平均寿命は延び、人生100年時代も絵空事ではなくなってきた昨今。定年後も希望すれば働ける環境が整いつつあります。とはいえ年金の受給が始まると、徐々にフェードアウトし、悠々自適な老後を満喫するというのが定番です。しかし「一生働く」と覚悟を決めている人もいるようです。みていきましょう。

働きたいだけ働ける環境は整いつつあるが…

日本人の平均寿命は、男性が81.05年、女性が87.09年。仮に60歳で定年を迎え仕事を辞めた場合、20年以上も生きていくだけのお金はどうするのか……頭の痛い問題です。老後、安心して生きるためには、定年後も働き続けることが有力な選択肢だといえるでしょう。

現在、法改正により、65歳までの雇用確保が義務付けられたことに加え、65歳から70歳までの就業機会の確保が努力義務となりました。厚生労働省令和4年 高年齢者雇用状況等報告』によると、65歳までの高年齢者雇用確保措置を実施済みの企業は235,620社で99.9%。また65歳定年企業はは52,418社で22.2%。大企業では15.3%、中小企業では22.8%です。慢性的な人手不足で悩む中小企業のほうが、長く働いてもらうために積極的です。

ただ多くの企業で定年は60歳のまま。契約社員や嘱託社員などと雇用形態を変え、非正規社員として65歳まで働き続けることができるよう整えている企業が大半です。このほうが人件費の上昇を抑えられる、などのメリットがあるのでしょう。

また66歳以上まで働ける企業についてみていくと、95,994社で全体の40.7%。中小企業では41.0%、大企業では37.1%となっています。さらに70歳以上まで働ける制度のある企業は92,118社で、全体の39.1%。中小企業では39.4%、大企業では35.0%。やはり、中小企業のほうがやや有利といった状況です。

長く働ける環境は、どんどん整いつつありますが、現状、実際に何歳まで働くかは人それぞれの事情があります。内閣府令和5年版 高齢社会白書』によると、働いている60歳以上に「何歳まで働きたいか」聞いたところ、最多は「65歳くらいまで」で25.6%。「70歳くらいまで」が21.7%、「働けるうちはいつまでも」が20.6%と続きます。現在、公的年金の支給は原則65歳ですから、無収入の間を埋めるために定年後も働き、年金を手にするようになったら区切りをつけていく、というパターンが多いようです。

では「働けるだけ働きたい」という人は、どういう人なのでしょうか。仕事が生きがいという人もいますが、大部分は「辞めたくても辞められない」というのが本音です。

正社員登用ありを信じて20年…もう少し早く方向転換したなら

ーー就業規則を確認したら、70歳までは働けるらしい

そう安堵したという50代男性。高校を卒業してから、ずっと非正規として働き、現在に至るといいます。いつまで働けるかを意識するにはまだ早いのではと感じますが、「働けるうちは働かないと」と男性。月収は月20万円で、手取りは16万円ほど。家賃月5万円のアパートに20年以上も住んでいるといいます。昨今の物価高で生活は苦しくなるばかり……このような状況を呟くと、「正社員になろうと思わなかったのか」「低年収は自業自得」などと、叩かれることもあるのだとか。

正社員登用ありという言葉を信じて頑張っていたころもあった」と男性。その会社では20代から40代目前まで働いていたといいますが、結局正社員になれずその道を諦めたといいます。「早めに方向転換ができていたら、人生、変わっていたんでしょうかね」

現在、契約の更新によって同じ企業で5年を超えて働いた場合、希望すれば期間の定めのない雇用に切り替えられるよう企業に義務付ける「無期転換ルール」があります。ただ、権利発生の直前に雇い止めが行われるなど、トラブルも頻発。そこで厚生労働省は労働基準法施行規則5条を改正し、2024年4月から契約期間や更新回数の上限の有無とその内容の事前明示が義務となります。

一生働き続けるしかないと覚悟を決める、50代非正規男性。仮に高校卒業以来、ずっと非正規社員の平均給与を得てきたと仮定し、年金支給の直前まで厚生年金にも加入できていたら、どれくらいの年金がもらえるのでしょうか。単純計算ではありますが、厚生年金は月6.5万円ほど。国民年金と合わせると、月13万円程度になります。保険料などが引かれると、月12万円くらいでしょうか。貯蓄が十分でない限りは、仕事を辞めることは難しいでしょう。

ただ65歳以降も働き続けるなら、利用したいのが「年金の繰り下げ」。65歳から受け取る年金を66歳から75歳まで繰り下げて増額した年金を受け取れる制度です。1ヵ月繰り下げるごとに、年金は0.7%ずつ増えていきます。月13万円の年金は、70歳で受け取り開始とすると月18.46万円、75歳なら月23.9万円になります。また厚生年金は70歳まで加入可能(70歳以降は任意で厚生年金保険への加入が可能)。その分の増額も期待できます。

一生、働くしか……そう考えている人には、少しは希望の光になるのではないでしょうか。

(※写真はイメージです/PIXTA)