岸田文雄

ほぼ全てのメディアの10月の世論調査で、岸田文雄内閣の支持率が発足以来最低になった。何か大きな失策や不祥事があったわけではないのに、何がこの状況を生んでいるのか。

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■「青木の法則」

まずは、マスコミ各社の10月の世論調査結果を見てみよう。数字は雄弁だ。

時事通信の調査(10月6~9日、以下カッコ内は前月比)では、内閣支持率は26.3(-1.7)%で、内閣発足以来最低である。この数字に自民党支持率の21.0%を足すと47.3%で、50%以下である。

参議院のドンと称された青木幹雄は、内閣支持率と与党第一党の支持率の和が50%以下になると、政権は倒れると言った。これを「青木の法則」という。つまり、既に岸田内閣への退陣要求が出たと考えてよい。内閣不支持率は、46.3(+2.3)%である。

朝日新聞の調査(14、15日)によると、内閣支持率は29(−8)%で、過去最低である。不支持率は60(+7)%で、自民政権復帰(2012年)以来最高である。政党支持率は、自民党26%、無党派45%である。

読売新聞の調査(13~15日)では、内閣支持率34(-1)%でやはり過去最低である。不支持率は49(−1)%である。政党支持率も、自民党は30%で、無党派は46%である。

毎日新聞の調査(14、15日)によると、内閣支持率は25(±0)%、不支持率は68(±0)%である。政党支持率は、自民党が23%、無党派が27%である。この調査でも、青木の法則が当てはまる。

共同通信の調査(14、15日)では、内閣支持率は32.3(-7.5)%で過去最低、不支持率は52.5(+12.8)%で過去最高である。

産経新聞の調査(14、15日)では、内閣支持率は35.6%で過去最低、不支持率は59.6%で過去最高である。

 

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■「経済無策」

以上見てきたように、内閣支持率が内閣発足以来で最低というほど低い。なぜなのか。それは、物価上昇などについて有効な対策を講じていないという不満が国民の間で広まっているからである。

朝日新聞の調査では、政府が月内にまとめる経済対策に対して、「期待できない」が69%に上り、「期待できる」は24%にすぎない。「期待できない」とした人については、内閣不支持率は75%である。

同じ質問に対する毎日新聞の調査では、「期待する」が21%、「期待しない」が63%である。読売新聞では、「期待できる」が21%、「期待できない」が73%である。いずれも同じような回答である。

物価上昇、生活苦の改善が見られないことに、国民は閉口している。

 

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■税収増なのに減税せず

岸田首相がなぜ「増税クソメガネ」などと批判されるかというと、税収が増えているからである。

税収は、2020年度に60.8兆円と過去最高となり、2021年度は67.0兆円、2022年度は71.1兆円と、わずか2年で10兆円以上も増えている。しかし、賃金の上昇は物価の上昇に追いついていない。物価が上がれば、消費税負担も上がる。名目賃金が上がれば、所得税負担も増える。企業が儲かれば、法人税もより多く支払うことになる。そこで、「増税クソメガネ」と揶揄される。

岸田首相は、「今こそ経済成長の果実を国民に還元すべきだ」と述べ、「減税」も口にした。しかし、16日に自民党がまとめた経済対策の提言には、所得税の減税には全く触れていない。

これでは、「増税クソメガネ」という批判は続くであろう。そもそも、少子化対策や防衛費増額で財源が必要なのに、減税というのでは辻褄が合わない。

 

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■有事のリーダーとしては失格

イスラエル・エルサレム

岸田首相は、物静かなタイプの政治家で、落ち着いているが、強烈なアピール力に欠ける。その分、ポピュリズムに走る危険性は少ないが、国民にとっては、抑揚のない平板な歌を聴かされている感じである。記者会見も、演説も、一本調子で国民の心に響かない。

平時にはそれでも良いが、今はウクライナ戦争、円安、物価高、ハマスイスラエル戦争と有事である。有事には、思い切った対策で、国民のニーズに応えるようにし、その政策を力強く、自分の言葉で語らなければならない。

そして、政策のアピールにはパフォーマンスも必要なのである。ところが、今の岸田首相には、「何もしない」というイメージしかない。これでは有事のリーダーとしては失格である。

22日には衆院長崎4区と参院徳島・高知選挙区の補選が行われるが、自民党にとって情勢は厳しい。解散どころではないかもしれない。

 

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■執筆者プロフィール

舛添要一

Sirabeeでは、風雲急を告げる国際政治や紛争などのリアルや展望について、元厚生労働大臣・前東京都知事で政治学者の舛添要一(ますぞえよういち)さんが解説する連載コラム【国際政治の表と裏】を毎週公開しています。

今週は、「内閣支持率」をテーマにお届けしました。

岸田内閣の支持率が過去最低値を記録、永田町の常識では既に「政権は倒れた」状況