近年、JR各社を中心とする鉄道会社は、通勤形車両の改良を進めています。ここ数年で登場した新型車両は、それまでは見られなかった設備も多くあります。今回は、都営浅草線東京都交通局5500形について取り上げます。

「Tokyoと世界を結ぶ地下鉄」だから「歌舞伎」

通勤形電車といえば、ロングシートの座席とつり革以外はほとんど設備もなく、殺風景な車両というイメージがありましたが、近年はサービス改善の動きが顕著です。フリーWi-Fiや空気清浄器、トイレが設置されるなど、特徴ある車両が増えています。

2018年に登場した都営浅草線用の新型車両5500形電車は、直通路線を含めると羽田・成田の両国際空港を結ぶため、「Tokyoと世界を結ぶ地下鉄」をコンセプトとしています。

羽田空港第1・2ターミナル~成田空港間は、京急線浅草線、京成線で移動すると85.4kmの距離があり、最速の「エアポート快特アクセス特急」でも1時間34分を要します。地下鉄車両が乗り入れる路線としては長距離であり、京急線内や成田スカイアクセス線内では、最高120km/h運転を行う必要も。しかし、成田スカイアクセス線開業前に製造された5300形電車は、高速域での加速性能が低く、120km/h運転には適していませんでした。

こうしたこともあり、5500形が開発されました。東京オリンピック開催が予定され、都営地下鉄開業60周年でもあった2020年に照準を合わせ、デザインに力を入れた車両となりました。車両デザインは、車両部門以外の部署も含めたプロジェクトチームにより検討され、日本の伝統文化を随所に取り入れた、遊び心のあるデザインとなりました。

前頭部形状は「歌舞伎の隈取」をモチーフとして、スピード感を重視したものに。座席の柄には江戸小紋を複数まとめた寄せ小紋をあしらっています。

座席の袖仕切り部分には、江戸切子の七宝紋を模した柄を採用し、座面には亀甲模様もあります。側窓の遮光カーテンや車両間通路の扉には「梅の花、花火、浅草寺の提灯、日本橋、神輿、歌舞伎の隈取、日本人形」をモチーフとした、沿線由来のイラストがあしらわれています。内装板も白い和紙をモチーフとしたものです。

体格差にも配慮した設備

座席幅は5300形と比較し、1人あたり460mmから475mmへ拡大されました。これは関東の通勤形電車としては最大級です。座面は1人ごとに区切られたバケットシートであり、座り心地はやや硬いものの、やはり広いスペースは快適です。

「多様化する環境に対応し、質の高いサービスを提供」するために、車内に空気清浄器「ナノイー」を導入したほか、全ての車両に車いすスペース、もしくはフリースペースを設置しています。側扉の上には、多言語対応の17インチ液晶ディスプレイによる車内案内表示器を設置し、右側が行先・乗換案内、左側が広告動画用として使われています。

また、各車両の天井部分に防犯カメラが4台設置され、防犯性を向上させています。客室設備はユニバーサルデザインを取り入れ、客室の床面とホームとの段差を解消するために、側扉付近の床面にホーム側への傾斜が付けられているほか、床面色により、扉付近が明確に分かる色分けがなされています。

さらに荷物棚は5300形と比較し、130mm下げられました。背の高さの違いにも配慮されたわけですが、吊り手も一部に低いものが設置されています。側扉にも、万が一体やものが挟まっても引き抜きやすい構造にするといった改良が加えられています。

車両は列車情報管理制御装置(INTEROS)を搭載しており、車両の運転保安上重要な制御系を二重回線としています。さらに状態監視と案内情報を別回線とし、情報の高速伝送化を実現しています。

なお5500形だけではありませんが、都営地下鉄の一部車両には「子育て応援スペース」が設置されており、「だるまちゃん」「ぐるんぱのようちえん」「きかんしゃトーマス」「ディック・ブルーナ(うさぎのミッフィー)」などのイラストや関連掲示がなされた、楽しいスペースとなっています。

「子育て応援スペース」が設けられた車両の運用は、どの柄かは分からないもののホームページで公表されており、狙って乗車してみるのも面白いでしょう。

都営浅草線の5500形(安藤昌季撮影)。