ここ最近は、VTuber業界で注目すべき事例が連続している印象だ。いくつかを取り上げてみたい。

【動画】Mori Calliope「SNEAKING」(メタルギア公式コラボソングMV)

ポケモン主題歌に内閣府案件 大躍進をなしとげたひとたち

 まずは「大躍進」の話だ。シンガーソングライターのぼっちぼろまるが、アニメ『ポケットモンスター』の新OPアーティストに抜擢された。楽曲「ハロ」の作詞・作曲・編曲を手掛け、歌唱はyamaとのタッグで務める。

 マスコットのようなVTuberとしても活動してきたぼっちぼろまるは、いまやソニーミュージックレーベルズの「FUNSUI」に所属するメジャーアーティストだ。昨年の『おとせサンダー』からの躍進はめざましく、そして今回の主題歌抜てきはまさにその象徴だろう。稀有な経歴をたどるアーティストとして、今後もその活躍に期待したい。

 それから、個人勢VTuberの宇推くりあ内閣府主催『第6回宇宙開発利用大賞』のPRキャラクターに抜擢された。政府主導の「宇宙開発利用の推進に多大な貢献をした事例」へ贈られる賞のPRキャラクターということで、こちらも非常に大きな躍進だ。

 宇推くりあは、「ロケット工学アイドル」というVTuber界においても珍しいタイプのタレントだ。さまざまな宇宙ロケットの打ち上げを配信し、その様子をつぶさに観察・実況するという活動内容が特徴で、その広範な知識量は専門家と呼べるほどの逸材だ。

 また、衛星通信サービスである「Starlink」をかつぎ、打ち上げ現地で配信を行うといった技術的な取り組みも目を引きつつ、しっかりと「アイドルVTuber」としても活動している稀有な存在である。そんなタレントが、“推し”というキーワードを用いて「宇宙開発利用大賞」のPRに起用されているというのは興味深い事例だが、同時に一つの時代性を示しているようにも感じる。

■「メタルギア」に山寺宏一 驚きのコラボを果たすひとたち

 続いては、カバー株式会社が運営するVTuberプロダクション・ホロライブの話題だ。フィメールラッパーとしても高い実力を誇る「ホロライブEnglish」のMori Calliope森カリオペ)が、なんと「メタルギア」シリーズとのコラボを果たした。『METAL GEAR SOLID: MASTER COLLECTION Vol.1』の発売を記念し、公式コラボソング『SNEAKING』が10月20日に発表された。

 作中のBGM『Encounter』やSEをサンプリングしつつ、シリーズの印象的なセリフを引用したリリックという、「メタルギア」シリーズの要素を随所に刻み込んだ楽曲だ。これは誰にとっても予想外のコラボだが、もしかすると以前に小島秀夫が同プロダクションに所属する兎田ぺこらの配信を見ているとコメントしたことが、少しだけ影響しているのかもしれない。

 一方、ANYCOLOR株式会社が運営する事務所・にじさんじに所属する周央サンゴは、大御所声優・山寺宏一との共演を果たした。これはYouTubeアニメ『世界の終わりに柴犬と』の吹き替え企画によるもので、山寺宏一が柴犬を、周央サンゴはその飼主の役を演じる。

 周央サンゴといえば『にじさんじ』内でも「演技派」なタレントとして知られており、公式番組ではナレーションを務めるなど、声優としての実力にも定評があった。しかし、それにしても「まさかの共演」ではある。それだけ、両者とも話題性は十分であるということだろうか。なお、周央サンゴ以外にも、『にじさんじ』より成瀬鳴シスター・クレア黒井しばらが参加する。黒井しばに至っては、自身も「柴犬」でありながら、「柴犬役」を演じるという、奇妙な構造が成立しているのもおもしろい。一連のキャストが出演する吹き替え企画動画は、10月27日に公開予定だ。

■リアルへ、あるいはバーチャルへ 新天地へ進むひとたち

 バーチャルシンガー奏みみは“新たな姿”を獲得した。ずばり、「リアルの姿」である。

 奏みみは、2018年のデビュー時はぽっちゃりとしたマスコットらしさを感じさせる猫の姿で活動していた。その後、2020年に人型の姿を獲得し、現在まで活動してきたシンガーだ。そして10月のオンラインライブにて、新たにリアルの姿――つまり、生身の姿を(影で顔は見えないものの)公開した。そして今後は、バーチャルのみならず、リアルでも活動を展開すると宣言した。

 リアルとバーチャルの両軸で活動する存在は、まだまだ少ない。直近では長瀬有花が代表的な存在として活動を展開しているおり、奏みみもある種この類型だが、VTuberが流行を始めた2018年デビューという歴の長いVTuberがこの決断に至ったことは大きいだろう。12月にはリアルライブの実施も宣言しているということで、バーチャルにとらわれない、奏みみの「新たな一歩」のゆくえに注目したい。

 反対に、バーチャルシンガーがよりバーチャルの深いところへやってくる事例も生まれそうだ。KAMITSUBAKI STUDIO所属のCIELが、『VRChat』にて初の単独ライブ『CIEL LIVE SHOWCASE at VRChat』を開催すると発表したのである。

 開催日は11月25日CIELにとって初の単独ライブ、そして『KAMITSUBAKI STUDIO』にとっても初の『VRChat』で開催するイベントとなる。このため、今回披露される楽曲は2曲のみとトライアル的な取り組みとなるようだが、武道館でのワンマンライブをおこなった花譜など、トップクラスのバーチャルアーティストらを擁する大手スタジオが『VRChat』に踏み込んできた、というのはなかなかに大きな出来事だろう。

 そして、アサミンゴス、あるいはミンゴスという愛称で知られる声優・今井麻美もVTuberになるようだ。10月27日に、VTuber・詩趣ミンゴスとしてデビューし、完成お披露目パーティーを配信にて開催する。有料イベントとなるが、前半はYouTubeで無料配信予定だ。

 ちょうど「アイドルマスター」シリーズでは、配信を行うアイドルたちが活動するプロジェクト『vα-liv』が進行中だが、元祖アイマス声優の彼女がVTuberになるというのはおもしろい流れだ。友人たちの力も借りた“念願の”バーチャル化ということで、お披露目パーティーには親交のあるVTuberもゲストとして駆けつけるようだ。さて、まずは“バーチャル・ミンゴス”がどんな姿になるのか、見届けたいところだ。

(文=浅田カズラ)

10月23日のニュースたち