『ロード・オブ・ザ・リング』(01)を地元和歌山の老舗映画館で観た当時中学生だった私は、あるキャラクターに完全に魅入ってしまった。その名前はアラゴルン。“旅の仲間”の一人で、滅びゆく人間族を率いる王の末裔という過酷な宿命を背負った勇士だ。戦いの場では勇ましく、一方で自身に流れる先祖の血に苦悩する姿には憂いがあり、それまでに観てきたどのムービーヒーローとも違っていた。そして私は、アラゴルンを演じている俳優にも興味を持った。
【写真を見る】盟友デイヴィッド・クローネンバーグとは固い信頼関係が結ばれているモーテンセン
演じていたのは、アメリカ・ニューヨーク州出身のヴィゴ・モーテンセン。当時はまだ知る人ぞ知る演技派という立ち位置で、アラゴルン役をきっかけに一気にブレイクした。かく言う私も、レンタルビデオ店で出演作品を借りまくり、その動向を欠かさずに追ってきた。最近では、初監督作『フォーリング 50年間の想い出』(20)を発表し、今年8月には主演作『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』(22)も公開され話題に。そんなモーテンセンが10月20日に65歳の誕生日を迎えた。そこで誠に勝手なことではあるのだが、独断と主観的偏愛による「ヴィゴ・モーテンセンを推したくなる“ベスト65”」を発表させていただきたい!
■アラゴルン役がめちゃくちゃハマっていた
1:アラゴルン役がめちゃくちゃハマっていた[/B]
とにかくこれに尽きる。登場当初のアラゴルンは各地を放浪しており、みすぼらしい身なりをしているのだが、モーテンセンからあふれる気品が“王の末裔”というキャラクターに説得力をもたらしていた。
2:アラゴルン役は代役だった
最初にキャスティングされていた俳優が若すぎたため、急遽モーテンセンにオファーが。
3:当初は乗り気じゃなかった
ビッグチャンスとはいえ、ニュージーランドでの長期撮影だったので一度は断ろうとした。
4:息子のあと押しで出演へ
しかし、息子ヘンリーが原作小説の大ファンで強く懇願されたこともあり、オファーを受けることに。原作は未読だったので、ニュージーランドへの飛行機の中で読んだのだとか。
5:負傷しながらも撮影続行
殺陣のシーンで剣が歯に当たり欠けてしまったが、接着剤でくっつけて続行しようとした。
6:謙虚な性格
5のエピソードが武勇伝のように言及されると、本人は「みんななにかしらケガをしていたよ」と控え目な受け答えをしている。
7:率先してリーダーに
大ベテランから新人まで様々なキャリアの俳優が集まっていた「ロード・オブ・ザ・リング」の現場。モーテンセンは若手に自然のすばらしさを伝えようとするなど、率先してフォローをしていたそう。
8:第1部『~ 旅の仲間』のラストシーンがかっこよすぎる
ガンダルフが闇に落ち、ボロミアは討たれ、2人で旅立つフロドとサム。暗い顔をするレゴラスとギムリに対し、アラゴルンが「(連れ去られた)メリーとピピンを救おう」と励ますシーンは、クライマックスの展開としてはバッドエンドだけど希望も見える爽やかな余韻を感じさせていた。
9:好きなシーンに『ロード・オブ・ザ・リング 王の帰還』(03)の烽火リレーを挙げていた
救援を求めるため、ミナス・ティリスからローハンに向けて次から次へと烽火台に火が灯されていくダイナミックで感動的なシーン。
10:平和を愛する
プロモーションで来日した際、「石油の為に血はいらない」と書かれたTシャツを着用し、サインには「和」の文字が書き添えられていた。
11:スター路線には進まず
インディーズ系や欧州、南米の作品を軸に独自のキャリアを築いていく。
■馬が好きなアーティスト
12:ユニークなバックグラウンド
デンマーク人の父とアメリカ人の母を持ち、幼いころからベネズエラやアルゼンチン、デンマークなどで過ごしてきた。
13:多言語を操る
いろいろな国で暮らした経験から、英語、スペイン語、デンマーク語、フランス語、イタリア語などを操る。それは俳優業にも活かされている。
14:牧歌的な子ども時代を過ごす
2人の弟と牧場で乗馬をしたり、釣りや狩猟も行っていた。
15:カウボーイ役が似合う
『オーシャン・オブ・ファイヤー』(04)で、灼熱の砂漠が舞台の長距離馬術レースに参加した実在のカウボーイを好演。愛馬ヒダルゴとの絆は感涙必至。
16:馬が好き
ヒダルゴを演じた馬とは絆が芽生え、撮影後に引き取ったそう。ちなみに、「ロード・オブ・ザ・リング」でも共演した馬を引き取っている。
17:アーティストでもある
俳優業に加えて、詩や絵画を創作し、写真家としても活動。Wikipediaにも「俳優、詩人、写真家」と記載されている。
18:出版社を設立
2002年にアート系の出版社パーシヴァル・プレスを設立し、モーテンセン自身も画集や詩集、写真集を発表している。
19:馬を撮影した写真集「The Horse is Good」を制作
やっぱり馬が好き。
20:ミュージシャンとしての一面も
多数のアルバムを発表。元ガンズ・アンド・ローゼズのギタリスト、バケットヘッドと共同で制作した作品も。
21:歌声もすばらしい
『ロード・オブ・ザ・リング 王の帰還』の戴冠シーン、『はじまりへの旅』(16)などで聴くことができる。
22:詩を書く時はペンと紙
アナログ派?
23:詩を書く時はスペイン語が多い
素直な気持ちが表現できるそう。
■石橋凌、デニス・ホッパーとの共演
24:映画ファン
若いころ、映画館でイングマール・ベルイマン、アンドレイ・タルコフスキー、小津安二郎ら巨匠の作品を観たことがきっかけで俳優を志した。
25:ハリソン・フォード主演作『刑事ジョン・ブック 目撃者』(85)がデビュー作
アーミッシュの若者役で出演。
26:石橋凌とも共演
東映ビデオ制作の『ヤクザVSマフィア』(93)に出演し、石橋凌演じるヤクザを助ける青年を演じている。その後、別作品のオーディションに臨む石橋をモーテンセンが励ますなど、2人の間には友情が育まれている。
27:デニス・ホッパーとの出会い
ショーン・ペン監督作『インディアン・ランナー』(91)で共演したデニス・ホッパーはモーテンセンのパトロン的な役割を担った。ホッパーもまた画家や写真家として活動するアーティストで、モーテンセンにアトリエを提供したり、2人で創作旅行にも行っている。
28:アカデミー賞作品賞受賞作に出演
『ロード・オブ・ザ・リング 王の帰還』と『グリーンブック』(18)。
29:3度のアカデミー賞主演男優賞候補に
『イースタン・プロミス』(07)、『はじまりへの旅』(16)、『グリーンブック』。
30:主演であっても作品を作る一人
『グリーンブック』がアカデミー賞作品賞に選ばれた際、主演俳優にもかかわらず檀上の端のほうに立ち、うれしそうに微笑んでいたモーテンセン。過去に「賞は作品のためにある」ともコメントしていたので、自身が主演男優賞に選ばれることよりも喜んでいたのかもしれない。
『ヒストリー・オブ・バイオレンス』(05)での初タッグ以降、『イースタン・プロミス』、『危険なメソッド』(11)、『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』に出演。
32:クローネンバーグとの友情が情熱的
『ヒストリー・オブ・バイオレンス』がカンヌ国際映画祭でお披露目された際、2人でキスを交わして喜びを分かち合っていた。
33:徹底した役作り
『イースタン・プロミス』でロシアン・マフィアの男を演じた際は、実際にロシアの各地を旅しながら現地の人や言葉に触れ、役を構築していった。
34:フロイト役
『危険なメソッド』で心理学者のジークムント・フロイトを演じるにあたり、現存する著作や書簡、手紙までとにかく読み込んだ。筆跡なども完璧に模倣している。
35:クローネンバーグからの信頼の厚さ
役に対するアプローチはもちろん、自身の役だけでなく、作品全体のことについても様々な質問をするそうで、そういった姿をクローネンバーグも絶賛している。
36:伝説の乱闘シーン
『イースタン・プロミス』におけるサウナでの全裸乱闘シーンは伝説的。
■自然体で裸足が好き
37:プロデューサーとして新進監督をあと押し
『偽りの人生』(12)、『約束の地』(14)などのアルゼンチン映画では主演のほかプロデューサーも務め、同地のクリエイターの活動をあと押ししている。
38:『約束の地』の劇中曲
モーテンセンが作曲している。
39:初監督作『フォーリング 50年間の想い出』
主演に脚本、劇伴の作曲も担当する多才さを発揮。
40:クローネンバーグがカメオ出演
モーテンセン演じる主人公の父(演じるのは、「エイリアン」シリーズなどのランス・ヘンリクセン!)を診断する肛門科医の役。
41:額を寄せ合う
『イースタン・プロミス』にて、共演のヴァンサン・カッセル、ナオミ・ワッツと互いの額を寄せ合う仕草にグッとくる。『オーシャン・オブ・ファイヤー』などほかの作品でも見られる。
42:アゴがセクシー
吸い込まれそうなブルーの瞳、現在のロマンス・グレーの髪色にもグッとくる。
43:垂れる前髪
『イースタン・プロミス』、『グリーンブック』でオールバックにしていた髪型が途中で崩れ、だらりと前髪の一部が垂れ下がる。何気ない変化だけど印象に残る。
44:息子のヘンリー
パンクバンドXのボーカリスト、エクシーン・セルベンカと結婚し、長男ヘンリーを授かる。その後の離婚に伴い、父子家庭に。
45:親日家のヘンリー
日本のアニメに興味を持ち、役作りの参考に剣術や侍の本を薦められたこともあるそう。オフィシャルな場に2人で現れるなどとても仲良しな親子。
46:自然体
ビシッとしたスーツスタイルよりも着慣れたTシャツやデニム、サンダルを好んでいるイメージ。
47:裸足が好き
「ロード・オブ・ザ・リング」のピーター・ジャクソン監督の影響で、裸足で過ごすことが多くなったという。
48:お菓子を配る
「ロード・オブ・ザ・リング」のプロモーションで来日した際、取材陣にお菓子を配って回ったというエピソードも。
49:マテ茶
マテ茶を好んで飲み、ポットに入れて持ち歩いている。
50:上唇に傷跡が
大学時代、パーティで泥酔して有刺鉄線の上に倒れ込み、上唇の皮膚を切断してしまう。その時の傷跡がいまも残っており、出演作によっては確認できる。
51:子どもたちも興奮
『はじまりへの旅』で共演した子役たちもモーテンセンの大ファンだったみたいで「アラゴルンだ!」とエキサイトしたそう。
52:熱狂的なサッカーファン
南米育ちということもあってサッカーファン。特にアルゼンチンのクラブチーム、サン・ロレンソを応援している。
53:空港で大興奮
サン・ロレンソの勝利に興奮し、思わず歓声を上げていたら、警備員に静止されてしまったことがある。
■“ロード”というタイトルに縁がある
スペインの国民的な冒険歴史小説が原作で、孤高の剣士役がハマっている。できれば、三部作、せめて前後編で観たかった。
55:エド・ハリス監督作『アパルーサの決闘』(08)
ハリス演じる凄腕ガンマンの相棒という役どころ。どこまでも献身的な姿が泣かせる。
56:『ザ・ロード』(09)
文明が崩壊してしまった世界を舞台に、人間の尊厳を守ることを息子に伝える父親役を体現。
57:『オン・ザ・ロード』(13)
アメリカの作家、ジャック・ケルアックの青春小説が原作で、小説家のウィリアム・バロウズにあたるオールド・ブル・リー役で出演。バロウズといえば、著作「裸のランチ」がクローネンバーグによって映画化されており、やはり縁が深い。
58:“ロード”というタイトルに縁がある
「ロード・オブ・ザ・リング」、『ザ・ロード』、『オン・ザ・ロード』。
■アラゴルン役を大切に想っている
59:枯れ専二大俳優
“北欧の至宝”ことマッツ・ミケルセンと共に大人気。
60:ミケルセンとの2ショット
2022年の第75回カンヌ国際映画祭にて2人がめぐり合い、ハグをするなど和気あいあいとする姿にほっこりした人も多いはず。
4Kレストア版が2018年の第43回トロント国際映画祭で上映された際のプレゼンターとして登場。
62:クローネンバーグへの尊敬
モーテンセン曰く、クローネンバーグの作品は自分の考えを押しつけるようなことはしない。捉え方を観客に委ねるところが気に入っているという。
63:高次元での共鳴
『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』の脚本を読んで「笑った」ともコメントしているので、両者の感性やユーモアはかなりの高次元で共鳴し合っているに違いない。
64:監督2作目も公開待機中
西部劇『The Dead Don't Hurt(原題)』を監督&主演し、共演はヴィッキー・クリープス。先日の第48回トロント国際映画祭でお披露目された。監督としてのこれからの活躍も楽しみ。
65:アラゴルン役を大切に想っている
「ロード・オブ・ザ・リング」に参加したことでチャンスが広がったと語っている。
俳優、監督、アーティストとしての様々な顔を見せてくれるヴィゴ・モーテンセン。これからの活躍もさらに追い続け、いつか“ベスト100”も発表してみたい。
文/平尾嘉浩
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