2023年10月16日に創立100周年を迎えたウォルト・ディズニー・カンパニーミッキーマウスとその仲間たち、白雪姫をはじめとしたプリンセスたちと並んで近年人気を呼んでいるのが、作品に登場する悪役“ディズニーヴィランズ”だ。憎まれるべき存在にもかかわらず、スピンオフ作品やパークでのショーに至るまで活躍の場を広げるヴィランズ。なぜ、彼らはこれほどまでに人気なのかに迫る。(以下、作品のネタバレを含みます)

【写真】ゾクッとする美しさのアンジェリーナ・ジョリー“マレフィセント”

■「マレフィセント」「クルエラ」…“主演作”も登場

ヴィランズ(villains)とは、“悪役”のこと。1937年公開のディズニー初長編作「白雪姫」で白雪姫に毒リンゴを食べさせた魔女をはじめ、「ピーター・パン」(1953年)のフック船長や「101匹わんちゃん」(1961年)の悪女クルエラ、「リトル・マーメイド」(1989年)の魔女アースラ、「アラジン」(1992年)の悪の大臣ジャファーなどなど…彼らは当初からディズニー作品とともに歩んできた。

ストーリーを盛り上げたり、パークでアトラクションやショーの見せ場になったりと大きな役割を果たしているにもかかわらず、痛い目に遭ったり悲惨な最期を遂げる“嫌われ者”――そんな報われないポジションだった彼らだが、テーマ曲もヘビーメタル調など特徴的なものが多く、パークのショーに登場したり楽曲をまとめたキャラクターソングアルバム『Disney's Evil Villains』(1997年)が発売され始め、2000年代に入ると本格的に注目を集めるように。

ミッキーたちが初めてディズニー作品の悪役軍団と戦ったビデオ用アニメーション「ミッキーの悪いやつには負けないぞ!」(2002年)を皮切りに“悪役軍団”として映像作品でスポットが当たることが増え、近年では「マレフィセント」(2014年)や「クルエラ」(2021年)など、誕生秘話を描いた“主演作”も登場。ディズニーにおける一つのキャラクターカテゴリとして認知されていった。

■正直で寂しがり屋、負けず嫌い…ヴィランズの魅力

嫌われ者から人気者へ、華麗なる飛躍を遂げたように見える彼ら。

だが、自分の信じる道を突き進み、極端な負けず嫌いという本質はなんら変わっていない。変わったのはむしろ、私たち受け手のほうだ。自分の欲望に正直で、寂しがり屋で、でも追いつめられてもへこたれない、ヴィランたちが当初から持っていた人間くさい一面が知られるにつれ、人々の心をがっちりつかんでいった、というのが正しいだろう。

■実に人間くさい魔女

例えば、最も初期から存在するヴィランの一人「白雪姫」の魔女は日々、魔法の鏡に向かい「魔法の鏡よ、この世で一番美しい女性は誰?」と、自分が誰よりも美しい存在であることを確認。そして、白雪姫が自分より美しいと聞けば、白雪姫を葬り去って世界一の美しさを取り戻したいと切望する。

なんという人間くささ。毒リンゴ白雪姫を亡き者にしようというアイデアは別として、“誰よりも美しくありたい”という嫉妬心は誰もが共感できるものだろう。事実、アメリカ映画研究所(AFI)100年を記念して2003年に発表された“ヒーロー&悪役ベスト100”ランキングでは、「ゴッドファーザー」のマイケル・コルレオーネや「時計じかけのオレンジ」の主人公アレックスといったアメリカ映画史に残るキャラクターを抑えて「白雪姫」の魔女が悪役ランキング第10位にランクインしている。

■父の愛に飢えていたアース

2023年に実写化されて反響を呼んだ「リトル・マーメイド」に登場する海の魔女アースラも、ディズニーヴィランズを代表する一人。いかにも邪悪なルックスとドスの効いた声に加え、アニメ版同様アリエルに足を与える代わりに美しい声を奪ったり、その声を使って王子を誘惑したりと、愛嬌のかけらもない悪役ぶりを披露している。

だが劇団四季ミュージカル版では、そんなアースラの寂しい一面も見てとることができる。アースラが歌う楽曲「パパのかわいい天使」では、“私は美しい姉たちに囲まれた醜い子” “父ポセイドンにも愛してもらえない”と、彼女が悪に堕ちた背景をうかがわせる切ないエピソードが語られている。アースラが着けている貝のペンダントは、醜いアースラを不憫に思った父ポセイドンから贈られたもの、なのだそう。

アースラには実在のモデルが?

さらに、アースラには実在のモデルがいたことも知られている。1980年代に活躍していたアメリカ人歌手・ディヴァインがその人。ジョン・ウォーターズ監督作品で100kgを超える巨体のドラァグ・クイーンを演じたその姿が、アースラにそのまま投影されているという。

その他「アラジン」のジャファーや「101匹わんちゃん」のクルエラも、キャラクターイメージを作るにあたってモデルにした人物がいると言われている。彼らからなんとも切実で哀愁に満ちた人間らしさを感じるのは、実在の人物をモデルにリアルなキャラクター造形がなされているからなのかもしれない。

■純粋な妖精だったマレフィセント

そんなディズニーヴィランズの中でもリーダー的存在と言えば、「眠れる森の美女」の邪悪な妖精マレフィセントだろう。

実写作品「マレフィセント」(2014年ほか)では大物ハリウッド女優のアンジェリーナ・ジョリーが主人公のマレフィセントを演じたが、アンジェリーナはインタビューで、マレフィセントの魅力について「共感できること。誰の心にもマレフィセントはいる。とても孤独で傷つくことも多く、でも最後には愛する人のために戦うの」と語っている。スターをも魅了するマレフィセントの魅力は、そんな孤高の強さだ。

「マレフィセント」では、そんなマレフィセントが“悪”になるまでの悲しいエピソードが描かれている。純粋な妖精の少女マレフィセントが人間の青年と恋に落ち、悲しい裏切りにあって絶望と憎しみの中でオーロラに呪いをかける。ただ愛が欲しかっただけの彼女を変えてしまったのは、人間の身勝手な欲望だったのだ。

「マレフィセント」でアンジェリーナは幼いオーロラ役の愛娘ヴィヴィアンと母子共演を果たしている。ツンと表情をとがらせ隙を見せないマレフィセントが幼い少女に抱っこをせがまれ、ふと見せる戸惑った表情が、なんともいえず人間らしい。そんな人間よりも人間らしい悪役たちの活躍に今後も期待したい。

ディズニーヴィランズが登場する各作品はアニメーション、実写版ともにディズニープラスで配信中。

◆文=ザテレビジョンシネマ

「眠れる森の美女」マレフィセント/(C) 2023 Disney