大人気ゲームアプリ『あんさんぶるスターズ!!』(以下『あんスタ!!』)を原作としつつも、オリジナルストーリーで描かれる舞台“劇団『ドラマティカ』(以下『ドラマティカ』)”。回を重ねるごとに話題に上がることも増え、さらなる人気舞台へと成長している。2.5次元舞台では「原作に忠実なキャラらしさ」を求められるが、『ドラマティカ』では「キャラクターが演じている舞台作品」という劇中劇であり、役者にとっても難易度が高い。

3作品目である今回は、真白友也と乱 凪砂がW主演で『不思議の国のアリス』を題材とした物語になるという。

「お茶会でーーーすっ!!!」迷い込んだのはデタラメすぎる世界

「主人公アリスがおかしな世界に迷い込み、個性豊かなキャラクターたちと交流し、大変な目にあいながらも最後はもとの世界に戻る」という『不思議の国のアリス』という題材の大筋は多くの人が知る通りだろう。しかしこれが『ドラマティカ』のキャラクター・キャストたちが演じるとなると、ひとクセもふたクセもある唯一無二の個性的な物語に発展する。アリスを含む登場人物たちはみんなどこか変かつデタラメでおかしくて、てんやわんやな展開に思わず笑ってしまう。ゲネプロ観劇の後、「可愛くて楽しくて、そしてキャラたちがみんな大変な世界だった」という感想を抱いてしまったほど。

アリス/真白友也 役:宮崎 湧

アリス/真白友也 役:宮崎 湧

アリスを演じるのは真白友也(宮崎 湧)だ。柄の違うチェックで作られたワンピースは彼女の不安定さを表しているようで、可愛らしくも不安定で目が離せない。迷い込んだ先の住人たちに翻弄されながらも、失った記憶を取り戻そうと奮闘する。

帽子屋/乱 凪砂 役:松田 岳

帽子屋/乱 凪砂 役:松田 岳

ストーリーテラーとしての役割を持つのが帽子屋の乱 凪砂(松田 岳)で、『ドラマティカ』には過去作すべて出演している。開幕から彼の多才で豊かで圧倒的な表現力に引き込まれていく。神出鬼没な帽子屋の異彩さ、アリスを導くスマートな紳士の姿、変幻自在な表情や歌唱。つかみどころがないキャラクター性を巧妙に描いていた。

白ウサギ/逆先夏目 役:木津つばさ

白ウサギ/逆先夏目 役:木津つばさ

白ウサギ役の逆先夏目(木津つばさ)は知的な丸メガネが新鮮な役。首元の、赤く塗られた白バラや肩に下げた懐中時計、デザイン性のある傘など、とてもおしゃれな装い。せっかちな性格で「忙しい忙しい~」と言いながら駆けていくが、突拍子もない想像の斜め上をいく台詞もあり、舞台をかき乱している。

チェシャ猫/氷鷹北斗 役:山本一慶

チェシャ猫/氷鷹北斗 役:山本一慶

ACT1、2とはがらっと変わって意外な役どころだったのが氷鷹北斗(山本一慶)で、すみれ色、ピンク、縞模様の衣装、そして丸っこく可愛くて純粋な印象を受けるチェシャ猫だ。真面目でクールめの北斗からは印象が違い、どうやって役作りをしたのかなと『あんスタ!!』世界での葛藤が想像できてしまう。凪砂同様、北斗も『ドラマティカ』皆勤なので、ふとした時に北斗というキャラクターの個性を感じられるのはさすが。

ネムリネズミ/仙石 忍 役:深澤大河

ネムリネズミ/仙石 忍 役:深澤大河

帽子屋や三月ウサギのお茶会に居る、ネムリネズミを演じるのは仙石 忍(深澤大河)。いつも眠そうにしていて動きは少ないが、独特なテンポを与えてくれる貴重な役。本筋が進行している間に、後ろで会話をしていたり、料理をしていたりと注目してみるとなかなか可愛らしい。

イモムシ/三毛縞 斑 役:横井翔二郎

イモムシ/三毛縞 斑 役:横井翔二郎

イモムシ役はすらっと高身長でどこかつかめない印象がある三毛縞 斑(横井翔二郎)。煙管を吸い、ゆらりと燻る煙を吐いている。肩に架けた羽織は裏側が曲線の衣装で、イモムシの身体の柔らかさを印象付ける役割をしているようだ。しかもいつも見えない何かと戦っている奇妙で不思議な慌ただしい役。他キャラクターとの会話がなかなか成立し難いのがまたおもしろい。

三月ウサギ/七種 茨 役:橋本真一

三月ウサギ/七種 茨 役:橋本真一

お茶会が大好きな三月ウサギを演じるのは七種 茨(橋本真一)。モノクルを付けて、知的な印象を一見受けるが、「お茶会」というワードを聞くと一転してテンションが高くなる。動物モチーフの三月ウサギ、白ウサギ、チェシャ猫ネムリネズミはふわふわの尻尾が付いていて、動くたびに揺れる尻尾はたまらなく可愛い。

ハートのジャック/漣 ジュン 役:岸本勇太

ハートのジャック/漣 ジュン 役:岸本勇太

ジュン(岸本勇太)が演じるハートのジャックはかっちりとした軍服に身を包んでいる。ハートの女王が好きすぎて、叱責されることすら快感に感じてしまう一途さを持つ。愛が溢れすぎて、すぐ語ったり歌ったりしそうになる様は、不思議の国の住人達もやや呆れ気味。

可愛い衣装・テンポの良い曲・笑顔の絶えないコメディ作品

アリスがこの世界にやってきた理由……それは物語終盤では明かされるのだが、実はところどころにヒントが隠されていたりもする。劇中にいくつかあるオリジナル曲の歌唱パートは、キャラクター性、物語に基づいた面白い歌詞なので、何度も見て考察やキャラの理解を深めたらより一層楽しめるだろう。

ACT3はコメディ作品であり、くすっと笑えるところが非常に多い。ACT1、2では物語に没頭しやすい作りだったので観客の反応も大人しかったが、今回はキャラクターの一挙一動がとても愛らしかったり、笑いどころも多かったり、見ていて自然と声が漏れてしまう。客席も明るくなって、舞台のキャストと観客が笑顔のやり取りをするような場面もあった。

カーテンコールでは『あんスタ!!』のキャラクターたちに戻って、観客にひとことずつメッセージを投げかける場面も。キャラクター同士の会話が少し増えていたのもファンにとっては嬉しいポイントだろう。

『ドラマティカ』シリーズはそれぞれ独立した作品であり、原作である『あんスタ!!』を知っていればもちろん、知らなくても気軽に楽しめる作品に仕上がっている。

劇団『ドラマティカ』ACT3/カラ降るワンダフル!は2023年11月19日(日)まで、大阪・福岡にて上演。

取材・文=松本裕美

劇団『ドラマティカ』ACT3/カラ降るワンダフル! 舞台写真