空前のアニメブームを迎えている令和・ニッポン。実写映画の世界でも、アニメ原作、漫画原作モノが、以前にもまして存在感を増しつつある。

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そのいっぽうで、アニメ原作、漫画原作モノ実写映画というと、「あ~、実写化ね……」という、ある種の残念な印象を抱いている方も多いのではないだろうか。しかし! 本当にアニメ、漫画を原作とする実写映画はガッカリなものばかりなのだろうか!? 周りの意見に流されて、ろくに本編を観ないままイメージだけでネタにしてないのかい!? 

ということで、過去に物議を醸したアニメや、漫画原作モノ実写映画を再評価してみたい。 

■第7回 ONE PIECE


ONE PIECE」の実写版が、Netflixにて配信されている。

連載は26年を数え、単行本は100冊超。「最も多く発行された単一作者によるコミックシリーズ」として4億冊以上の売上を誇る国民的コミックだ。アニメ化はもちろんのこと、映画、絵本、アイスショーに歌舞伎などさまざまなメディアに進出し、街ではコラボ商品を目にすることも珍しくなくなっている。もはや「ONE PIECE」のメディアミックスは当たり前で、次はどこへ進出するかが焦点となっている状況だ。

そんな「ONE PIECE」界隈において、とりわけ度肝を抜いたのが今回の実写化である。原作者・尾田栄一郎氏の直筆コメントで、実写化がアナウンスされたのが2017年のこと。その後2020年にNetflixでの独占配信が発表され、2023年8月末の配信までファンは6年間待ち続けたことになる。大きな期待に包まれながらでベールを脱いだ本作だが、結論から言って、原作へのリスペクトあふれるドラマの再構築と、それぞれに志を持った者たちが仲間となる原作の魅力をしっかり映像化した作品である、と感じられた。 

外見のみならず、シルエット・色見まで原作リスペクトの実写キャスト

ONE PIECE」は「大海賊時代」を舞台に、海賊王ゴールド・ロジャーが残した“ひとつなぎの大秘宝”(ワンピース)を巡り、個性的な海賊たちがしのぎを削る物語。実写版は全8話で原作初期の「東の海」編(単行本1~11巻)のエピソードを描いている。

実写化において難しいテーマのひとつが、マンガ的なキャラクターたちをいかに再現するかという部分である。手足が伸びる能力を持つがカナヅチである主人公のルフィ、両手と口で剣を使う三刀流の剣士ゾロ、とある事情からお金にうるさい航海士のナミ、大言壮語の気がある狙撃手ウソップ、蹴りで戦う料理人のサンジなど、いずれも個性の塊だ。彼らはマンガにおいてはデフォルメが効いた尾田氏の絵柄で描かれており、106巻に渡っての活躍が読者の脳に染みこんでいるのだから、下手なものは出せないのだ。

しかし、実写版ではキャラクターの見た目はもちろんのこと、シルエットや色味までも見事に再現しており、原作ファンこそすぐになじむことができるだろう。たとえばルフィのシルエットは、ある程度ゆったりとした半袖とハーフパンツ、そこから伸びる細い手足が特徴だ。このギャップがあるからこそ伸縮する手足が強調されるわけだが、実写版もこうした部分がちゃんと再現されている。アップはもちろんのこと、遠景で小さく写っている時もそのシルエットはしっかりとルフィであり、作品世界への没入を阻害することはない。

原作のルフィは黒髪に黒い瞳という日本人を思わせる風貌だが、本作ではメキシコの俳優イニャキ・ゴドイ氏が演じている。とはいえイメージが違うということはなく、漂う南方系の明るさと目の美しさ、真剣になった時の鋭い表情はまさにルフィ吹き替え声優はアニメと同じ田中真弓氏で、ゴドイ氏に寄せた男っぽい演技が新しいルフィ像を提示している。

ゾロ役の新田真剣佑氏、ナミ役のエミリー・ラッド氏、ウソップ役のジェイコブ・ロメロギブソン氏、サンジ役のタズ・スカイラー氏といずれのキャスティングもハマっており、ルフィ同様にシルエット、色味レベルから再現が行われているため、原作ファンも納得できることだろう。

また、全身がバラバラになる千両道化のバギー、みずからを優越種と信じ人間を憎む魚人のアーロンといった敵キャラクターたちは、実写化によって増した情報量でより恐ろしくなっている。バギーは見た目こそピエロ風だが、自分勝手な恨みを原動力にルフィの心を巧みに揺さぶる様がジェフ・ウォード氏の熱演とあわせて本当に怖い。ピエロに病的な恐怖を覚える道化恐怖症(コルロフォビア)が広く知られる海外ならではの描写ともいえ、忘れがたいインパクトを残している。アーロンが持つノコギリザメのような鼻は原作と比べてサイズが小さめになっているが、マッキンリー・ベルチャー氏の目力で睨まれたらそんなことをいっている余裕はない。人一倍のパワーと残虐性を持つにもかかわらず、金と約束という憎き人間の流儀で人々を縛り、魚人族が受けた虐待の記憶で部下をまとめあげる頭のキレと、内に秘めたコンプレックスの怖さが増幅されており、こちらもかなりのインパクトだ。 

マンガ的な設定に説得力を持たせる、手抜きなしの実写アクション

アクションにおいても、原作の魅力を再現する取り組みが行われている。

ルフィの伸びる身体はCGで表現されており、小技から大技まで実にルフィらしい動きをみせる。実写での手足や頭が伸びるビジュアルは原作を知っていてもギョッとさせられるもので、これを見て驚く脇役たちと視聴者の心境がシンクロする。

ゾロの三刀流も迫力が増している。三刀流は両手に刀、さらに口に刀をくわえる本作ならではの剣術だ。世の中に二刀流のキャラクターは多いが、三刀流ともなるとゾロ以外に見たことがない。その理由は、三本目の刀をどう使わせるかが難しいから、であることは想像に難くない。しかも本作は実写作品だ。本物の人間が立ち回る中で「刀を口にくわえているから強い」と演出できなければ、ゾロとしての説得力は出ない。わざわざ口に刀をくわえる必然性と戦術的優位性を実写のリアリティレベルで見せる、立ち回りの設計に属する部分であり、CGで済ませられない難しさがある。

そんな中、実写版ゾロは斧手のモーガン戦において、両手の二刀で敵の動きを封じ、くわえた刀を首に突きつける戦法を披露。口までも武器化した荒々しさはゾロのイメージにピッタリで、手で防ぐことができないあたりに「刀を口にくわえているから強い」も説得力がある。

そして、サンジの戦いは肉体の重みが見どころ。ミドルキック風の「背肉(コートレット)」、浴びせ蹴り「首肉(コリエ)」、地に這った状態から肩を狙う「肩肉(エポール)」、そこから跳ね上がる「胸肉(ポワトリーヌ)」、トドメのトラースキック「羊肉(ムートン)ショット」といった蹴り技は華麗かつ重そうで、食らう相手に同情したくなってくる。生身の人間が身体を張ってアクションしているからこその情報量であり、サンジの強さにさらなる説得力が加えられているのである。

 

序盤のストーリーを全8話にパッケージした、アレンジ・改編の妙

アクションと並んで興味深いのが、物語を刈り込み、アレンジする手腕の確かさだ。

原作では、敵の海賊団から個性的なキャラクターたちがどんどん登場し、次から次へとバトルが繰り広げられる。いっぽう、この実写版では多くのキャラクターたちがカットされ、物語の流れも整理されている。ゾロの部下である賞金稼ぎのヨサクとジョニー、巨大なライオンにまたがった猛獣使いのモージ、宝箱に住む珍獣島のガイモン、ウソップ海賊団のピーマンにんじんたまねぎ、全身を盾で守る鉄壁のパールなど、味のあるキャラクターたちがオミットされた。このあたりは、毎回バトルの見せ場を作って次週まで読者の目を惹きつけなければならない週刊連載と、1話あたり1時間の実写ドラマの違いが出ている。なかには手配書という形でほんのわずかながら出てくる者もいて、制作サイドとしてもカットが苦渋の決断であることがうかがえるのだ。

物語を刈り込むだけでなく、ふくらませる取り組みも行われている。実写版を見た人なら誰もが驚くコビーの扱いなどはその好例だ。

コビーは原作の最初期に登場した臆病な少年だ。凶暴な女海賊アルビダに虐げられていることが原因で、海軍に入る夢を諦めてしまっている。何があろうと自分の夢を貫き通すルフィとは鏡写しの存在であり、現実と理不尽に屈する様が読者の感情移入を誘う。

原作では1巻で退場し、表紙のショートストーリー「コビメッポ奮闘日記」でその姿が断片的に描かれた後、45巻にて成長した姿で再登場。大河ロマンとしての「ONE PIECE」を象徴する存在となった。

いっぽう、実写版ではルフィと別れた後の姿が詳細に描かれている。斧手のモーガンのドラ息子であるヘルメッポとともに海軍の大物ガープ中将の部下となり、ルフィを追う作戦に同行することになるのだ。この時点のコビーにあるのは鋭い洞察力と燃える正義感のみだが、才能をガープ中将に見出され、やがて鍛えられていく。海軍という組織の中で、時には現実の汚さを突きつけられつつもたくましく成長し、夢を貫く様は「ONE PIECE」世界のどこかにあり得るドラマとして違和感がない。同時に、一般人である視聴者、特に社会人にとっては身近に感じられる存在としても描かれており、ついつい応援したくなってくるキャラクターとなっている。

そして、実写の情報量で描かれる海軍での生活は、「ONE PIECE」世界をより深彫りする。コビーが仕事で結ぶ縄ひとつとっても“本物”であり、そのぶっとさに海軍暮らしの大変さがひと目で伝わってくるのだ。この有無を言わさぬ説得力こそ、まさに実写のパワーと言えるだろう。 

実写でもしっかり泣かせるドラマ演出

原作のイマジネーションをより広げたシーンも存在している。たとえば第1話ルフィの子ども時代において、彼が憧れる海賊・シャンクスの一味が無法者の山賊どもを叩きのめす場面。シャンクス空っぽの手で山賊に人差し指を突きつけ、引き金を引くようなポーズをすると、何ごとが起きたのか轟音とともに山賊が倒れた。カメラが転ずるとシャンクスの背後には彼の仲間がいて、指の合図で狙撃したことがわかるのだ。

ここで原作を読み返すと、流れこそ同じだが敵味方の距離感が実写版より近い。シャンクスは山賊に銃を突きつけられるが、その銃を指差し「銃を抜くからには本気でやれ」と余裕で説教。そこで仲間が助けてくれる。この指差すアクションを拡大解釈し、仲間との絆の深さと腕の確かさを表現しているわけで、原作愛が感じられるアレンジと言えるだろう。

こうしたアレンジの妙味が発揮された話のひとつが、ウソップの登場回である第3話だ。ウソップは毎日「海賊が来た」と嘘をつく鼻つまみ者。唯一の友達はお屋敷に住む病弱の少女カヤで、彼女はウソップが話す(嘘ばかりの)冒険譚で元気づけられている。カヤは両親が遺した莫大な財産を相続する予定で、その人生はある意味安泰のように見えるのだが、実はこれを狙う者がいて……という波瀾万丈のエピソードとなっている。

原作では迫る魔の手からカヤを守るべく、ウソップルフィたち麦わらの一味、そしてウソップ海賊団の少年たちがクロネコ海賊団に立ち向かう一大バトルが展開する。いっぽう、実写版では人間ドラマに比重が置かれ、閉鎖された屋敷で皆が追跡者に立ち向かう中、ウソップとカヤの関係性、ゾロの過去、ナミの人となりがじっくりと描かれている。

面白いのが、ナミとカヤが女同士としてわかり合う場面である。ナミはカヤの強さを認めつつ、みずからの経験から「他人に人生を預けてはいけない」と諭す。カヤというキャラクターが深彫りされてより魅力的になっていると同時に、後にナミの過去が明かされた際に重みが増してくるシーンというわけで、脚本力の高さが心地よい。ウソップが海賊として出奔しようとするラストも、病弱のカヤを心配して村を出られないというものに変えられた。苦悩するウソップに対し、カヤは「自分は医者の道を目指すから大丈夫。ウソップは世界を巡り、今度は本当の冒険話をしてほしい」と送り出すのだ。

ONE PIECE」は、海賊王や大剣豪、航海士に料理人など、志を持つ者たちが仲間として助け合う物語だ。第8話で改めて描かれているように、目指す場所こそ別々だが、皆は仲間の絆で結ばれている。実写版では、海賊にはならないカヤもこうした輪の中に加わることができたというわけで、より感動が深まる構造になっている。ウソップもカヤを心配することで情の深さが強調されており、このあたりはファンには嬉しいアレンジなのではないだろうか。

この回でルフィたちは念願の船であるゴーイングメリー号を入手。実写版では、カヤを守り続けた執事メリーの意気を汲んだルフィが命名する形になっており、これまた情の深さが強調されているのも面白い。ルフィとゾロに関しては、続く5話と6話で強敵ミホーク戦での敗北を通じ、夢を追うことの重さが重く描かれている。夢を追うことは、その結果が不本意なものとなっても自分で責任を取るということ。未熟ゆえに敗れたゾロと、これを見守ることしかできないルフィ。実写俳優の高い演技力で描かれる挫折シーンは重く、それゆえに再起する彼らのたくましさに惹かれる。

 

 

さまざまなアレンジがあるいっぽう、キャラクターたちの行動原理と、そこから生まれる名シーンは原作通りである。ナミを道具として扱うアーロンに怒るルフィ、夭折したライバルのために世界一の大剣豪となることを誓うゾロ、命の恩人であるゼフに感謝するサンジなど、原作でも人気の高い泣かせる名シーンがしっかりと再現されている。ここで注目したいのが、“泣き”の演技である。原作では、さまざまな過去を持つキャラクターたちが感情を決壊させ、顔の形も崩れるほどの大泣きを見せるのが本作の見どころのひとつだ。我々は、理不尽な状況の中でもクールに振る舞うことを求められる現代日本で生きるだけに、その熱さとストレートな感情表現に感動を覚えるのだ。いっぽう、実写版の“泣き”は原作のような大泣き描写でこそないものの、きっちりと積み上げられたキャラクター描写によって、説得力をもって原作同様に泣けるシーンとなっているのだ。

 

第8話ラストではそれぞれに志を持った者たちの絆が描写される。ついに呪縛から解き放たれたナミが仲間となり、タルに脚をかけてそれぞれの夢を語るさまが実に「ONE PIECE」らしい。この話ではコビールフィとひと足早く再会。海賊として賞金が掛けられたルフィの手配書を渡し、2人で「夢がかなった」と大喜びする。志は違えど仲間としての絆は固く結ばれているというわけで、年齢を重ねたファンも強く感情移入できるのではないだろうか。

 

冒頭にも述べたが、実写版ONE PIECE」はさまざまなキャラクターがオミットされ、物語にもアレンジは加えられているものの、「ONE PIECE」という物語の本質はしっかりと再現された作品であると感じられた。人間ドラマとしての側面がより強調されており、大人でもじっくり楽しむことができるだろう。そのいっぽうで原作をしっかり理解したうえでの再構築も行われているため、どこがどのようにアレンジされたかを探して発見するのも面白いはずだ。

また、実写になることで海や帆船といった背景の情報量がいっそう増しているのも隠れた見どころ。恐ろしげな海軍の帆船、美しい海上レストラン・バラティエ、そして頼りになる麦わらの一味の家・ゴーイングメリー号の大きさと迫力には目を見張るものがあり、今後原作を読むうえでもイマジネーションを広げてくれるだろう。

 

なお実写版ONE PIECE」は、すでにシーズン2の製作が決定している。原作者・尾田氏がトニートニー・チョッパーの姿を描く特別映像も公開されており、縫いぐるみのようにも見えるチョッパーが実写でどう表現されるかも興味深い。

今後も「ONE PIECE」の実写化が続くとしても、このスタッフなら期待以上のものを見せてくれると思えたシーズン1であった。

(文/箭本進一)


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【実写化映画、大検証!】第7回「ONE PIECE」──実写ドラマ版はあふれんばかりの原作愛と愛ゆえの再構築が光る、ファンも納得せざるを得ない実写化のお手本だ!