存在として暗殺の対象だったが、部隊とはぐれジョシュアは、“ある理由”からアルフィーを連れて旧友が住む市街地に向けて旅立つ。

■日本語表記に渋谷での撮影!日本的要素にあふれた独特の世界観

物語の舞台はニューアジアと呼ばれるアジア地区。その定義には触れていないが、劇中の地図から推測すると日本から東南アジアにかけての国々を指すようだ。アジア圏の言語や文化で埋め尽くされた世界観は、『ローグ・ワン』でドニー・イェンをメインキャストに迎え、『GODZILLA』そして本作にも渡辺謙を起用したギャレスらしい。なかでもフィーチャーされているのが日本で、劇中にカタカナひらがな、漢字など日本語がしばしば顔を出すほか、実際に渋谷の街でも撮影。タイトルや劇中で表示されるテロップ、エンドロールも英語と日本語を併記するなど、日本の観客をかなり意識しているのが伺える。

■『ブレードランナー』や『AKIRA』を思わせる近未来都市の世界観

SF映画の金字塔としていまだ多くのファンに愛されている『ブレードランナー』。この作品で描かれた2019年のロサンゼルスの光景は、“灰色の未来”のスタンダードとしてメディアを超えて浸透している。『ザ・クリエイター』の混沌とした都市部の街やビークル類のデザイン、意図的かは不明だが日本語の看板の絶妙な間違い方も“ブレラン”そのもの。ビジュアルだけでなく、人間とAIが混在した世界観や、引退した兵士がAI狩りにかり出される展開など、ベースとなる部分にもその影響が見て取れる。AIには機械パーツむき出しのロボット型と人の姿をコピーした人間型がおり、後者は「シミュラント(模造人間)」と呼ばれているが、この呼称もレプリカントを意識したのだろう。

西側によるAI撲滅戦争のきっかけになったのが、ロサンゼルスの核爆発。クレーター状のグラウンド・ゼロは大友克洋監督の『AKIRA』のネオ東京を思わせる。ほかにもアルフィーが暮らしていたカプセルの外観はアキラを封印していた冷凍封印カプセル、その内装もぬいぐるみやおもちゃが置かれた子ども部屋といった具合で、超能力者ナンバーズが暮らすA-ROOMを思わせる。幼い少女が特殊な力を発揮するアルフィーの設定自体、ナンバーズと重なってくる。

ほかにも日本映画関連では、劇中のテレビで宇津井健主演の『続スーパー・ジャイアンツ 悪魔の化身』(59)や千葉真一主演の『宇宙快速船』(61)といった往年の特撮映画が放映されていた。妙にマニアックなセレクトだが、エドワーズの好みなのだろうか?

■『地獄の黙示録』とも重なる壮絶な戦場の描写

ニルマータのラボを探すため、泣き叫ぶ農民たちを銃で脅し彼らの農地に容赦なくミサイルを撃ち込む兵士たち。その光景はフランシスフォード・コッポラの『地獄の黙示録』の戦慄を思い起こさせる。『ローグ・ワン』で戦争の記録映像をイメージしたリアルな戦闘シーンを盛り込み話題を呼んだエドワーズ。アジア圏を舞台にした本作でも、ロケーションを含めベトナム戦争をそのまま再現したような迫真の映像が味わえる。

また、かつてニューアジアでのミッション中に出会ったマヤ(ジェンマ・チャン)と結ばれたジョシュアだが、物語の冒頭で自軍の爆撃で彼女を亡くしたことで軍を辞め、空虚な日々を送っていた。そんな彼が暗殺作戦に参加した理由は、軍からマヤの目撃情報を伝えられたこと。妻への想いを募らせながら旅をするジョシュアの姿は、ジョセフ・コンラッドによる『地獄の黙示録』の原作「闇の奥」の主人公に重なって見える。

■水墨画のような幻想的な風景も

本作はネパールインドネシアカンボジアでロケを行い、水墨画のような風景や自然と一体化した人々の暮らしを詩的な映像で映しだす。これらの映像の参考したのが、エドワーズが元ネタの一つに挙げた『バラカ』(93)のようだ。この作品は、コッポラ製作によるドキュメンタリー『コヤニスカッティ』(83)の撮影・脚本・編集を手掛けたロン・フリックが監督したドキュメンタリー。世界各国の人々の暮らしや文化、風習を凝ったカメラワークで捉えた幻想的な作品だ。歴史ある寺院に集う袈裟を纏ったAIなど、本作の荘厳な映像は『バラカ』のSF版といえる。

■異なる存在同士が絆を育んでいく『ペーパー・ムーン』のような関係性

旅を通して絆でつながれていくジョシュアアルフィー。2人の関係性についてエドワーズが参考にしたのが、『ペーパー・ムーン』(73)や『殺し屋たちの挽歌』(84)、『レインマン』(88)といったロードムービーだ。人質にした少女に心惹かれ自滅していく殺し屋を描いた『殺し屋たちの挽歌』、自閉症の兄との旅で家族とはなにかを知る男を描いた『レインマン』は、どちらもエドワーズがリアルタイムで触れた作品だろう。しかし本作とのつながりを最も感じるのが『ペーパー・ムーン』だ。恐慌時代を背景に、母を亡くした孤独な少女アディがペテン師モーゼと旅をする物語。当初いがみ合っていた2人は、旅を続けるなかで本当の父娘になっていく。いつもしかめっ面のアディ(当時10歳のテイタム・オニールがアカデミー賞助演女優賞を獲得)が時折見せる笑顔のインパクトは、アルフィーにも通じている。

ロードムービー以外にエドワーズは『E.T.』(82)も挙げている。こちらは異星から来た親友を守るため、大人たちに立ち向かうエリオット(ヘンリー・トーマス)たちチビっ子の姿か。振り返ればデビュー長編『モンスターズ 地球外生命体』(10)で怪獣から逃げる男女の関係性でドラマを盛り上げており、『GODZILLA』では妻子のために決死のミッションに挑むブロディ大尉(アーロン・テイラー=ジョンソン)の活躍を描き、『ローグ・ワン』でもジン(フェリシティ・ジョーン)とゲイレン(マッツ・ミケルセン)父娘の熱きドラマを展開した。『ザ・クリエイター』も核にあるのは家族の絆で、そういう意味で本作も実にエドワーズらしい作品といえる。

■『エリジウム』『チャッピー』にも通じる衛星基地やロボット兵たち

エドワーズが公言している以外にも本作には多くの映画の要素が見て取れるが、『エリジウム』(13)の影響について言及しておきたい。エドワーズと同世代の映画監督ニール・ブロムカンプによるこの作品は、貧富の二極化をゴミ溜めのような地球と天国のような衛星軌道上のコロニー、エリジウムを通して描いた物語。『ザ・クリエイター』では、地上とアメリカが建造した要塞のような軌道上の攻撃基地ノマドを“現世と天国”に例えているのがおもしろい。また、本作のロボット型AIのなかに『エリジウム』の警官ロボを思わせる個体や、同じブロムカンプの『チャッピー』(15)そっくりな個体が登場する。両作品とも造形は本作と同じWETAワークショップが手掛けているので、一部ボディやパーツを参考にしたのかもしれない。

ゴジラ」「スター・ウォーズ」とワールドワイドな知名度を誇る超大作を続けて手掛けたエドワーズが、久しぶりにオリジナルストーリーに挑んだ『ザ・クリエイター/創造者』。好きなものだけ詰め込んだような本作は、ギャレス・エドワーズのショウケースと呼ぶべき作品なのだ。

文/神武団四郎

『ザ・クリエイター/創造者』に影響を与えた様々な作品を紹介/[c]2023 20th Century Studios