8月から劇場先行上映が実施され、現在TVアニメ放送中の『アイドルマスター ミリオンライブ!』(以下、『ミリオンライブ!』)。

【画像】監督・綿田慎也氏(左)とCG監督・塩谷大介氏(右)(他7枚)

ミリオンライブ!』は、『アイドルマスター』シリーズのブランドのひとつとして、2013年にソーシャルゲームとして誕生し、2017年にはアプリゲーム『アイドルマスター ミリオンライブ! シアターデイズ』(以下、『ミリシタ』)をリリース。誕生から10周年を迎えた今年、待望のアニメ化が実現した。

監督は『ガンダムビルドダイバーズ』などを手掛けた綿田慎也氏、シリーズ構成・脚本は『アイカツ!』『妖怪ウォッチ!』などの加藤陽一氏、アニメーション制作は『STAND BY ME ドラえもん』などの白組が担当。フルCGで描かれるアイドルたちが個性豊かに躍動し、秀逸な脚本や演出と相まって最高の感動と楽しさを生み出している。

今回、TVアニメの放送スタートを記念して、監督の綿田慎也氏とCG監督の塩谷大介氏(白組)にインタビューを実施した。先行上映を観たプロデューサー(『アイドルマスター』シリーズのファンの呼称)からの評判も高い本作をどのように作り上げたのか、前後編に渡ってたっぷりとお届けする。
(取材/文:千葉研一・写真:編集部)

※インタビューは第1幕の劇場先行上映後に実施

→【後編】アニメ『ミリオンライブ!』綿田慎也監督×塩谷大介CG監督インタビュー:10周年の歩みを紐解き“大切にしたこと”とは

アニメで『アイドルマスター』を知り、『ミリオンライブ!』はリリースからやっていた

――劇場先行上映はSNSやレビューなどでも評判がすごくいいですね!

綿田:よかったです。とりあえずホッとしました。第1幕が公開された最初の週末に舞台挨拶があって、ライターの加藤さんたちや現場のスタッフ何人かと会ったのですが、みんな「ホッとしましたね」と話していて。もちろん安心するために作っていたわけではないし、仕掛けるつもりで作ってはいたんですけど、ふぅ〜とひと息つけた感じがしました。

塩谷:そうですね。僕はまだドキドキしていますけど。

――まずは、綿田監督と『ミリオンライブ!』の出会いからお聞きします。綿田監督は『ミリオンライブ!』をゲームリリース時から知っていたとのことで、『アイドルマスター』全体との出会いも含めて教えてください。

綿田:『アイドルマスター』は、アニメ『アイドルマスター』(2011年7月〜12月放送)を見て知りました。その時点ではゲームをやったことはなく、初めて買ったのは『アイドルマスター シャイニーフェスタ』(2012年10月25日発売)だったと思います。アニメ『アイドルマスター』がやっていた頃に『アイドルマスター シンデレラガールズ』がサービス開始(2011年11月28日)して、めちゃくちゃ盛り上がっている友達がいたので、面白そうだなと思っていたんです。それで、2013年にソーシャルゲーム版『アイドルマスター ミリオンライブ!(以下、『ミリマス』)』が始まったので、初日からやっていました。

――そんなこととはつゆ知らず。

綿田:あまり言わないようにしていましたからね(笑)。

――当時はアニメ化された際に自分が監督をするなんて思っていないわけじゃないですか。あくまで1人のユーザー、もしくはプロデューサーとして『アイドルマスター』や『ミリオンライブ!』の印象はいかがでしたか?

綿田:あの頃はアイドルアニメが盛り上がった時期でもありますし、コンテンツとしてこういうビジネスモデルがあるんだと感じていました。(リアルな展開では)年に1回の周年ライブなどがあり、これまでステージに立っていなかった人が新しく出てきたり、前年出ていた人が翌年にはパフォーマンスレベルをすごく上げて立っていたり……そうやってアイドルコンテンツを応援するエンタメ性みたいなものを体験できたのも面白かったです。

――当時の“担当”は誰でしたか?

綿田:内緒です(笑)。立場上、全員です、と答えておきます。皆さんで推察していただければなと思います。

――塩谷さんの方は、これまで『アイドルマスター』に関わった経験はありましたか?

塩谷:お恥ずかしながら、僕はほとんど知らない状態でした。そういうアイドル的なコンテンツがある、ということは知っていましたけど、今回仕事をする中でいろいろ覚えていった感じです。
綿田:それが普通ですよ(笑)。

誰かが作ったものに文句を言うなら、自分で作って文句を言われる方がマシ

――リリース時からやっていた『ミリオンライブ!』のアニメ監督の話が来た時は、正直どんな気持ちでしたか?

綿田:『ミリマス』は僕自身、あまりお仕事の繋がりはなかったし、普通に「早くアニメ作って見せてくれないかなぁ」と軽くお客様目線で構えていました。そうした中で、先にミリオンのアニメ企画の座組に入られていた加藤さんから話が来ました。僕が『ミリオンライブ!』のゲームをやっていることや、詳しいことは業界の人にほとんど言ったことがなくて、加藤さんはそれを知っていた数少ない業界人のひとりだったんです。それで声をかけていただきました。

――そういう経緯だったのですね。

綿田:でも、(劇場のアイドルだけで)39人も登場するアニメの監督を、作品のことを知らない人が受けたらグチャるだろうなと思ったし、それだったら知っている自分がやった方がいいんじゃないか。誰かが作ったものを見て文句を言うぐらいだったら、自分で作って文句を言われる方がマシだなと思って(笑)。そんなちょっとネガティブな感じもありましたね(笑)。

――実際に監督の打診が来ていかがでしたか?

綿田:チャンスというか、なかなかこういう機会はないな、これも縁だなと思いました。ゲームをずっとやっていると公言していたわけでもないのに回り回って来たのなら、受け入れようかな、前向きにやってみようかなと。アニメとして自分が関わることはないだろうなと思ってはいたけど、「もし自分がやるならこういうことをやってみたい」と想像はしていたので、だったらそれを実現するいい機会ですし。その後、制作が白組さんに決まり、やってみたいことがより確実に、より高いクオリティでできる座組になったので、より前向きになっていきました。

――プレッシャーが強かったよりも、前向きにいけたのですね。

綿田:ポジティブな感情もネガティブな感情もあって、複雑な感情ではありました。このままアニメ化しないのかな……とも思ってましたから。メインキャラが39人出てくる作品って、どう考えてもアニメに向いていないですからね(笑)。だからこそ、『ミリオンライブ!』をアニメ化するにあたって、どういう問題が発生するのかわかった上で臨めたのかな、とは思います。

みんながぼんやりと持っていた共通認識をつかんでいったら、王道のストーリーに

――『ミリオンライブ!』のことを知っているからこそ意識したことや、“らしさ”を出すために注力したポイントなど、アニメ化する際に軸として考えたことを教えてください。

綿田:「新訳」「再構成」「再解釈」というのは、こだわったポイントです。今だから話しますと、アニメ化に際して新規の視聴者を獲得するために、「今までの流れを1回切って、改めて新規の視聴者に向けて完全にリセットした『ミリオンライブ!』のアニメを作る」という方向性もあるにはありました。キャラクターの性格や設定まで変わる可能性もあったかもしれない。でも、それには僕が抵抗しました。今まであったいろいろな『ミリオンライブ!』の要素を取り込んだ「新訳」「再構成」「再解釈」になったのは、僕がこだわったというか、粘ったところでしたね。


――これまでと全く同じ世界線ではないけど違和感ないですし、そもそも『アイドルマスター』は作品によって少しずつ変わることがあるから、皆さん自然と「こういう感じもいいよね」と受け入れていた気がします。

綿田:そこもホッとしたところのひとつです。そう感じてもらえるはずだ、と思って推し進めてはいましたけど……。僕自身が『アイドルマスター』に触れていたから、「このぐらいの幅だったら、『今回はこういう設定ね』と受け入れてもらえるかな」と思っていた部分が、素直に通じてよかったなと思います。

――ただ、仮に39人を1人ずつピックアップしたらそれだけで39話必要ですし、メインストーリーをどうするか悩まれたと思います。蓋を開けてみたら、とても王道な展開で来た印象がありました。どのように考えてこのストーリーになったのでしょうか?

綿田:僕は2015〜6年あたりが、アイドルアニメのピークだったと思っているんです。『アイドルマスター』でいうと劇場版(『THE IDOLM@STER MOVIE 輝きの向こう側へ!』/2014年1月公開)があって、『シンデレラガールズ』のアニメ(2015年1月〜4月、7月〜10月放送)があって、『ラブライブ!』シリーズなら劇場版(『ラブライブ!The School Idol Movie』/2015年6月公開)から『ラブライブ!サンシャイン!!』が始まった時期(第1期は2016年7月〜9月放送)。この頃は現場の技術もどんどんあがっていったし、お客さんの盛り上がりや熱もすごかった。さらに、リズムゲームになってゲーム性が向上したことでプレイ人口も増えたタイミングで、そこがひとつの山だったと思います。

――確かに。

綿田:それを過ぎてからはちょっと奇をてらうといいますか、少しひねって違う要素を入れ込んだ「アイドル+α」みたいな形、もしくは「別のジャンル+α」としてアイドル要素を入れるものが成立していきました。じゃあ『ミリオンライブ!』はどうするか。シナリオ打ち(打ち合わせ)や構成打ちでもいろいろな方向性の話が出ましたけど、インパクト重視とかに舵を切るのも何か違うのかな、と。

ミリオンライブ!』って『ミリマス』にしても『ミリシタ』にしても、実際のところ大きなストーリーラインがあるわけじゃないんですよね。でも、10年歩んできた中で、なんとなくプロデューサーたちの中にはぼんやりとしたアイドルたちの成長物語みたいなものがあって。そのみんなの不確かな共通認識をつかんでいきたい。それが自分の目指したものでした。その共通の部分をつかんでいったら、結局のところ正統、王道なアイドルものの形だった、ということですね。加藤さんの意見もあるとは思いますが、僕はそう捉えています。

――ストーリー面でいくと、今までは『ゲッサン』などのコミカライズの印象が強かったように思いました。

綿田:そうですね。『ゲッサン』(※)などのイメージもありますし、周年ライブごとに成長していく演者さんのパフォーマンス、演者同士の関係性、アイドルの関係性、ドラマCDで生まれた特別な関係値……そういったものが集まって、「『ミリオンライブ!』はこういう話、こういう流れだよね」となっていたと思います。そうやっておぼろげに出来上がっていたものを、今回は掴んでいきたかったんです。

※「ゲッサン」(小学館刊)にて連載された門司雪による漫画『アイドルマスター ミリオンライブ!
――『ミリオンライブ!』を追ってきた監督だからこそ、それを実現出来たのですね。アイドルの関係性で言えば、例えば春日未来最上静香は同じ年齢ですが、同級生であるとか面識があるとかはその時々によって違っていましたよね。

綿田:(2人が同じ学校に通っていた)『ゲッサン』は『ミリマス』を下敷きにしていて、あの頃は未来や静香の出身地が決まっていなかったですし、劇場(シアター)の位置も今とは想定が違っていますから。なんなら先輩・後輩の概念も最初期はなかったですよね。劇場版でそのあたりに手が加わり、『ミリシタ』からは当然のように先輩・後輩となりました。そういう変遷も汲み取っていかなきゃいけない。未来は東京の子で、静香は埼玉の子です、というところから始めなければいけないので、おのずとどれかひとつのコミカライズをベースには出来ない感じでした。

CG作品でも表情を柔らかくみせるため、作業はめちゃくちゃ泥臭く

――アニメでどんな物語が描かれるのかと同時に、プロデューサーたちが期待と不安の両方を感じていたのは、「フルCGアニメ」に関してだと思います。白組さん的にはアニメ『ミリオンライブ!』のCGを担当することになって、最初はいかがでしたか?

塩谷:めちゃくちゃプレッシャーがあったかと言われると、そんなにはなかったです。『revisions リヴィジョンズ』とか『NIGHT HEAD 2041』とか、ずっとセルルックCGをやってきましたからね。ただ、やっぱりキャラクターの人数が多いので、それを「全員主人公」としてどう見せていくのか。通常だと1人のキャラクター(主人公)がいて、そのキャラクターにCGだとリグとかいろいろ付けていくんですけど、それを全員同じようにしなくてはいけない。要するに、全員を未来と同じクオリティで仕上げる。どうしようと思ったのはそこですね。

本作を生み出した白組の制作スタジオにも伺いました

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待望のアニメ化、その舞台裏に迫る―アニメ『ミリオンライブ!』綿田慎也監督×塩谷大介CG監督インタビュー【前編】