大手予備校河合塾名古屋市)」が、労働組合の書記長だった業務委託のベテラン講師に対し、校舎内で職員にリーフレットを手渡したことなどを理由に次年度の契約をしなかったことをめぐる裁判の判決がこのほど、東京地裁(高瀬保守裁判長)であり、契約非締結が違法と認定された。

この裁判は、愛知県労働委員会が発し、中央労働委員会が維持した不当労働行為救済命令に対し、河合塾が取り消しを求めたもの。

河合塾が控訴したため判決は確定していないが、東京地裁が判決と同日に、中労委の申し立てを認めて「緊急命令」を決定しており、仮に河合塾が復職させなかった場合、1日につき10万円の過料を国に支払うことになる。河合塾は緊急命令に従う方針だといい、講師は約10年ぶりに職場復帰する見通しだ。

この講師は10月23日の記者会見で、「予備校業界では業務委託が多く、簡単に契約を切られてしまう。大企業が10年間、労力とお金をかけてきたら個人はまず耐えられない。自分は組合に入っていたから潰されなかった。非正規の方々にも組合はある、生きていると伝えたい」などと語った。

また、講師は職を失ったあと、個別指導などで収入を得ていたが、判決は中労委命令を支持し、契約終了後の収入(中間収入)を控除することなく、河合塾で働いていたら得られたはずの約10年分の収入(バックペイ)も全額認めた。講師側の代理人弁護士は「過去にもほとんど例を聞いたことがない珍しいケース」と評価している。

労働組合に対する嫌悪などと判断

この講師は、河合塾ユニオンの書記長・佐々木信吾さん。1990年河合塾の業務委託の講師となり、20年以上働いたが、2013年の改正労働契約法施行に伴い、厚労省のリーフレットを職員数名に手渡したことが施設管理権の侵害に当たるなどとして、2014年度の契約を結ばれなかった。

判決は、業務委託だった佐々木さんについて、授業の時間割が1年間にわたりほぼ固定で、時間的にも場所的にも河合塾から相応の拘束を受けていたなどとして、労働組合法上の労働者と認定した。

その上で、構内での文書配布は禁じられていたものの、佐々木さんがリーフレットを配ったのは、休憩中やごく短時間だったことから、職場規律を乱す恐れがないなどとして、契約を結ばなかったことについて組合活動を嫌悪する不当労働行為に基づくものといわざるを得ないと指摘。

さらに佐々木さんが組合の中心人物だったことから、組合を弱体化させるための支配介入だったとも認定した。

また、佐々木さんは組合活動をめぐり河合塾と係争しているという情報が広まった結果、他の予備校から採用を断られ、ようやく就職した個別指導塾でもコロナ禍にみまわれるなど、収入が激減したという。

判決はこれらを認めた上で、佐々木さんが職場から排除されて以降、組合に新規加入者がなく、発足以来いなかった退会者が出るようになったなどとして、組合に対する萎縮効果の大きさも指摘。河合塾を離れたあとの収入(中間収入)を控除せず、バックペイを全額払うよう命じた中労委命令を支持した。

東京地裁が緊急命令を発しているため、河合塾は佐々木さんに対し、(1)最後に交わした2013年の契約と同様の条件での復職、(2)約10年分のバックペイの支払いーーを速やかに実施しなくてはならない。佐々木さん側によると現在、双方で条件の調整がおこなわれているという。ただし、仮に控訴審で判決が覆ればバックペイは返還などになる可能性がある。

弁護士ドットコムニュースの取材に対し、河合塾は控訴したことや緊急命令に従う方針であることを認めた上で、「控訴しているため詳細についてはコメントを差し控えたい」と回答した。

河合塾と戦った元講師、10年ぶりに教壇復帰へ 組合活動理由に契約結ばないのは違法と認定 東京地裁