『悪魔城ドラキュラ』。またの名で『キャッスルヴァニア』。KONAMIの看板タイトルのひとつにして、ゴシックホラーの世界観を特色とするアクションゲームだ。

【画像】『悪魔城ドラキュラ』の歴史をゲーム画面で振り返る

 その『悪魔城ドラキュラ』のなかで、とりわけシリーズ全体に大きな変革をもたらし、人気を広げた立役者とも言える存在が1997年発売の『悪魔城ドラキュラ 月下の夜想曲』(以下、月下の夜想曲)だ。

 横スクロールの探索型アクションRPGという、それまでのステージクリア型アクションゲームの路線と一線を画す作りになった同作は1997年当時、国内で約19万本(※メディアクリエイト調べ、1996年12月30日1997年12月28日まで)の売上を記録。海外でも大きなヒットとなり、シリーズの新境地を開拓するに至った。

 その成功から、アクションRPGの『悪魔城ドラキュラ』は続編も作られ、ゲームボーイアドバンスニンテンドーDSという携帯ゲーム機を主舞台に展開されていく。しかし、その続編も15年前の2008年10月23日に発売された『悪魔城ドラキュラ 奪われた刻印』(以下、奪われた刻印)をもって、事実上の終わりを迎えた。以降も『悪魔城ドラキュラ』の新作は販売され、アクションRPGの系譜に連なる総決算的な新作として『悪魔城ドラキュラ Harmony of Despair』がダウンロード専用タイトルとして出ている。

 ただ、『月下の夜想曲』の路線に連なる完全新作は2023年現在、『奪われた刻印』が最後となっている。

 『奪われた刻印』は『悪魔城ドラキュラ 蒼月の十字架』(以下、蒼月の十字架)、『悪魔城ドラキュラ ギャラリーオブラビリンス』(以下、ギャラリーオブラビリンス)に続く、ニンテンドーDS向け『悪魔城ドラキュラ』シリーズの3作目として発売された。

 ドラキュラ伯爵との死闘を繰り広げた「ベルモンド一族」の消息が途切れた19世紀初頭。万物に宿る力を術式変換し、刻印化した印術「グリフ」を編み出したドラキュラ対抗組織「エクレシア」に属する戦士「シャノア」が、兄弟子「アルバス」に奪われた禁断のグリフ「ドミナス」を取り戻すのための戦いを繰り広げていくという内容である。

 そのストーリー設定に「グリフ」を用いた攻撃アクションなど、シリーズとしては異色の試みも多かった『奪われた刻印』。それに合わせて本作は、『悪魔城ドラキュラ』の原点にアクションRPGの視点から回帰する方針も見られる新作になっていた。

 『悪魔城ドラキュラ』の原点。それは先も言及したように、ステージクリア型のアクションゲームである。

■ステージクリア型アクションゲームとしての誕生から、探索型主体の新時代へ

 2023年現在では任天堂の『メトロイド』シリーズと並び、探索型アクションゲームの象徴的存在になっている『悪魔城ドラキュラ』。

 だが、もともとの『悪魔城ドラキュラ』はステージクリア型のアクションゲームとして産声をあげた作品。主人公の「シモン・ベルモンド」を操作し、ドラキュラ伯爵の討伐を目指して全6ステージの攻略に挑むというものだった。

 初代『悪魔城ドラキュラ』の続編『ドラキュラII 呪いの封印』では一転、謎解き要素の濃いアクションRPGになったが、その次の『悪魔城伝説』ではステージクリア型へと回帰。以降もスーパーファミコンの『悪魔城ドラキュラ』、PCエンジンCD-ROMの『悪魔城ドラキュラ 血の輪廻』、メガドライブの『バンパイアキラー』といったステージクリア型の新作が発売され、シリーズの歴史を築き上げていった。

 その出自を知っていて、なおかつ関連作品をリアルタイムで遊んできた世代から見れば、探索型アクションRPGの『悪魔城ドラキュラ』というのは異端の存在として映りやすい。

 それに2つはゲームとしての方向性も大きく異なる。

 ステージクリア型がプレイヤーの技量を問う“引き締まった作り”なのに対して、探索型はレベルアップや装備のカスタマイズといったRPG的な攻略を許容する“緩さを持った作り”だ。操作感もステージクリア型はジャンプアクションの空中制御が効きにくい一方(※一部例外あり)、探索型は効きやすい設計で決定的に違う。

 逆にゴシックホラーの世界観、それを引き立てる印象深い音楽はどちらも共通。アクションゲームとしての遊び応え、面白さを重視した作風もまた然りである。

 ただ、前述した方向性の違いもあり、ステージクリア型に親しんできた世代には違和感を抱きやすい側面があった。

 あまりの違いから、「探索型は『悪魔城ドラキュラ』ではない!」との認識に至った人も少なくないのではないだろうか。探索型アクションゲームの象徴的存在となり、盤石の人気を得た2023年現在では、もはやそのような声自体が時代錯誤になってしまった感があるが。

 また、ステージクリア型は操作感のクセの強さなどから難易度が高く、アクションゲームが苦手な人はお断りなイメージをまとっていた。そのような尖った部分を削り、『悪魔城ドラキュラ』未経験のプレイヤーにも取っつきやすいシステムを備えた探索型が人気を博し、シリーズの象徴になるのは(やや残酷ながらも)自然な展開だったと言えるだろう。

 とは言え、ステージクリア型の新作を求めるファンからすれば、探索型へのシフトが進んだ2000年前半がもどかしい時期だったのは想像に難くない。事実、その頃に発売された横スクロールの新作『悪魔城ドラキュラ』の多くは、ほとんどが探索型だった。

 しかし、2000年後半になると『悪魔城ドラキュラX クロニクル』なる『悪魔城ドラキュラ 血の輪廻』のリメイク作品が発売。完全新作ではないものの、久しぶりのステージクリア型『悪魔城ドラキュラ』の新展開が起きた。

 ファミ通.comで2007年11月に掲載されたプロデューサー・五十嵐孝司氏のインタビューによれば、同作の開発経緯は海外未発売の『悪魔城ドラキュラ 血の輪廻』を北米のユーザーに向けて届けることを目的にしていたという。

また、件のインタビューでは「(ステージクリア型を)改めて遊んでみると、けっこう楽しいんですよ(笑)」と、新たな発見があったとのコメントも残している。

 そんな“温故知新”な作品を間に挟んだ影響か、翌年発売の探索型の完全新作『奪われた刻印』にもステージクリア型の遊びが盛り込まれ、結果としてハイブリッドな『悪魔城ドラキュラ』が誕生するに至ったのである。

■探索型の課題、閉塞感の打破を目指す試みがステージクリア型に行き着いた

 『奪われた刻印』における“ステージクリア型の遊び”というのはエリア選択制の導入だ。『月下の夜想曲』をはじめ、探索型『悪魔城ドラキュラ』シリーズは広大な悪魔城のマップを探索し、敵との戦闘やイベントを攻略していくスタイルを基本としていた。

 ただ、このスタイルには弊害があった。閉塞感の高まりである。

 舞台がひとつだけ、それも城というテーマに絞られることからデザイン的な縛りが生まれ、マップ構造や見た目の違いが表現しにくくなってしまう。この弊害は探索型のシリーズ化に伴って目立ち始め、徐々にマンネリ感が現れてくるようになった。

 ステージクリア型にもそんな縛りは付きまとったものの、区切られながら進行する都合、やり方次第では広げられる強みがあった。実際、それに挑んだ作品として、ヨーロッパ全土が舞台となった『バンパイアキラー』がある。

 そして、『バンパイアキラー』の続きのストーリーを描いたニンテンドーDSの第2作『ギャラリーオブラビリンス』では、閉塞感の打破を試みた。それが「絵画の世界」という、悪魔城以外のマップに城内へと行き来する仕組みだ。

 『奪われた刻印』は、その方向性を引き継ぎながら、エリア選択制を採用することでさらなる細分化を実施。城以外の独立したマップ(エリア)が多数設けられ、本編の流れもそれらを順に探索し、次のマップを開拓していくものに変更されたのだ。

 その流れは、まさしくステージクリア型の遊びそのものである。

 そして、城というテーマに絞られなくなったことにより、マップの構造バリエーションにも広がりが生まれた。そのためか、真横に広いだけという、ステージクリア型『悪魔城ドラキュラ』を模した1本道マップも新たに登場している。

 一方で、城以外を探索する機会が増えたことで、『悪魔城ドラキュラ』という名の意味が薄れた……と思いきや。実際はこれまでにも増して、その名の意味を重く感じるストーリー展開を作り出すに至っている。ゲームプレイと演出、果ては音楽までも強力に絡み合ったその展開は、間違いなく本作が『悪魔城ドラキュラ』であると痛感させられる、シリーズでも随一の名場面と言ってもいいだろう。

 このような試みによって、『奪われた刻印』は過去の探索型シリーズにも増して『悪魔城ドラキュラ』原点の面白さと味わい、そしてその題名の重みを持った新作になった。

 閉塞感の打破を目指した『ギャラリーオブラビリンス』の試みが、結果的にステージクリア型への原点回帰に行きついたというのは、なかなかに興味深い変遷だ。そして、こうした作りもあって、『奪われた刻印』はステージクリア型の『悪魔城ドラキュラ』に慣れ親しんだ人にも受け入れやすい作りになっている。

 逆に探索型のシリーズに慣れ親しんできた人には、注意が必要な作りになっている。というのも、難易度が底上げされているからだ。横に長いマップに象徴される探索要素が皆無のマップが設けられた分、敵が軒並み強化され、僅かな油断がゲームオーバーへとつながる手ごわさとなっている。ボスも全体的にこの傾向が反映され、レベルや装備による強化を図っても、きちんと相手の動きを読んだ上での立ち回りが求められる。

 しかし、それがステージクリア型『悪魔城ドラキュラ』らしく、慣れ親しんだ人ほど懐かしく感じやすい。厳密には操作感などで違いはあれど、常に油断ならない立ち回りが求められる作りには「これだ!」となってしまうだろう。

 ほかにも探索型のシリーズは、ストーリーが過去の『悪魔城ドラキュラ』と関連した続きモノであるなど、特有のハードルが存在した。

 それも本作は関連性控えめの独立したストーリーで、シリーズ経験のないプレイヤーにも受け入れやすくなっている。そのストーリーの出来も良く、とりわけ前述の『悪魔城ドラキュラ』の意味を描いた展開は非常に心に残るものに仕上げられている。

 閉塞感に代表される探索型特有の課題を解消し、ステージクリア型の新作を求める声にもゲームデザインの形で応える。さらには、『悪魔城ドラキュラ』というタイトルの意味を強く定義させるストーリーをも実現させた。

 あらためて見ても、『奪われた刻印』はステージクリア型から始まり、探索型の新境地にたどり着いた『悪魔城ドラキュラ』の集大成にして、総決算の新作だったと言えるだろう。

 ある意味では、新たな探索型シリーズの始まりを予感させる作品だったとも言える。

■高まり続ける遊ぶためのハードル。そして、復刻における大きすぎる課題

 しかし、『奪われた刻印』の後の探索型シリーズがどうなったかは冒頭で言及した通りである。結果的に最後の作品となってしまった。

 もともと、『悪魔城ドラキュラ』は海外では人気な反面、日本での売り上げが伸び悩んでいたという実態があった。『奪われた刻印』も発売初週の売上本数は1万9000本(※メディアクリエイト調べ、2008年10月20日~26日まで)で、厳しい出足となっている。

 後に海外で3Dの『悪魔城ドラキュラ』新作、『キャッスルヴァニア ロードオブシャドウ』(以下、ロードオブシャドウ)が大きな成功を収めると共に、横スクロールのドット絵を基調とする『悪魔城ドラキュラ』はステージクリア型、探索型ともに姿を消した。ただ、その直前に発売された新作が、探索型とステージクリア型のハイブリッドであったのには、どこか“エモい”ものを感じてしまうのは筆者だけだろうか。

 また、『奪われた刻印』の後にも『ドラキュラ伝説 ReBirth』なる、ゲームボーイの『ドラキュラ伝説』をベースにしたステージクリア型の新作がWiiウェア専用タイトルとして発売されている。

 そのことからも、2000年代後半の『悪魔城ドラキュラ』には、探索型に限らない幅広い新作展開を試みようとした形跡が見られる。『悪魔城ドラキュラ ジャッジメント』なる、対戦型アクションゲームの存在もそれを物語っている。結局、その新展開はすべて『ロードオブシャドウ』が担う形となってしまったが……。

 2023年現在、『奪われた刻印』を含むニンテンドーDS向けに発売された『悪魔城ドラキュラ』シリーズ3作は中古価格が大幅に高騰。非常に購入しにくくなっている。ゲームボーイアドバンスで発売された『悪魔城ドラキュラ』3作と違い、現行プラットフォームでの復刻も実現していない。それもあり、遊ぶハードルが年々高まり続けているのがもどかしい限りだ。

 しかも、昨今は発売当時にも増して探索型『悪魔城ドラキュラ』の人気・知名度が高まっている。ゆえにニンテンドーDSで発売された3作をすでに実現したシリーズ作品にならって、コレクション形式で復刻されることを求める声も少なくない。

 しかし、その復刻は困難を極めるだろう。なぜならば3作のひとつ、『蒼月の十字架』にはタッチ操作専用の要素として「魔封陣」、「バロール」なるものが存在するからだ。

 しかも、「魔封陣」はボスにトドメを刺すとき、「バロール」は探索範囲を広げるときに障害となる特殊なブロックを破壊するに当たって必ず使うことになる。どちらもゲームの根幹に深々と食い込んでしまっているのだ。

 残る『ギャラリーオブラビリンス』、『奪われた刻印』にもタッチ操作は存在するが、基本的に補助程度。『蒼月の十字架』だけが深く食い込んでしまっているので、現行プラットフォームで復刻させるなら、システムそのものの抜本的な変更は避けられないのである。それだけでも、新作を作るほどの労力が必要となるのが想像されるため、いかにコレクション形式での復刻の難易度が高いのかは言うまでもないところだ。

 とはいえ、『奪われた刻印』も含め、ニンテンドーDSで発売された3作はいずれも素晴らしい出来を誇る傑作である。それがどんどん、遊ぶのが難しい過去のゲームと化していくのは遊び込んだ人間としては看過できたものではない。前述の特徴の都合、容易ではないのは重々承知しているが、そう遠くない未来に現行の環境で遊べる時が来ることを願いたい。

 その暁に『奪われた刻印』が実現させた、ステージクリア型と探索型の“ハイブリッドな作り”、『悪魔城ドラキュラ』の意味を重く定義したストーリーに再注目が集まればと思うばかりだ。

(文=シェループ)

©Konami Digital Entertainment