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ディスカバリーをどのように盛り上げるか

英国の自動車メーカーであるJLR(ジャガーランドローバー)は、ブランド再編にあたってランドローバーディスカバリーを完全に刷新する必要があり、次世代モデルは白紙からのスタートだとしている。

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JLRはディフェンダー、レンジローバー、そしてジャガーと並ぶ4本目の「ブランドの柱」としてディスカバリーを確立させようとしている。同社の新CEOであるエイドリアン・マーデル氏が8月、ディスカバリーの全面的な見直しが迫られていると語ったとき、記者は驚きを隠せなかった。

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第6世代の新型ディスカバリーは独自のニッチを切り開かなければならない。(編集部作成予想CGイメージ)    AUTOCAR

ディスカバリーの(ブランド)エクイティは今日では少なくなっており、多くの人がその理由について見解を持っています。さまざまな意見がありますが、(当社の)次の行動に関して有益な情報でなければ興味深いとは言えません。専門のシンクタンクが必要です。わたしは、深く有意義な思考と、考えるための時間を与えることが重要だと思います」

熱心なJLRウォッチャーにとって、このマーデル氏の発言は驚きだった。6月、JLRは投資家向けに大規模なプレゼンテーションを行い、事業を「ハウス・オブ・ブランズ(house of brands)」、正確には4つのブランドとして再構築すると発表した。

ディフェンダーは「不可能を可能にする……冒険好きな人々のためのもの」、ジャガーは「先鋭的で現代的なラグジュアリーEVブランド……何物のコピーでもない現代的なラグジュアリー体験」、レンジローバーは「現代的ラグジュアリーの比類なきリーダーであり、最も目の肥えた顧客のために特別なものを提供する」、そしてディスカバリーは「ラグジュアリーな多用途性を提供……新しいファミリー層を喜ばせる」と説明された。

ディスカバリーについてのこの説明は、マーデル氏にとって十分なものではなかったようだ。実際、発表から3か月後に記者が改めてインタビューし、いくつかの短いワードに集約できないのかと尋ねると、彼は「探しているワードが見つからないので、そうならない可能性があります。『ファミリー』や『スペース』はあり得るかもしれません」と答えた。

「しかし、これらの言葉を作るのはわたしではなく、専門家たちです。素人であるわたしは言えるのは、成功したかどうかです。わたし達はまだそこまで到達していません」

JLR英国部門のマネージング・ディレクターであるパトリック・マクギリーカディ氏は、「ディスカバリーは重要なブランドであり、絶対的なエクイティと市場空間、非常に忠実な顧客ベースがあります。今、わたし達が進めているのは、ディスカバリーブランドをどのように再構築するか考えること。どのような市場空間を埋めるのか?」と述べている。

あの「人気車種」の影に隠れがち……

ディスカバリーの2モデルの販売実績、ディフェンダーの影響、そして小型EVのディフェンダー・スポーツ導入の可能性を考えると、すでにジャガーで行われているような深い再考を、ディスカバリーが必要としているのは当然のことだろう。

現行型ディスカバリーの販売は、世界を熱狂させているとは言い難い。2022年3月から2023年3月までの1年間で、スロバキアにあるJLR工場から出荷されたのはわずか1万2000台強。対照的に、ディフェンダーは7万5000台が販売された。

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非対称のリアエンドなど、伝統的なデザインがディスカバリーを際立たせるだろう。(編集部作成予想CGイメージ)    AUTOCAR

2019年の4万1000台を境に、長い転落が始まった。2020年には3万3600台にとどまった。もちろん、世界的な半導体不足と新型コロナウィルスによる操業停止に苦しむ中で、ディフェンダーの生産を優先することは明らかだった。

しかしそれでも、歴代ディスカバリーに近いスピリットを持つディフェンダーが、兄弟から売り上げを大きく奪っているのは明らかだと関係者は言う。

ディスカバリー・スポーツもまた、発売から8年が経過し(2019年に全面的なアップデートを受けたが)、さすがに色あせてきている。

2019年に8万8000台、2020年に7万5000台が売れた後、2022年3月から2023年3月にかけての販売は約3万6000台にまで落ち込んだ。ここでも半導体不足、旧式化、そして新しいライバル車の犠牲となった。

1989年に誕生し、ランドローバーの運勢を大きく押し上げたディスカバリーシリーズは、明らかに中年の危機(ミッドライフ・クライシス)に瀕している。第5世代ディスカバリーは新型ディフェンダーに駆逐され、ディスカバリー・スポーツは旧式化し、大変な競争にさらされている。

他のブランドとどう差別化するか

また、2026年に第6世代としてデビューする新型ディスカバリーは、EV用プラットフォーム「EMA」を採用する可能性が高まっている。

EMAプラットフォームは、すでに3つのモデル(レンジローバー・イヴォーク、ディフェンダー・スポーツ、そして第3の新型車)への採用が決定していると見られており、新型ディスカバリーの確かなマーケットを見つけることは特に難しい。

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第5世代となる現行型は、レンジローバーと同じD7uプラットフォームをベースにしている。

では、2026年に向けてディスカバリーを再定義するにあたり、キーワードが「ファミリー」と「スペース(室内空間)」しかないような場合、いったい何から始めればいいのだろうか? JLRが2026/2027年までに6車種のSUVモデルを販売することは決まっており、もう1つ追加しようとすることにどんな意味があるのだろうか? そして、単なるファミリー向けSUVではないランドローバーとは?

新型ディスカバリーのコンセプトは、他の2つのブランドとの関連性においてまとめることができるかもしれない。

JLRのチーフ・クリエイティブ・オフィサー、ジェリー・マクガバン氏が夏に行ったプレゼンテーションを掘り下げてみよう。彼は、同社の全体的なビジョンは「世界で最も目の肥えた顧客のために、世界で最も魅力的なモダン・ラグジュアリー・ブランドの誇れるクリエイターになる」ことであり、ハウス・オブ・ブランズ戦略では「確立されたモダニズムのデザイン哲学」を使用しながらも、各ブランドが「集中的にキュレート」され、しかし明確に差別化されると述べた。

プレゼンテーションの中で彼はさらに、各ブランドの「起点」を定義した。レンジローバーは「英国の独創性」、ディフェンダーは「英国の冒険」、ディスカバリーは「英国の独創性……どんな家族でもどんな瞬間でも楽しめるようにデザインされている」。

また、各ブランドの「美学」として、レンジローバーは「アイコニック」、ディフェンダーは「ヒロイック」、ディスカバリーは「人間中心」と定義。クラフトマンシップにおいては、レンジローバーは「最高級」、ディフェンダーは「耐久性」、ディスカバリーは「多用途」とした。

つまり、ディスカバリーは比較的裕福な家族向けのクルマであり、デザインの独創性が際立ち、人間中心で適応性があり、さまざまな役割を果たすことができる、という方向性を持っているようだ。

それはどちらかというと、高級ミニバンの内装を、一定の悪路走破性能を備えた美しいボディで包み込んだような感じだが、無骨で機能的すぎるものではない。タフな高級素材で裏打ちされた、本物のスタイルを備えたものだ。7人乗りは確実だろう。フォードSマックス、メルセデス・ベンツEクラス・オールテレインアウディQ7のブレンドといったところか。

ディスカバリーが進むべき道とは

また、デザインにこだわる理由はもう1つある。第6世代の新型ディスカバリーバッテリーEVとして発売予定で、ボディの空力効率が非常に重要となる。

より具体的に求められるのは全体的なデザインテーマだ。今日のJLRのあり方に批判があるとすれば、それはすべてのクルマが視覚的なドラマを欠くほど非常に洗練されているということだ。純粋な工業デザインから生まれたレンジローバーならそれも理解できるが、レンジローバー・スポーツはモダニズム的な豪華さを追求するあまり、エッジを失ってしまった。

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初代ディスカバリー1989年に発表され、1998年に第2世代、2004年に第3世代が登場した。

今日のラインナップの多くは、おそらく洗練されすぎている。舞踏会ではなく北極圏に向かうように見えなければならないクルマもあるのに、非常にスマートでカジュアルな格好をしているのだ。

「Less is a bore(少ないほど、退屈)」という古い格言がある。ディフェンダーの表現力の豊かさは明らかだが、ディスカバリーにも再発明の道が残されている。本格的な登山用品やセーリング用品など、アウトドア用品がデザインのヒントを豊富に与えてくれるだろう。

多用途性を実現するには、第3世代のようにフルフラットな積載スペースが不可欠で、スケートボード型EVプラットフォームなら簡単にできるはずである。内装材は耐久性が高く、掃除しやすいものでなければならない。従来の超豪華な内装から脱却することで、ディスカバリーブランドに新たなUSP(独自の強み)が生まれる。

キャリーケースの目利きとして記者が言えるのは、第6世代ディスカバリーの荷室内寸はミニバンとほぼ同じでなければならないということである。具体例として、後期型フォードSマックスは後部座席をたたんだ状態で長さ1975mm以上、幅1130mm以上のスペースがあった。

この幅の広さによって、多くの子持ち世帯の夢である、3座独立の中間座席(2列目)を実現できるはずだ。市街地ではボディサイズも重要なので、威圧感のないものを作ることになるだろう。

第2世代レンジローバーは全長4.7m、全高1.87mだったが、この比率は再検討する価値があるかもしれない。

最終的にはこれらすべてを組み合わせて、レンジローバーやディフェンダーブランドとは一線を画す新型SUVにまとめ上げ、JLRのショールームで独自の提案を行う必要がある。実際、「ハウス・オブ・ブランズ」を謳う以上、すべてのブランドが明確に際立っていなければ機能しない。

では、これは記者の提案だが、新型ディスカバリーを表すワードとして次の4つはいかがだろう?「Everyone、Everything、Everywhere、Everyday」


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