「性奴隷扱いされたあと、ボロ雑巾のように捨てられました」。関東在住の公務員の母親は、長女アヤノさん(20代・仮名)に起きた悪質ホスト問題をこう語る。ホストに取り込まれたアヤノさんは大学3年の冬から中絶、都内での風俗店勤務、地方への風俗出稼ぎと暗転の道を歩んだ。結婚をエサにしていたホストに捨てられ、先月ようやく実家を頼ってきたが、母親は「今後、社会に再度出てやっていけるのか」と不安を抱えている。(ジャーナリスト・富岡悠希)

●「医学部生」を騙るホストにのめり込んだ

母親が重い口を開いたのは、東京・新宿にある公益社団法人「日本駆け込み寺」の事務所。同法人内に今年7月に設立された「青少年を守る父母の連絡協議会」(略称:青母連/せいぼれん)の「第1回保護者の集い」が開かれ、メディアの取材に応じた。

アヤノさんは、数歳年下の妹と父母との4人家族。内向的な性格で、さほど友人も多くなかったが、勉強や出された課題などにはコツコツ取り組むタイプだった。

家庭内では「パパっ子」で、父親と仲良かった。対照的に妹は母親と気が合った。しかし、その父親はアヤノさんが高校生のときに病気で亡くなってしまう。母親は「そのころから内にこもる傾向が強くなりました」と振り返る。

それでもアヤノさんは表立った問題を起こすことなく、3年の冬までは進学した大学にきちんと通い、昼間のバイトでお小遣いを得ていた。ところが、ネットを介して、5歳ほど年上の「医学生」のレイ(仮名)と知り合ってから生活が一変する。恋愛経験がゼロだったことから、一気にのめり込んだ。

当時は、レイの写真を見せて、状況を報告するなど、母親とアヤノさんには、多少なりとものやり取りがあった。レイのピアス姿に疑問を感じた母親は「医学生じゃなくて、獣医学生なんじゃない?」と尋ねた。すると、アヤノさんは「そんなわけないじゃん」と目をつり上げて怒った。

しかし、レイは獣医学生ですらなく、歌舞伎町にあるホストクラブのホストだった。先の会話からしばらくのち、アヤノさんの部屋にあった店のカードを母親が見つけたことから判明した。

ソープランドに勤務するように

母親が「娘がホストにハマった」と気付いたころには、事態は深刻化していた。

アヤノさんは大学に行かなくなり、心配した学校から母親に連絡がきた。アヤノさんは聞いても理由をごまかしたが、手帳を確認すると都内のソープランドで働いていることがわかった。「〇月〇日 30000円」「×月×日 50000円」。アヤノさんは勤務日と稼ぎを手帳に蛍光ペンで詳細に記載していた。

それを見た母親は「一言では表現できないほどのショックを受けた」という。「一体何が起こっているのか?」の混乱に続き、悲しみと恐怖が同時に襲ってきた。気持ちが一巡すると、今度は「家を崩壊させてはならない。何としても家族を守らなければ」との気持ちが湧いてきた。

当時、高校生だった妹は受験を控えていた。姉の風俗店勤務が知られて、動揺させるわけにはいかない。母親は隠し通すことに決めた。

また、レイはいわゆる「枕営業」もおこない、アヤノさんを妊娠・中絶させた。母親がその事実に気付いたのは、アヤノさんの部屋にある書類を見たからだ。

次にアヤノさんはスーツケースを持って、1〜2週間ほど自宅を留守にするようになった。母親には何も知らせないまま、地方風俗店への出稼ぎを始めた。

ある日、自宅近くの警察から母親に「そちらのお嬢様がお金を貸してほしいと言っているのですが」と連絡が入った。慌てて駆け付けると、娘は北関東まで風俗出稼ぎに行くのに、電車賃すらないというのだった。

母親とアヤノさんは、その場で口論となった。「帰って来なさい」と説得する母親に対して、アヤノさんは「私は彼の夢をどうしても応援したい」と譲らない。

警察は「成人している娘さんに対して、できることはない」と傍観した。母親は最終的に1万円札を渡して、ホストに貢ぐ金を稼ぎにいく娘の後ろ姿を見送るしかなかった。

●「完全にマインドコントロールされている状況だった」

アヤノさんはそれから約2年半、家出同然で各地の風俗店へと出稼ぎに行った。レイとは月1回、その稼ぎを手渡しするときだけ会っているようだった。

自分一人の手に負えなくなった母親は相談先を探し回り、昨冬、日本駆け込み寺の前代表で、現理事の玄秀盛さん(67)にたどり着いた。

今年2月、駆け込み寺の事務所で、母親、アヤノさん、レイと駆け込み寺メンバーの四者面談が実現した。アヤノさんはレイを「恋する乙女」のまなざしで見つめた。母親は「完全にマインドコントロールされている状況でした」とその様子を分析する。

アヤノさんは家にいるとき、「レイ君と結婚したい」「早くレイ君と幸せな家庭を築きたい」とその心境を吐露していたという。

面談のとき、母親は「本当に娘と結婚する気があるのですか?」と尋ねた。ダブルスーツを着こんだレイの返答は「結婚は、今はすることはないかなと考えています」。何を聞いても、のらりくらりで「まるで表情のない爬虫類を相手にしているようでした」(母親)。

このとき、駆け込み寺メンバーがレイから、売掛金の残高は「900万円」と聞いた。出稼ぎ風俗でアヤノさんはその数倍を稼ぎ、レイに手渡していたはずだった。

先月、職場にいた母親の元に、アヤノさんからLINEと電話が連続して入った。「レイ君に捨てられた」という連絡だった。別れ際、レイはアヤノさんに「風俗で働くような気持ち悪い女には二度と会わない。金は一括で返せ」と吐き捨てたという。

アヤノさんは泣き叫んだが、母親は「ここが最大の転換期」と捉えた。その日のうちに、玄さんとの三者面談を設定。そこで得たアドバイスも踏まえ、母親は自宅近くにアヤノさんが住む部屋を借りた。2年半ぶりに戻ってきた娘に対して、いきなり過干渉となるのを避けるため、「クールダウン期間」を設けることにした。

●「こんな悪質ホストのやり口が許されていいわけがない」

今、母親とアヤノさんは付かず離れずの距離を保っている。母親は売掛金「900万円」については、「本当に支払いが必要だと証拠と共に提示されれば、対応する」としている。

アヤノさんは「1人暮らしは楽しい!」という感想を寄せるが、大学中退し、母親を振り回したことに何らの謝罪の言葉はない。

当初の決断通りに妹に対して隠し通せてはいるが、母親の気は休まらない。アヤノさんが、またホスト通いを始めないかとの心配は消えない。もしかしたら、自分の知らない間に、すでに風俗店勤務を始めているおそれもある。何より「今後、社会に出てやっていけるのか」との不安を拭えない。

同時に、母親はレイがアヤノさんにしたことに対する、憤りも抱えている。

「中絶させたうえ、風俗店勤務へと仕向けるなど、彼は娘から性的搾取し、健康被害をももたらした。恋愛感情と結婚をエサに性奴隷扱いされたあと、ボロ雑巾のように捨てられたと言うしかない。こんな悪質ホストのやり口が許されていいわけがない」

「医学部生」騙るホストにハマった女子大生、母親が怒り告白「娘はボロ雑巾のように捨てられました」