大卒で大企業で働き、順調に出世して高所得。退職金もたんまりもらい、将来の年金受取額も申し分ない……絵にかいたような勝ち組サラリーマンですが、老後も勝ち組らしい生活を維持することは、かなりのハードル。安易に考えていると、惨めな老後を送ることに。みていきましょう。

サラリーマンの勝ち組ストーリー…給与はどこまであがる?

サラリーマンを勝ち組と負け組と二分するのであれば、(もちろん、お金がすべてではありませんが)ひとつの基準が給与。厚生労働省令和4年賃金構造基本統計調査』をもとに、勝ち組のストーリーをみていきましょう。

大学卒業後に就職したのは、大企業(従業員1,000人以上)。20代前半の給与は、月収で24.1万円、年収で369.0万円。大企業とはいえ若手の給与は、それほどではありません。しかし20代後半になると、月収28.4万円、年収514.5万円と、サラリーマンの平均年収に迫る給与に。そして30代前半では月収33.3万円、年収600.9万円、30代後半で月収37.8万円、年収682.1万円と、どんどん昇給していきます。

そして44歳の時に係長に昇進。給与は月収39.8万円→43.5万円、年収703.7万円→781.5万円とアップします。

次の転機は48歳の時。係長から課長へと昇進。給与は月収43.6万円→60.7万円、年収779.1万円→1,023.4万円と、大幅アップします。

さらなる転機は52歳の時。課長から部長へと昇進。給与は月収64.6→74.8万円、年収1,086.7万円→1,267.4万円とアップ。大卒・大企業勤務のサラリーマンとしては、あとは役員クラス、代表と別次元の話。このあたりが、最高到達点といったところでしょうか。

同じ年齢で部長と課長であれば年収差200万円、課長と係長では年収差250万円、係長と役職なしでは年収差50万円ほどになります。

部長級まで出世した勝ち組サラリーマン。役職定年はなく、60歳定年を迎えるとなると、生涯年収は3億0316万円。一方、ずっと役職なしのサラリーマンは生涯年収2億4,814万円。その差、5,000万円ほどになります。これが大きいのか、それとも小さいのかは人それぞれの判断になりますが、家1軒分相当にもなると考えると、かなりの給与差です。

格差は65歳からもらえる年金にも。部長まで上り詰めたサラリーマンは、厚生年金国民年金合わせて月20万円弱、役職なしで終わるサラリーマンは月17.7万円ほど。その差、月2万円ほどです。意外と小さな差にみえますが、1年では24万円、10年で240年。老後が25年あるとしたら600万円の年金差。生活の多くを年金に頼ることになる老後、月2万円の差は現役時代に考えている以上に大きなものです。

また定年時に手にする退職金は、平均40ヵ月分。単純計算、3,000万円程度を手にすることになります。さらに総務省『家計調査 貯蓄・負債編』(2022年)によると、勝ち組サラリーマンの年収帯の貯蓄額は平均3,247万円、負債額は1,172万円。純貯蓄額は平均で2,000万円を超えます。

老後も勝ち組らしい生活を思い描いていたが…安易なマネープランで惨めな思いに

現役時代の給与も、定年時の退職金も、65歳からもらえる年金も、そして貯蓄も……すべてにおいて勝ち組エリートのサラリーマン 。老後も勝ち組らしい優雅な生活を送れるかといえば、かなりのハードルです。

現役時代、1,200万円程度あった年収は、仮に60歳で定年となり、再雇用制度を利用し嘱託社員として働き続けたとしても、正社員→非正規社員となる段階で年収は4割程度にダウン。さらに嘱託社員から年金生活に突入する段階で、さらに収入は4割程度になります。

勝ち組エリートらしい「高収入・高支出」な生活を維持するなら、不動産投資でそれなりの家賃収入があったり、株式投資でそれなりの配当収入が見込めたりと、収入のスケールダウンを最小限に食い止めるような資産形成・資産運用がマスト。資産の中心が預貯金だと、収入減の分だけ貯蓄を取り崩して対応することになり、早かれ遅かれ、極貧生活への転落は確実です。

また老後「XX万円必要」と試算する場合、「健康であること」が前提で、想定外の出費に関しては想定外ということがほとんど。老後に発生するかもしれない「住宅」「医療」「介護」の高額出費に対応できなければ、勝ち組エリートらしい生活は難しいでしょう。

持ち家であれば、老後を快適に暮らすために、リフォームは必須。段差を解消し、手すりを設置。さらに2階の寝室を1階に移動したり、浴室をフルリニューアルしたり。寒暖差によるヒートショックを回避するためにも断熱改修を施したり。1,000万円単位のリフォームも珍しくありません。

医療費に関しては1ヵ月の上限があり、超えた分に関しては高額療養制度が活用できるので、心配していない人も多いでしょう。しかし、先進医療や自由診療などはこの制度が利用できず、基本的に全額負担となります。

さらに年を重ねると、介護リスクも高くなります。75歳を超えると、要介護度は3割、85歳を超えると6割近くになります。自宅での生活が難しくなってくると、老人ホームへの入居も視野に入ってくるでしょう。老人ホームの入居費用はピンキリで、勝ち組らが入居する高級老人ホームになると、入居一時金は数千万円~億単位になります。

このように「住宅」「医療」「介護」に関して、高所得の勝ち組サラリーマンにふさわしい水準のサービス・施設を望むなら、相当なコストが必要です。これらを見据えて老後の準備を進めておかないと、

ーー段差が多く危険な家だけど、直せない

ーー先進医療、受けたいのに受けられず

ーー老人ホーム、個室への入居は無理

と「あの人、現役時代は勝ち組エリートと一目置かれていたのに、今となっては普通の人ね」といわれるような結果に。老後のマネープランを安易に考えていたことを「愚かでした……」と後悔を口にすることになるでしょう。経済的に余裕がある人も、ない人も、自身が叶えたいと思い描く老後の生活水準から逆算した早めの資産形成は必須です。

(※写真はイメージです/PIXTA)