豊かな国であるイメージのある日本ですが、実は子どもの貧困が大きな社会的な問題になっています。先進国であるにもかかわらず、およそ7人に1人の子どもが「貧困」といわれる日本の現実をみていきましょう。

日本の子どもがおかれている「貧困」の現状

子どもの貧困というと、発展途上国の問題などを想起する人が多いと思いますが、発展途上国における貧困というのは国全体が貧困状態になって起こる問題で、日本における「子どもの貧困」とは少し事情が違います。

経済協力開発機構(OECD)が2015年に改定した新基準では、日本の子ども(17歳以下)の実に14%(約7人に1人)が貧困状態に該当するという、驚きの結果がでました。実数に直すと、日本の17歳以下の人口が約1,890万人であるため、貧困状態に該当するのはおよそ約255万人です。これは世界で比較すると25番目の高さになります。

日本の子どもの貧困問題は「相対的貧困」と言われる状態です。相対的貧困というのはある国やある社会といった人間の集団のなかで、多くの人たちが享受できている生活水準を送れない状態をさします。

発展途上国のように、水も電気もないという状態とは違いますが、その国のなかで普通に行われていることが貧困によりできないため、社会のなかで大きく出遅れることになります。つまり相対的貧困は、社会のなかの格差が生み出した貧困ということになります。

相対的貧困」とは所得を世帯人数に振り分け、数値を出して、高さ順に並べたときに、その中央値の半分に満たない状況を言います。

つまりその社会のなかで一番たくさんいる所得帯の人の半分の所得(貧困線)での生活をしている人ということになります。「子どもの貧困」とは貧困線に満たない子どもを指します。

日本での相対的貧困の目安は、親子2人が毎月14万円以下で暮らしている状況です。この水準に満たないひとり親家庭は実に48.1%と、2世帯に1世帯が相対的貧困にあります。

この「ひとり親家庭の相対的貧困率の高さ」は以前から問題視されているものの、いまだ改善していないのが現実です。

「自己解決」は想像以上に困難…相対的貧困の問題点

「そうはいっても、なんとか衣食住は揃っているのだからそこから頑張って這い上がればいい」という考えの人もいるかもしれません。貧しいところから這い上がった人の話などを見聞きするとそのような考えが出ることもおかしなことではありませんが、ぜひ立ち止まって考えていただきたいことがあります。

相対的貧困にある子どもたちは、「家計を支えるために毎日アルバイトをしている」、「高校、大学や専門学校等への進学を経済的理由からあきらめざるを得ない」、「1日で栄養のある食事を学校給食でしか摂取できていない」といった状況が考えられます。

これが「貧困の遺伝」です。もちろん貧困になる遺伝子が見つかっている、という生物学的な話ではなく、貧困状態の家庭に生まれ育った人は、生まれながらの周囲の環境等から、貧困から抜け出せない可能性が高いのです。

たとえば教育について。高度な教育を子どもに受けさせようとすると当然学費がかかります。

十分な所得のある家庭では学校の他に塾に通ったり、苦手な分野があればそれをわかりやすく解説した教材を使ったり、さまざまな方法で学力を伸ばすことができます。

ところが相対的貧困の家庭の多くは、高校の進学もままならないのです。いくら才能を持って生まれて勉学に励む素養があっても、高校に行けるかもわからず、大学は多額の借金をしないといけないことが確定しているような状況で、ましてや塾なんかとんでもない、と言われて、高学歴を目指すことは現実的ではありません。

そればかりか、子どもたちは周囲の家庭環境との差を目の当たりにして、自己評価や自尊感情が損なわれ、将来への希望がなくなり、学習意欲を失っている場合も多いと報告されています。

低学歴や貧困から這い上がるごく一部の例を見て、「貧乏でも学力は関係ない」と言ってしまうことは、才能を開花させる可能性があるのに十分な支援を受けられない子どもを増やし将来の貧困率を上げてしまう行為なのです。

貧困の壁は「学力」以外にも当然立ちはだかる

では、学力がダメならスポーツはどうでしょうか。ここでも当然貧困の壁は立ちはだかります。

「love.fútbol Japan」と言うNPO法人が行った調査では、支援世帯の実に約30%子どもがサッカーをするために「借入」をしていたという事実が判明しています。

つまり経済格差のために、「良い環境でサッカーをする」というのではなく、そもそも「普通にサッカーをする」ことができず、借入が必要という世帯が日本中に存在するのです。

健康面でも貧困問題はついて回ります。

貧困家庭の子どもは朝食の欠食率が高いことが知られており、成長期の身体形成、体力増進が阻害されたり、集中力の低下による学力へ影響が懸念されています。

加えて医療機関への受診を控える、任意予防接種を控えるといった医療アクセスの問題が起きるのです。

さらには貧困家庭であるほど受動喫煙率が高いという報告もあります。貧困が両親の健康に対するリテラシーに直結する問題であることがわかります。

このような結果、子供の頃に貧困だった人は、成人になってからの虚血性心疾患、脳卒中、肺がんなどによる死亡率が優位に高いことも報告されています。子どもの頃に基本的な生活習慣や食習慣を確立できないことが原因と考えられています。

このように貧困な世帯に育つと、貧困に起因する多くの問題が立ちはだかり、容易に這い上がれないのです。そうして貧困家庭が減らず、経済格差のひろがりで貧困状態に陥る人が増えると、ますます貧困から這い上がれない人が増えていくという負のスパイラルに陥ります。最終的には社会全体の機能が低下していくことにつながりかねません。

貧困問題は貧困に喘ぐ当事者だけの問題でなく、社会全体で対処すべきものなのです。

まとめ…貧困を「社会全体」の問題に

貧乏から努力で這い上がる。そのような話が美談とされていますが、努力でどうにもならない環境に置かれている子どもたちがたくさんいます。

確かに裕福な家庭で育った方もたゆまぬ努力の上で裕福さを保っているのは事実です。しかし、豊かに見える日本社会でも、どう努力しても這い上がることが難しい状態に置かれている子ども達が大勢存在します。また裕福な人も社会の変化のなかで貧困に陥るとそこから抜け出すことが非常に困難な状況になっています。

貧困が社会全体の問題として捉えられ、多くの人が努力すれば自分の存在意義を見出せる、そんな未来が来ることを願って止みません。

秋谷進

東京西徳洲会病院小児医療センター

小児科医

(※写真はイメージです/PIXTA)