日本では物価高騰が続いており、日銀が金融緩和を続けていることから、今後さらにインフレが進む懸念があります。この状況下では、資産を現預金のみで保有していると著しく目減りするおそれがあります。どう対策すればよいでしょうか。日銀で景気動向調査、金融業務、決済システムの開発に携わった経験をもつCFP・小松英二氏の著書『はじめての金利×物価×為替の教科書』(ビジネス教育出版社)から一部抜粋して紹介します。

「インフレに負けない」金融商品を選ぶポイント

お金の価値が下がり、物価が上昇するインフレの状況下で、資産の目減りを防ぐには、どのような金融商品を保有しておくべきでしょうか。

まず、「株式投資」で銘柄を選択する場合は、世界情勢を考えると資源・エネルギー分野で権益を持つ企業や資源ビジネスを展開する企業がポイントになります。そのほか、物価の動きにあわせて元本が変動する「物価連動国債」、エネルギー、金属、農畜産物等に着目する「コモディティ型投資信託」が選択肢となります。

なお、金融商品ではありませんが「不動産」を保有するという選択肢もあります。

以下、金融商品等の種類ごとにその特性を説明します。

「株式投資」はインフレでも売上・利益を伸ばせる銘柄を選ぶ

株式投資は、中長期的にインフレに強い資産といえるでしょう。仮に日銀が目指すインフレ率2%、あるいはそれに近い程度に達して、日本経済がそのインフレ水準を維持するとしましょう。

株式投資においては、消費者の購入意欲を削がない程度に販売価格を引き上げ、売上・利益を伸ばしていける企業(銘柄)選びがポイントとなります。そのような企業は、「販売数量×単価」である売上高を増やし、利益拡大も目指せることから、株価は上昇しやすくなり、インフレヘッジの役割を果たせます。

銘柄選択のポイントは、インフレでもコスト上昇分を販売価格に反映させることができ、販売数や顧客数が落ちない銘柄です。具体的には、圧倒的な「ブランド力」のある企業、競合が少ない独占的な市場の企業等が挙げられます。

業種としては、昨今の世界情勢を考えると資源・エネルギー分野で権益を持つ企業や資源ビジネスを展開する企業が注目されます。

ただ、インフレ率2%を超える急激なインフレが続くようだとシナリオは大きく崩れます。すなわち、消費者の購入意欲を減退させる高いインフレだと売上高が減少して利益も縮小する可能性があり、株価は低下しやすくなります。売上高は「販売数量×単価」で決まるからです。

さらに、中央銀行がインフレを抑える政策を展開する場合、株価が下落する懸念もあります。

物価の動きにあわせて元本が変動する「物価連動国債」

仮にインフレ期が到来するとします。その際のインフレ防御の要となるのが「物価連動国債」です。これは金利ではなく元本が変動するという珍しい国債です。

物価連動国債は、申込単位は10万円、償還期限は10年、物価動向に応じて国債の元本が増減します。増減した元本金額を「想定元金額」と呼びます。元本の変動において参照する物価は、全国消費者物価指数(生鮮食品を除く総合指数)となります。

表面利率は発行時に定められたまま償還期限まで変わりませんが、「想定元金額」が増減することから、受け取る利子も増減します。原則としていつでも時価で売却できますが、世の中の金利情勢によっては元本割れする場合があります。

ただし、2013年度以降に発行された物価連動国債は、額面金額で償還される元本保証があります。

この物価連動国債は、低インフレ期だと魅力が乏しく(流動性が低く)、買いやすい環境とはいえません。しかし、高インフレ期になるとニーズの高まりとともに、大手証券会社を中心に積極的なセールスの展開が予想されます。

日本の物価連動国債に投資する「投資信託」を購入して、間接的に物価連動国債に投資をするという選択もあります。

エネルギー、金属、農畜産物等に投資する「コモディティ型投資信託」

国際商品(エネルギー、金属および農畜産物等)の市況は、日本経済や家計に大きな影響を与えます。国際商品市況が高騰する「資源インフレ」と呼ばれる事態への備えとしては、コモディティ(commodity:産品・商品)投資が有効です。

コモディティ相場を左右する最大の要因は、中国、インド等の新興諸国の経済発展に伴うコモディティ需要の高まりです。経済成長による新興諸国の国民生活の向上とともに、食糧、エネルギー、さらにはインフラ投資まで広範囲にコモディティ需要が拡大していくものと思われます。

インフレ対策における大事な視点は、物価と同じ方向に値動きする投資対象を資産として持つことです。理に適ったやり方としてコモディティ投資が注目されます。

個人投資家がコモディティ投資を行う場合、[図表1]のような「コモディティ型投資信託」や「ETF」を活用するとよいでしょう。エネルギーや農産物を中心に投資対象の分散投資効果が期待できます。その他に商品先物取引(原油や銅、とうもろこしなどの商品の先物を売買する取引)を直接行うことも選択肢となります。

コモディティ投資において注意したいことは、新興諸国における現実の需要(実需と呼ばれる)のほかに、先進国の金融緩和による過剰流動性(世の中にお金がジャブジャブあるイメージ)の存在です。

過剰流動性の動きは、「投機マネー」としてコモディティ市場に流入し、相場を押し上げることや、時として流出により相場を急落させることもあり、相場が荒れることも少なくありません。

インフレ対抗力が立地や用途で違ってくる「不動産」

金融商品ではありませんが、不動産を保有することも、インフレ対策として効果を発揮することがあります。

不動産販売において、「不動産投資はインフレに強い」といったセールストークを聞くことがあります。強調される点は以下の3点です。

1. 一般にインフレ時には不動産の資産価値は増大する(もしくは資産価値は下がりにくい)

2. インフレが進むと家賃収入も上昇する傾向がある

3. インフレ時には貨幣価値が下がるため投資用ローンも目減りする

ただし、これらは一概には断言できません。

まず資産価値ですが、不動産の立地や用途により資産価値の変動の程度が違います。資産価値が増大・維持されやすいのは、人口集積度合いの高い地域の物件や成長分野に関わっている物件です。

不動産の評価額は世の中の情勢によって変化しますが、長期ビジョンのしっかりした都心・商業地の不動産は、資産価値が変動しにくい資産といえます。

家賃収入の先行きも、不動産の立地や用途により違ってきます。一般に不動産の賃料は、築年数が古いほど下降傾向が強まります。場合によっては、相場よりも安価な設定にしなければならないケースもあるでしょう。

これに対し、希少性の高い都心のオフィスビルなどは、築年数よりも規模や立地が重視される傾向にあり、高い賃料を取れている物件もあります。

不動産購入において投資用ローンを組む場合、インフレに強い「固定金利型」のローンが有利です。返済期間中の金利が変わらず、変動金利と比較して返済総額(元金+支払利息)を抑えられます。

なお、不動産投資独自のリスクとして、空室リスク(所有しているマンション等が空室になり賃料が入らない状態になるリスク)、予期せぬ設備の修繕コストの発生、家賃滞納リスク等がありますので十分な注意が必要です。

小松 英二

CFP® FP事務所・ゴールデンエイジ総研

代表・経済アナリスト

(※写真はイメージです/PIXTA)