2023年9月11日〜17日、サウナに関連する「ショーアウフグース」の世界大会「AUFGUSS WM 2023」がドイツで開催され、なんと日本人ペアが優勝した!世界16カ国から集まった全40チームがしのぎを削るなかでの優勝はまさに快挙。今回、その裏側に迫ってみた。

【写真】世界大会では、衣装の動きやすさなども評価対象。総合的に判断されるという

ドイツ発祥のサウナプログラム「アウフグース」とは?

まず「アウフグース」とは、サウナ室内の熱された石に水を掛けて蒸気を発生させ、立ち昇った蒸気をタオルであおぐドイツ発祥のプログラム。巧みなタオルさばきによって“熱波”を生み出し、参加者に送り届けるホストのことを「アウフギーサー」や「熱波師」などと呼ぶ。日本でも近年、定期的アウフグースイベントを行っているサウナ施設やスーパー銭湯が増えており、サウナ好きの間ではお馴染みとなっている。

今回、世界大会が開催された「ショーアウフグース」とは、この「アウフグース」に、光や音の演出、ストーリー性などを加えた、一種のエンターテインメントである。日本国内でも大会が開催され、その上位入賞者が、世界大会へと駒を進めている。

今回、このショーアウフグース世界大会「AUFGUSS WM 2023」団体部門で見事に優勝を果たしたのが、名古屋サウナ施設「ウェルビー今池」所属(大会エントリー当時)の2人 ――「Yuma & Mayuka」こと、黒川優磨さんと、佐野マユ香さんだ。「WAT(Wellbe Aufguss Team)」のメンバーとしても活躍する2人に、現所属である「ウェルビー栄」(愛知県名古屋市)にある男女共用大型サウナ室「Sauna Theater NAGOYA」で話を伺った。

■ショーアウフグースの本質に触れた初出場の大会

今回「Yuma & Mayuka」が世界一に輝いたことで話題となった「ショーアウフグース」。日本ではまだまだ認知度が低いものの、ドイツオランダポーランドといった欧州では非常に人気が高い。世界中から“アウフギーサー”(あおぎ手)が集結する、“サウナ界のワールドカップ”である「AUFGUSS WM」も2023年大会で10回目を数えている。

2022年のオランダ大会に初出場、2回目の挑戦となる2023年大会で世界一をつかみ取ったYumaさんとMayukaさん。

「初出場したオランダ大会では、『ショーアウフグース』という世界を深く知らないまま出場して、9位という成績でした。当時はあまりストーリーを軸として考えておらず、タオルさばきやシンクロなどアクロバティックな部分に重きを置いた結果だったかなと思います」とYumaさんは振り返る。

海外チームのプログラムは発想がもっと自由で、「アウフグース」というよりは「1つの劇」だと感じたそう。ショーアウフグースの本質に触れることができた2人は、オランダから帰国後に、さっそく台本の制作に取り掛かったという。

歌や芝居などを通して、もともとエンターテインメントの世界に携わっていたというMayukaさんも、遺憾なくその本領を発揮。技術力に加えて表現力を重点的に磨き上げ、2023年のドイツ大会に臨むこととなった。

■普遍的なテーマが海外サウナーの心をつかむ

「AUFGUSS WM 2023」で「Yuma & Mayuka」が披露したプログラムのタイトルは「風鈴」。戦争をテーマにした、少々意外とも思える作品だ。戦地へと赴く男性と、帰還を待つ女性の心情をダイナミックに、そして情緒豊かに表現。Yumaさんがタオル2枚を用いて戦闘シーンを熱演するパートでは、観衆から自然発生的に拍手が巻き起こった。

「表情や蒸気の量、蒸気を発生させるタイミング、風の強弱などで、セリフに頼ることなく物語を表現した点を評価していただけたと思います」とYumaさんが話す通り、ショーアウフグースとはその場に居合わせた者しか体感できない“4D作品”と言えるのである。

「プログラムが終わった直後、サウナ室の外で参加者とハグしたり軽く言葉を交わしたりというのが恒例なんです。今回に関しては、みなさんが私たちの劇を感情的に見てくださったようで、なかには涙を流されている方もいました」とMayukaさん。昨年とは明らかに異なる観衆の反応に、手応えをつかんだそう。「戦争」という世界共通で考えなければならないテーマに体当りし、見事演じきったことも海外サウナーの心をつかんだひとつの要因だろう。ショーが終わると、2人の日本人に対してスタンディングオベーションをする観客もいた。

結果は、2位(562.5点)に大差をつけた598.5点で見事優勝。800点満点で評価されるこのポイントには、技術力や表現力のほか、「サウナ室の温度や湿度の管理をいかに適切に行うか」など、基礎事項も大きく加味されているという。「ホストとして、サウナ室にいる全員を心地よくさせる」という前提は一般のアウフグース、引いてはサウナ運営と変わらない。

華やかな部分だけ切り取られがちな「ショーアウフグース」の世界だが、実は“ホスピタリティ”を大切にするサウナの本質をついている。“サウナ道”を略した、“サ道”という言葉にも繋がるかもしれない。

アウフグースをライブで体感してほしい

凱旋帰国を果たし、現在は主に、ウェルビー栄3階の男女共用サウナ「Sauna Theater NAGOYA」で熱波を送っている。

「“世界一”を売りたいわけではなく、アウフグース自体の魅力をもっと広く知ってもらいたいと思ってあおいでいます。映像などで見ただけでは『へー、すごいね』で終わってしまうのですが、ショーアウフグースの本質は“ライブ”にありますから。蒸気や風の心地よさ、エッセンシャルオイルの香りなど、その“奥行き”をぜひ現地で体感していただきたいです」とMayukaさん。

サウナにいろいろな“選択肢”を与えたいですね。『ウェルビー栄』には、ゆっくり自分と向き合って瞑想できる『森のサウナ』(男性専用)や『Whisking House』(女性専用)がある一方で、熱気あふれるパフォーマンスを楽しめる『Sauna Theater NAGOYA』もあるのが強み。『次の時間はどのように過ごそうか』と、それぞれのお客様の中でオリジナルの楽しみ方を組み立てていただければ」とYumaさんも続ける。“世界一”の称号を振りかざすのではなく、あくまで自分たちは「ウェルビー」の魅力を高めるひとつのピースでありたいという謙虚な気持ちが、2人の言葉に表れていた。

次の大会に関しては、それぞれソロで出場する可能性を残しているものの、残念ながら「Yuma & Mayuka」のコンビとして出場する予定はないという。

「若手にも有力なあおぎ手がたくさんいるので、指導にも力を入れていきたいです」と最後にYumaさんからひと言。これからもアウフグース界で日本勢が躍動し、サウナブームをさらに盛り上げてくれることを期待したい。

取材・文=安田淳/撮影=古川寛二

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ドイツで開催された「AUFGUSS WM 2023」での、「Yuma & Mayuka」のショーアウフグースの様子/(C)Aufguss-WM e.V.