業務上必要な支出を経費で落とせる「必要経費」ですが、税務署に経費と認められず、高額な税金がかかることも少なくありません。たとえば、業務上必要かつ生活にも必要な支出である「家事関連費」は、必要経費と認められないことが多くあります。本記事では、税理士の伊藤俊一氏による著書『税務署を納得させるエビデンス 決定的証拠の集め方』シリーズ(ぎょうせい)より、さまざまな事例をもとに、経費と認められなかった家事関連費について、同氏が解説します。

家事関連費と必要経費の区分

Q 

家事関連費と必要経費の区分について実務上の典型的な論点に係る基本的な考え方を教えてください。

A 

確固たる具体的な証拠は作成できません。実務では事実認定になります。後述の国税情報や判決速報でも「課税処分取消訴訟において必要経費について争われた場合、その多くは、所得税法37条1項(必要経費)の法解釈よりむしろ個別具体的な事実関係が争点となっており、判決の結論は、事実認定に負うところが多いのが 実情である。」と明記されています。

したがって、間接証拠の積み重ねの手法で認定されていきます。また、典型事例を見ながら、反論手法も交えて検証します。

「海外出張」が必要経費と認められなかった個人事業主の事例

(1)現実論として証拠化が困難であること、及び典型的な反証手法

典型事例として、

個人事業主の当局調査 ・当該個人事業主は新事業展開を目論見、頻繁に海外出張をしている。 ・これらに係る「海外渡航費」を必要経費に算入したい。

しかし、

・当局の見解では、売上が認識できた時点で初めて必要経費になるという原則から、その海外出張による効果をもっての売上が認識できていない年分は必要経費にならない

という主張があります。必要経費の原則ですが、

(1)個別対応 ①売上原価 ②総収入金額を得るため直接に要した費用の額

(2)期間対応 その年の販売費・一般管理費その他業務上生じた費用の額

と整理できます。上記事案において、当局は(1)②をもって指摘しています。しかし、(2)に該当すれば必要経費となります。この(2)期間対応の概念によって必要経費該当性を判断するなら、売上とのひも付き関係にはなりません。この(2)の典型項目が人件費・賃料です。

海外出張が「後の売上」に結びついていれば、必要経費に

ところで(2)の販管費においては、

・事業に直接の関連を有すること ・業務の遂行上通常必要な支出かどうか

について個別判断されます。結論からいえば、必要経費判定での「直接の関連」とは「事業関連性があること」を指します。「その経費支出時に」売上と結び付いている必要性は問われません。

この際、よく参考とされる事例があります。

「お中元」が必要経費と認められた医師の事例

(医師の交際費と青色専従者給与の適正額) ①中元等の費用は医療業務の遂行上必要な支出であり交際費と認められる、②医師の資格を有する請求人の妻は青色事業専従者に該当し、その給与の適正額は類似同業者の平均給与の額と認めるのが相当であるとした事例(平22-02-18裁決) TAINSコードF0-1-349(一部抜粋)

判断

(1)本件中元等について

イ 法令解釈

事業所得の金額の計算上控除されるべき必要経費については、所得税法第37条第1項に規定されているところ、ある支出が必要経費として総収入金額から控除されるためには、客観的にみて、それが業務と直接の関連を有し、かつ、当該業務の遂行上通常必要な支出であることを要すると解される。

ロ 認定事実

請求人提出資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。

(イ)〇〇では新規患者の名簿を備え付けており、当該名簿の「診療科名」欄には、当該患者を紹介した医院名等が記載されている。

(ロ)平成17年分及び平成18年分に係る上記(イ)の名簿には、贈答先54名のうち20名の者の医院名等が記載されている

(ハ)贈答先の者の職業は、開業医34名、総合病院及び大学の医師16名、レントゲン技師1名、院外薬局関係者2名及び公認会計士1名であり、これらの者は、患者の紹介元の開業医等、患者の紹介先の開業医等、診療等を臨時に依頼した非常勤医師やレントゲン技師、医師の派遣を受けるための関係者、取引先である院外薬局の関係者及び関与する公認会計士である。

患者の紹介元/先など、医療を円滑にするために必要な贈答先だったので「必要経費」に

ハ 判断

本件中元等の贈答先は、上記ロの(ハ)のとおり、〇〇の患者の紹介元の開業医等、患者の紹介先の開業医等及び診療等を臨時に依頼した非常勤医師やレントゲン技師などであることから、これらの支出は、請求人の医療業務を円滑に行うことを目的とするものであると認められる

そうすると、本件中元等の費用は、客観的にみて、請求人の医療業務に直接の関連を有し、かつ、当該業務の遂行上通常必要な支出であると認められるので、必要経費の金額に算入するのが相当である。

したがって、この点に関する原処分庁の主張には理由がない。

「家事関連費」が必要経費として認められなかった事例

〇(家事関連費/農業所得) 本件各費用は家事関連費と認められるところ、その事業遂行上必要な部分が合理的に明らかにされているとは認められないから必要経費に算入されないとした事例(平19-03-22裁決) TAINSコードF0-1-398(一部抜粋)

家事関連費は「業務用」を「家事用」から明確に区分できれば必要経費に

(1)争点(本件各費用の必要経費該当性)について

イ 所得税法第37条第1項、同法第45条第1項第1号及び同法施行令第96条第1号の各規定の趣旨からすると、ある費用が必要経費に当たるといえるためには、当該費用に事業との関連性及び必要性が要求されるところ、事業との関連性及び必要性の有無についての判断は、単に事業主の主観的判断のみでなく、客観的に認識できるものでなければならないものと解される。(※下線筆者)

また、家事費が事業遂行上必要なものでなく必要経費に算入されないのに対し、必要経費と家事費の性質を併せ持つ家事関連費は、その主たる部分が事業遂行上必要であり、かつ、その必要である部分を明らかに区分することができる場合に限り、その部分を必要経費に算入することとした(※下線筆者)ものである。

この裁決では納税者主張の箇所が通常実務で処理されている事項が列挙されています。それに対し国税当局がどのような主張をしたかを確認するのに非常に参考になります。(一部抜粋)

必要経費算入を求める請求人と、必要経費算入を認めない原処分庁の主張

<争点及び主張>

次の各費用(以下「本件各費用」という。)は、各年分の農業所得に係る必要経費に算入されないか。

〔以下、三菱パジェロ(自動車登録番号:〇〇)を「パジェロ」及びトヨタカローラ(同:〇〇)を「カローラ」とそれぞれいい、これらを併せて「本件各車両」という。

また、〇〇所在の宅地(1,097.52m2)を「本件宅地」、同宅地上の木造の倉庫(31.93m2)を「本件プレハブ建物」、同軽量鉄骨造の車庫(47.60m2)を「本件絡納庫」、同木造の居宅(146.97m2)を「本件住宅兼倉庫」及び同木造の居宅(175.46m2)を「本件住宅」とそれぞれいう。〕

各科目共通

請求人

請求人は、自ら記帳した農業収入・支出帳簿(以下「収支ノート」という。)と、支出に係る領収証、レシート、金融機関の振込証等(以下「領収証等」という。)に基づいて農業所得に係る必要経費を算定しており、本件各費用は、いずれも請求人が農業を営む上で必要な費用であるから、それぞれ、その全部又は一部は、農業所得に係る必要経費に算入される。

原処分庁

本件各費用は、①家事費又は②家事関連費であって、かつ、請求人が本件各費用のうち業務の遂行上必要である部分を明らかに区分する根拠を示さなかったもののいずれかであるから、いずれも必要経費に算入されない(以下、本件各費用のうち業務の遂行上必要である部分の占める割合を「事業用割合」という。)。

(1)仕入金額

請求人

次表の金額は、米の仕入れに係るものであるから、請求人は確定申告において必要経費に算入しなかったが、その全額が必要経費に算入される。

(2)減価償却

イ 本件各車両(家事関連費)

請求人

パジェロは、通勤のほか、日々の田の見回りにも使用しており、通勤距離片道約3kmに対して見回りにも同程度を要した。また、カローラは、買物等のほか、米の配送にも使用しており、片道平均10kmの県内顧客15件から16件に配送するため、年間走行距離約8,000kmに対して年間配送距離約4,000kmであった。したがって、本件各車両の事業用割合はいずれも50%であるから、同減価償却費は、それぞれそれらの50%が必要経費に算入される。(平成13年分及び平成14年201,915円、平成15年分152,202円)

原処分庁

請求人は、本件各車両の事業用割合について「台数が多くて算定が難しいのでただ簡単に50%とした」旨申述したのみで、業務の遂行上必要である部分を明らかに区分する根拠を示さなかったから、必要経費に算入されない。

■本件プレハブ建物(家事費)

請求人

現在は物置となっているが、各年分においては農作業の休憩所、〇の集会所として使用していたから、同建物の事業用割合は100%であり、同減価償却費は、その全額が必要経費に算入される。(各年分とも102,433円)

原処分庁

農業の用に供されていなかったから、必要経費に算入されない。

ハ 本件格納庫(家事費)

請求人

軽トラック2台とカローラの車庫として使用していたほか、収穫物用冷蔵庫が置いてあり、ほぼ農業用として使用していたから、その事業用割合は100%である。したがって、本件格納庫減価償却費は、その全額が必要経費に算入される。(各年分とも96,778円)

原処分庁

上記ロに同じ。

ニ 本件住宅兼倉庫(家事関連費)

請求人

1階の床下部分は、農作業具の保管並びに商品(味噌、醤油)及び根菜の貯蔵のための倉庫となっており、また、土間コンクリート部分は作業所となっていた。さらに、1階の廊下に事務を行う部分が設けられていたほか、視察に訪れる客の宿泊にも使用する場合があった。作業所及び事務用部分の面積は28畳(45.36m2)であり、本件住宅兼倉庫の事業用割合は全体(146.97m2)の33%である。したがって、同減価償却費は、その33%が必要経費に算入される。(各年分とも199,465円)

原処分庁

請求人が業務の遂行上必要である部分を明らかに区分する根拠を示さなかったから、必要経費に算入されない。

ホ 本件住宅(家事関連費)

請求人

応接間を〇〇に使用しており、また、和室を視察に訪れる客の宿泊に使用していた。この2部屋22.5畳(36.45m2)は使用頻度は低いが、事業用施設として使用することを前提として建築したから、本件住宅の事業用割合は、関連設備を含め、全体(175.46m2)の33%である。したがって、本件住宅の減価償却費は、その33%が必要経費に算入される。(各年分とも442,689円)

原処分庁

上記ニに同じ。

ヘ 本件格納庫前の舗装(家事関連費)

請求人

作物運搬のためにアスファルト舗装を行ったものであるから、本件格納庫前の舗装の事業用割合は100%であり、同舗装の減価償却費は、その全額が必要経費に算入される。(各年分とも57,082円)

原処分庁

上記ニに同じ。

(3)利子割引料

ヘ 本件格納庫前の舗装(家事関連費)

請求人

本件住宅に係るものであり、上記⑵ホと同様であるから、本件住宅に係る利子割引料は、その33%が必要経費に算入される。(平成13年分236,849円、平成14年分230,054円及び平成15年216,501円)

原処分庁

上記(2)ニに同じ。

(4)租税公課

イ 本件格納庫(家事関連費)

請求人

上記(2)イと同様であるから、本件各車両に係る租税公課は、その50%が必要経費に算入される。(平成13年129,690円、平成14年分 90,742円及び平成15年129,071円)

原処分庁

上記(2)ニに同じ。

■本件住宅(家事関連費)

請求人

上記(2)ホと同様であるから、本件住宅に係る租税公課は、その33%が必要経費に算入される。(各年分とも52,173円)

原処分庁

上記(2)ニに同じ。

ハ 本件宅地(家事関連費)

請求人

事業用建物の床面積及び農業用通路の面積は394.49m2であったから、本件宅地の事業用割合は全体(1,097.52m2)の35.9%であり、本件宅地に係る租税公課は、その35.9%が必要経費に算入される。(各年分とも20,162円)

原処分庁

上記(2)ニに同じ。

(5)素蓄費(家事関連費)

請求人

鶏糞を畑の有機肥料とするなど、農業の一環として行っていたから、請求人の鶏の飼育は農業に当たる。したがって、鶏の取得費は、その全額が必要経費に算入される。(平成13年分15,000円)

原処分庁

請求人は、昭和62年以降において鶏卵の販売を行っておらず、飼育数も平成13年分20羽、平成14年分15羽及び平成15年分12羽であり、また、鶏糞の販売又は農業への利用がされていなかったから、請求人の行っていた鶏の飼育は農業に当たらない。したがって、鶏に係る費用は、必要経費に算入されない。

(6)飼料費(家事関連費)

請求人

上記⑸と同様であるから、鶏の飼料費は、その全額が必要経費に算入される。(平成13年分10,039円、平成14年分23,182円及び平成15年分9,948円)

原処分庁

請求人は、昭和62年以降において鶏卵の販売を行っておらず、飼育数も平成13年分20羽、平成14年分15羽及び平成15年分12羽であり、また、鶏糞の販売又は農業への利用がされていなかったから、請求人の行っていた鶏の飼育は農業に当たらない。したがって、鶏に係る費用は、必要経費に算入されない。

(7)諸材料費(家事関連費)

請求人

上記⑸と同様であるから、鶏に係る諸材料費は、その全額が必要経費に算入される。(平成15年分2,079円)

原処分庁

請求人は、昭和62年以降において鶏卵の販売を行っておらず、飼育数も平成13年分20羽、平成14年分15羽及び平成15年分12羽であり、また、鶏糞の販売又は農業への利用がされていなかったから、請求人の行っていた鶏の飼育は農業に当たらない。したがって、鶏に係る費用は、必要経費に算入されない。

(8)動力光熱費

イ 本件格納庫(家事関連費)

請求人

上記⑵イと同様であるから、本件各車両に係る動力光熱費は、その50%が必要経費に算入される。(平成13年分47,370円、平成14年分65,594円及び平成15年分57,025円)

原処分庁

上記(2)イに同じ。

■電気代、灯油大、ガス台及び水道代(家事関連費)

請求人

家庭用部分に電灯25箇所、コンセント25箇所(うち冷蔵庫用2箇所)を配置していたのに対し、事業用部分に電灯25箇所、コンセント21箇所(うち冷蔵庫用3箇所)を配置していたことから、電気料の事業用割合は最低でも30%である。

自宅で農作業後にシャワーを浴びたりしていたので、上記(2)ニ及び同ホ各記載の建物に係る事業用割合を33%としたことを考慮すれば、灯油代の事業用割合は30%であり、また、同様に、ガス代の事業用割合は20%である。

給水栓の数は家庭用部分9個に対し事業用部分12個であったから、水道代の事業用割合は最低でも20%である。

したがって、それぞれの事業用割合に相当する部分の動力光熱費が必要経費に算入される。(平成13年分133,521円、平成14年分94,630円及び平成15年分103,999円)

原処分庁

上記(2)ニ

(9)荷造運賃手数料

請求人

〇〇へ支払った運賃は、〇〇関係の会議や会合の際に使用したものが相当あるので、事業用割合は30%であり、同運賃の30%が必要経費に算入される。(平成13年分29,451円、平成14年分54,735円及び平成15年分38,061円)

原処分庁

上記(2)ニに同じ。

(10)委託料

請求人

米の宅配に係る集金手数料及び請求人名義の〇〇(口座番号〇〇、以下「本件振替口座」という。)への販売代金の入金等に係る手数料は、確定申告において必要経費に算入しなかったが、その全額が必要経費に算入される。(平成13年分22,680円、平成14年分26,807円及び平成15年分42,755円)

(11)研修費

イ 「研修会費等」欄記載の各金額(家事費)

請求人

研修会費等は、〇〇、〇〇、〇〇の研修及び大会参加費並びに農業現場の視察費用のいずれかであったから、その事業用割合は100%であり、その全額が必要経費に算入される。(平成13年分325,613円、平成14年分472,293円及び平成15年332,979円)

原処分庁

いずれも農業に関係がないから、必要経費に算入されない。

■「新聞等」欄記載の新聞代及びNHK受信料関連費)

請求人

新聞代及びNHK受信料は、いずれも農産物の市場動向や天気予報など農業のための情報源であったから、事業用割合はいずれも50%であり、それぞれ50%が必要経費に算入される。(平成13年分54,865円、平成14年分44,055円及び平成15年分44,055円)

原処分庁

上記(2)ニに同じ。

(12)接待交際費(家事費)

請求人

各金額は、いずれも販売促進のためのものであり、農業経営に直接必要なものであったから、その事業用割合は100%である。したがって、同各金額はその全額が必要経費に算入される。(平成13年分506, 522円、平成14年258,669円及び平成15年分300,147円)

原処分庁

いずれも農業との関連が不明であるから、必要経費に算入されない。

(13)通信費(家事関連費)

請求人

パソコン通信回線使用料については、確定申告において必要経費に算入しなかったが、農業に関する事項をホームページに掲載していたので、その事業用割合は100%であり、また、父名義の家庭用電話の通話料については、同電話で米の注文も受けていたので、その事業用割合は最低でも20%である。したがって、それぞれの事業用割合に相当する部分の通信費が必要経費に算入される。(平成13年分19, 260円、平成14年分39,317円及び平成15年分25,311円)

原処分庁

上記(2)ニに同じ。

業務用と家事用を区別する「計算式」でも、確実な証拠にはならない

実務では、納税者主張の按分計算をしていることがほとんどです。これを証拠として残すことはそれぞれの勘定科目共通で疎明力をどこまで高められるか、によります。

通信費、光熱費等々、物理的・システム的に家事用と業務用とに区分できるものがあれば、そうしたほうはがより良いということになりますが、現実的ではありません。

一方、上掲での住宅費や接待交際費は区分が極めて難しい経費です。紙幅の都合で国税不服審判所の判断まで言及できませんが、「費用の事業遂行上必要な部分を合理的に明らかにするに足りる証拠がない」ため必要経費算入を認められていないものが多数あります。

先述のとおり、家事関連費と必要経費の按分は一定のルールがなく、疎明力の高い証拠を作成することはできません。疎明力とはニュアンスが違いますが、心証がよくなる証拠は合理的按分をしている計算一覧です。

既に各事務所に用意があると思いますが、「在宅勤務に係る費用負担等に関するFAQ(源泉所得税関係)」令和3年1月(令和3年5月31日更新)国税庁などの計算式を流用できます

※:https://www.nta.go.jp/publication/pamph/pdf/0020012-080.pdf

伊藤 俊一

税理士