マーベル・スタジオの最新ドラマシリーズ「ロキ」シーズン2で、トム・ヒドルストン演じるロキは、姑息な手段を使い、“裏切り王子”と呼ばれるほど油断ならないヴィラン。しかし、憎めないキャラで、ロキが登場する作品を見ていくと気付けばハマってしまっていたという人も多い。そんな「ロキ」のシーズン2から登場した新キャラが話題になっている。それが“O.B.”とも呼ばれているウロボロスだ。ウロボロスTVAの主任エンジニアで、TVA内の機械などの修繕を一手に引き受けていて常に多忙。ロキもメビウス(オーウェン・ウィルソン)も個性的だが、ウロボロスも偏屈な性格をしていて個性という意味では2人に負けてない。今回はウロボロスを演じる“オスカー俳優”キー・ホイ・クァンに焦点を当ててみたいと思う。

【写真】「ロキ」のコメディーリリーフ的な役割も!存在感抜群のキー・ホイ・クァン

■「インディ・ジョーンズ」シリーズに少年役で出演

1971年ベトナム共和国のサイゴン(現在のホーチミン)で生まれたクァンは、1975年には一家でベトナムを離れ、香港を経て、1979年アメリカ合衆国に移住した。そういった経緯があって、ベトナム語だけでなく、中国語(広東語北京語)、英語など多くの言語を話すことができる。

デビュー作は1984年に公開された「インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説」。この作品はスティーブン・スピルバーグ監督、ハリソン・フォード主演による「インディ・ジョーンズ」シリーズ第2作で、インドを舞台にした冒険活劇である。インディが上海でギャングとの取引でだまされてトラブルになり、取引の場所となっていたクラブで歌っている歌手ウィリーと、ベースボールキャップを被った相棒的存在の少年ショート・ラウンドと飛行機に乗って逃げるというところから始まり、その飛行機のパイロットたちにもだまされ、ゴムボートで命からがらたどり着いた場所がインドだった。

その少年、ショート・ラウンドを演じたのがクァンだ。ショート・ラウンドは戦災孤児で、インディに助けられ助手として働いている。少年ながら運転もできたり、かなり有能な助手と言えるだろう。トロッコで激走するシーンなど、見どころ満載の作品の中で、“ショート・ラウンド”という少年を強く印象付ける演技を見せてくれた。

1985年には、リチャード・ドナー監督による映画「グーニーズ」に出演。スピルバーグが制作総指揮を務めた作品で、伝説の海賊が隠した財宝を探す少年たちの冒険が描かれている。クァンが演じたのは“リッキー・ワン”という発明が趣味の中国系の少年。技術系の知識は大人に負けないほどで「データ」というあだ名がついていた。こういうところがくしくも「ロキ」のウロボロスに共通しているのも面白い。主人公マイケル・ウォルシュを演じたのは、後に「ロード・オブ・ザ・リング」で“サム”を演じるショーン・アスティン。マイケルの兄・ブランドンを演じたジョシュ・ブローリンは「グーニーズ」が映画デビュー作で、後に「アベンジャーズ」シリーズの“サノス”を演じることになる。シンディ・ローパーが歌う主題歌「グーニーズはグッド・イナフ」と共に映画も大ヒットを記録。クァンの日本での人気も高かった。

その後、クァンは1990年公開の映画「キー・ホイ・クァンのドロボーズ」という映画で主演を務めた。孤児院育ちの少年・カンが、警察に追われている時に、同じく逃走中の美人詐欺師・ブンと自称“強盗”のリョウと街角で鉢合わせし、協力して逃亡するというストーリー。コメディー要素とアクションもふんだんに楽しむことができる。

■日本制作の映画では日本を代表する俳優陣と共演

他にも1987年に公開された映画「パッセンジャー 過ぎ去りし日々」という日本制作の映画にも出演。歌手の本田美奈子.が主演を務めた作品で、三田村邦彦、宇梶剛士、岩城滉一らが出演。主人公・立木美奈の兄・良介(三田村)のレーシングチームに所属している青年・リックを演じており、英語とカタコトの日本語のセリフを駆使している。真面目で熱い思いを抱いた役で、自然体な演技を見ることができる。

1990年代に入ってから、「炎のマーシャルアーツ」や、「グーニーズ」で共演したショーン・アスティン主演の「原始のマン」に出演するが、そこからしばらく表舞台から遠ざかってしまう。クァン自身は俳優として活動を続けていきたいと思っていたが、当時のハリウッドではアジア系俳優は出られる作品が多くなく、クァンも本人の意思に反して、仕事のオファーがなくなっていった。

■ひたむきに努力を続けて大輪の花を咲かせる

表舞台には立てずとも、映画が好きだったクァンが選んだのが“裏方”の道。南カリフォルニア大学の映画学部に入学し、映画制作について学び、その知識を生かして助監督を務めたり、武術指導、通訳などで映画に関わり続けた。「X-MEN」やジェット・リー主演の「ザ・ワン」にも関わり、木村拓哉出演で話題となったウォン・カーウァイ監督の「2046」には助監督として制作に携わった。

世界的な状況が変わり、アジア系俳優がハリウッドでも活躍する作品が増えていったことで、約30年ぶりに俳優業への復帰を決意したクァン。その背中を押してくれたのは2018年公開のハリウッド映画「クレイジー・リッチ!」だったという。監督はジョン・M・チュウ、主演はコンスタンス・ウーとヘンリー・ゴールディング。主要キャストをアジア系俳優で占めたこの作品は映画界を大きく変えた作品と言える。

そしてクァンの本格的な復帰作となったのは、2022年に公開された“エブエブ”こと「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」だった。この作品は「第95回アカデミー賞」で作品賞、監督賞、主演女優賞など7部門を受賞。クァンもその一つ、「助演男優賞」を受賞した。クァンは、ミシェル・ヨー演じる主人公・エヴリンの夫・ウェイモンドを演じている。

この作品には“マルチバース”が登場。「別の宇宙の夫」としてクァンは“違う人格”のウェイモンドを演じていて、その切り替わりにも目を奪われるし、アクションシーンも見応えあり。そういった“マルチバース”もドラマシリーズ「ロキ」と共通する部分があり、MCU好きにもササったのかもしれない。

ミシェル・ヨーとの再共演作も話題に

最近では、「エブエブ」で夫婦役を務めたミシェル・ヨーと再共演しているアクションコメディーシリーズ「アメリカン・ボーン・チャイニーズ 僕らの西遊記」(ディズニープラス)も話題に。ごく平凡な高校生活を送る若者ジン・ワン(ベン・ワン)が、新しいクラスメートの留学生と顔を合わせた新学期初日に、複数の世界がクラッシュして、中国神話の神々の戦いにいつの間にか巻き込まれていくという奇想天外な物語。この作品には、「エブエブ」でミシェル・ヨーとクァンが演じた夫婦の娘ジョイ・ワンを演じたステファニー・スーもゲスト出演していて、「エブエブ」好きにはたまらない作品となっている。

オスカー俳優”とか“天才子役”などと形容されてきたクァンだが、それ以外にも出演したそれぞれの作品でしっかりと印象を残してきた。「ロキ」シーズン2でのウロボロスもまだ出番は多くないが印象的な出演シーンが多いので、今後後半に向けて彼が活躍する機会を楽しみに待ちたい。

「ロキ」シーズン2は、ディズニープラスで毎週金曜に最新話独占配信中。

◆文=田中隆信

「ロキ」でO.B.を演じるキー・ホイ・クァン/(C) 2023 Marvel