なかなか浮上しない日本の景気ですが、政府と日銀は力を合わせてコントロールに努め、頑張っています。景気悪化の局面では景気を刺激する対策をおこなって回復を試み、インフレが過熱すると景気を悪化させて歯止めがかけるよう働きかけます。具体的な手法と効果、そして副作用について、経済評論家の塚崎公義氏が平易に解説します。

景気は、政府日銀が「調整」している

景気が悪いときは、政府と日銀が景気を回復させようと頑張ります。反対に、景気が過熱してインフレが心配なときには政府と日銀が景気をわざと悪化させてインフレを抑え込もうとします。政府の政策を「財政政策」、日銀の政策を「金融政策」と呼びます。

一般論としては、「財政政策は景気を回復させるのが得意で、景気を悪化させるのが苦手」「金融政策は景気を悪化させるのが得意で、景気を回復させるのは苦手」です。ただ、後述するように、アベノミクスのときに景気を回復させたのは、財政政策より金融政策の効果が大きかったようです。

財政政策は「公共投資」と「減税」だが…どちらも一長一短あり

財政政策には「公共投資」と「減税」があります。どちらも一長一短なのですが、日本は公共投資が好きで、米国は減税が好きなようです。

公共投資は、政府が金を出して失業者を雇って道路や橋を造らせる、というものです。雇われた元失業者がテレビを買えば、テレビメーカーが増産のために別の失業者を雇う、といった具合に好循環が期待されるわけです。

少なくとも政府が雇った人数だけは確実に失業者が減るので、景気回復の効果はあるのですが、無駄な道路が作られる、といった問題があります。不況期に急いで工事をしようと思うと田舎の土地を買収するしかない、ということなのでしょうが、理想をいえば、好況時に次の不況に備えて計画をたて、設計図も描いておいてほしいものですね。

減税は、戻ってきた税金が無駄に使われることはありません。各自が欲しいものを買うでしょうから。ただ、人々が戻ってきた税金を老後のために貯金してしまったら、景気はよくなりません。

減税には、設備投資減税のようなものもあります。「設備投資をした企業は法人税を安くするから、どんどん投資をしましょう」というわけです。これで設備投資が増えればいいのですが、以前から設備投資を計画していた企業だけが設備投資を行って減税を受け取ったとすれば、景気をよくする効果は薄いかもしれません。

公共投資も減税も、景気をよくする効果は比較的大きいですが、景気を悪化させるのは不得意です。「インフレが心配なので増税して景気を悪くします」というのは政治的に不人気でしょうし、増税法案が審議されている間に景気がさらに過熱してインフレが悪化してしまう可能性も大きいでしょう。できるのは「予定されていた公共投資を延期する」程度でしょう。

金融政策はヒモのようなもの。引っ張れるが、押せない

金融政策の基本は銀行間で貸し借りされる際の金利を上げ下げして、銀行の企業への貸出金利に影響を及ぼし、それによって企業の設備投資に影響しようというものです。「金利が高いから設備投資を待とう」「金利が下がったから設備投資をしよう」という企業行動を期待しているわけです。

十分に金利を上げれば、設備投資を延期する企業が増えますから、景気を悪化させるのは簡単です。上げすぎて景気が失速しないように気を付けることは当然必要ですが。

一方で、金利を下げても設備投資はそれほど増えません。現存する工場の稼働率が低いときに「金利を下げたから借金で設備投資をしてください」といわれても、応じる会社は少ないでしょうから。

バブル崩壊後の長期低迷期、日銀は金利を下げ続けましたが景気は回復せず、金利がゼロになってからは、これ以上金利は下げられないので、金利ゼロの資金を大量に銀行へ提供しました。しかし、銀行の貸出金利は下がらないので、景気への影響はほとんどなかったと思います。なお、実際にはマイナス金利も採用されていますが、マイナス幅が非常に小さいので、本稿では取り扱わないこととします。

以上のように、金融政策は景気を悪化させることは得意でも、回復させることは不得意です。これを「金融政策はヒモのようなものだ。引くことはできても押すことはできない」という人がいますが、納得です。

アベノミクスで起きた「不思議なこと」

理屈では、上記のように景気回復力は財政政策が強く金融政策は弱いのですが、アベノミクスのときには、財政政策も金融政策も必死に景気を回復させようとしたのに、金融政策の方が効果を発揮しました。

財政政策は、初期は効果を発揮しましたが、すぐに建設労働者が足りなくなり、予算は計上したのに工事が着工できないという事例が多く、結局、あまり景気には貢献できなかったようです。

金融緩和は、銀行貸出を通じて企業の設備投資を増やす効果はありませんでしたが、金融緩和によって株とドルが値上がりしました。そしてその株高とドル高が景気を回復させたのです。

株価と為替(ドルの値段)は、人々が上がると思うと人々が買い注文を出すので、実際に上がる、という性質があります。黒田日銀総裁(当時)が自信満々に「ドルと株は上がるだろう」と記者会見したので、多くの人がそれを信じて買い注文を出したのです。

ゼロ金利下で金融緩和をしても、ドルと株が上がる理由はとくにないのですが、ドルや株を売買している人々の多くは「金融が緩和されるとドルと株が値上がりする」と信じているので、もともとドルと株はあがりやすかったのですが、黒田総裁の自信満々の会見がそれを後押しした、ということだったようです。

今回は、以上です。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密ではない場合があります。ご了承いただければ幸いです。

筆者への取材、講演、原稿等のご相談は「ゴールドオンライン事務局」までお願いします。「THE GOLD ONLINE」トップページの下にある「お問い合わせ」からご連絡ください。

塚崎 公義 経済評論家

(※写真はイメージです/PIXTA)