2ちゃんねる」のオカルトスレッド「死ぬ程洒落にならない怖い話を集めてみない?」に投稿されたことをきっかけにインターネット上を駆け抜け、その後十数年間に渡って語り継がれてきた“洒落怖”の名作が、近年相次いでホラー映画として進化を遂げている。10月20日から公開されている『リゾートバイト』もその一つ。そこで本稿では、これまで映画のモチーフとなった代表的な“洒落怖”作品をピックアップして紹介していこう。

【写真を見る】旅館の“隠し部屋”にいったいなにが…?あらゆるホラー要素が凝縮した、ネット怪談の集大成

■伝説的なネット怪談をルーツとする『リゾートバイト』

NHK連続テレビ小説ブギウギ」に出演中の伊原六花が主演を務める『リゾートバイト』。引っ込み思案な大学生の内田桜(伊原)は、幼なじみの真中聡(藤原大祐)と華村希美(秋田汐梨)と一緒に旅行を兼ねてとある島の旅館でアルバイトをすることに。本格的なシーズン前ということもあり、バイトの休憩時間にリゾート地を満喫する3人。しかしある深夜、桜は女将の真樹子(佐伯日菜子)がひっそりと廊下を歩き食事を運んでいる姿を目撃し、言い知れぬ不安を抱く。そんななか、同じ旅館で働く岩崎(松浦祐也)から肝試しを提案された3人は、女将が深夜に食事を運んでいた隠し部屋へと足を踏み入れる…。

本作のルーツとなったのは、2009年に怖い話投稿サイト「ホラーテラー」に初投稿されたあと、「2ちゃんねる」へ再投稿されたネット怪談。あまりの怖さと秀逸な展開で瞬く間に話題を集めただけでなく、“禁忌の儀式”や“人外の存在”、“人間の業”といったあらゆるホラー要素が凝縮されたことから、“ネット怪談の集大成”とまで呼ばれるようになった伝説的な“洒落怖”作品だ。

投稿者の実体験や人づてに聞いた話、あるいはあらかじめ創作だと前置きされたものもあるが、いずれもその真偽は不明。共通しているのはスレッドのタイトル通り、“とにかく怖い”ことのみ。2000年代中頃から2010年代前半にかけて数多く登場した“洒落怖”作品は、当時再燃していた都市伝説ブームと相まって若者を中心に大流行。まとめサイトも作られ、誰もが一度は聞いたことがあるような有名な怪談話もここから数多く登場していった。

■最恐の“洒落怖”が、Jホラーの巨匠のヒット作に登場!

2020年代に入り、「呪怨」シリーズの清水崇監督が実在の心霊スポットにまつわる都市伝説を題材にした『犬鳴村』(20)が大ヒットしたのをきっかけに、“洒落怖”をはじめとしたネット怪談、ネット都市伝説の映画化が急増する。『犬鳴村』から始まった「恐怖の村」シリーズの第2弾『樹海村』(21)では、古くから日本を代表する心霊スポットとして名高い青木ヶ原樹海を舞台にした物語に、キーアイテムとして「コトリバコ」が登場したことが大きな話題を集めた。

2005年頃に最初に投稿された「コトリバコ」は、大学生が見つけた奇妙な箱が、実は呪いの箱だったという、これだけ聞けばどこにでもあるような怖い話。しかしその正体と、“コトリバコ”ができた背景が明らかになっていくにつれ、そのあまりのおぞましさからネット住民たちは戦々恐々。いまでは数あるネット怪談のなかでも“最恐”の一つに数えられるようになった。

■“きさらぎ駅”の都市伝説の真相を追う女子大生に恐怖が迫る…

こうした“洒落怖”系のネット怪談を映画化した作品のなかでも、基となった話を知っているオカルトファンはもちろん、ホラー映画ファンをも唸らせた作品が、『リゾートバイト』でメガホンをとった永江二朗監督の前作『きさらぎ駅(21)だ。

2004年の冬の深夜、「気のせいかも知れませんがよろしいですか?」という投稿から始まった「きさらぎ駅」。投稿者がいつも乗る電車に乗り込んだところ、一向に次の駅に到着せず、やがて聞いたことのない無人駅にたどり着いたという奇妙な報告がリアルタイムでなされ、投稿者は線路を歩いて戻ろうとするのだが、突然その投稿が途絶えてしまう。ネット上ではこの不条理な恐怖が話題を呼び、様々な考察が進められたものの、その真相はいまだに明らかになっていない。

それから数年経って、後日談のようなものが投稿されたり、SNS時代の到来と共に再拡散されるようになると、再び「きさらぎ駅」というワードが話題を集めるように。いまでは海を渡ってアジア圏の国々にも知れ渡るようになり、たびたび「きさらぎ駅」にたどり着いたと報告する投稿が様々な場所で見受けられる。

映画では、この不可解な投稿の真相を民俗学の観点から解明しようとする主人公の姿が描かれていく。恒松祐里演じる大学生の堤春奈は、卒業論文の題材として「きさらぎ駅」を選択し、すべての発端となった投稿者の女性に話を聞きに行くことに。単に「きさらぎ駅」の恐怖を描くのではなく、現実と同じネット怪談が存在する世界線で、その恐怖を追体験するというメタ構造。さらにほかの“洒落怖”作品を彷彿とさせる要素も含まれるなど、その完成度の高さは必見だ。

■「ヒッチハイク」に「くねくね」“洒落怖”から生まれた怪談はほかにも

同じく“洒落怖”から生まれ、ネット住民たちに最大級のトラウマを植え付けたとも言われている話を映画化したのが『ヒッチハイク』(23)。日本を縦断するヒッチハイク旅行をしていた2人の男子大学生が、山奥のコンビニで一台のキャンピングカーと、それに乗り込む奇妙な家族と出会ったことで味わう想像を絶する恐怖が綴られた投稿を原典とし、視覚的により強烈な作品にパワーアップしている。

ちなみに芥見下々の人気漫画「呪術廻戦」に登場する「両面宿儺」は、もともと「日本書紀」に記された飛騨地方の鬼神様だが、それをモチーフにした怪談話も“洒落怖”の一つとして有名だ。古寺の解体中に発見された、呪物が封印された木箱を開けてしまった作業員たちが、次々と不幸に見舞われるという内容で、リアルな語り口がその恐ろしさを駆り立てる。気になる人は検索してみるといいが、くれぐれも自己責任で…。

ほかにも「くねくね」や「八尺様」など、オカルト系の創作物で頻繁に登場する怪異など、“洒落怖”をきっかけに一気に知れ渡った怪談話は多数あり、なかにはここで紹介した以外にも映像化されているものも。今後もこうしたネット怪談からホラー映画界を賑わす作品はどんどん増えていくことだろう。まずは『リゾートバイト』で、洒落にならない恐怖を存分に味わおう。

文/久保田 和馬

「2ちゃんねる」のオカルトスレッドから生まれた“洒落怖”が、ホラー映画の新たな潮流に!/[c] 2023「リゾートバイト」製作委員会