資産形成を始めるにあたっては、現状とライフプラン、およびリスク許容度を「見える化」することが重要です。これにより、具体的に何をしていけばよいのかという道筋が見えるとともに、安心感を得られます。そして投資は「長期積立分散投資」が鉄則。それを踏まえて、自分の価値観、状況、実現したい未来にふさわしい資産運用を自分で考え、実行していきましょう。金融教育家・上原千華子氏の著書『ファイナンシャル・セラピー』(日本能率協会マネジメントセンター)より一部を抜粋し、解説します。

年1回の見直しで「知らない間にお金が増える」状態を保つ

積立投資と見える化ができれば、あとはほとんどやることはありません。毎月積立を設定すれば、自動的に積立されますし、家計簿アプリの自動連携を活用すれば、データの手入力を減らせて、半自動で最新の状況が分かります

10年、20年という長いスパンで運用すれば、知らない間にお金が増えやすくなります。もしやることがあるとすれば、年に1回ちょっとした見直しをするくらいです。

実はこの「年に1回の見直し以外は何もやらない」状態を保つのが、案外難しいのです。

「儲かることを狙う」より「ほったらかし運用」の方が成功する

ここで面白いエピソードをご紹介しましょう。

2003~2013年、世界的に有名な投信販売・運用会社フィデリティが属性別に顧客の運用成績調査を行いました。

一番運用成績がよかったのはどんな人だったと思いますか。

なんと正解は、「フィデリティに口座があることを忘れていた人」だそうです。

SNSでは「どんな投資セミナーよりも役に立つ情報だ」との声もあがっていました。この結果が何を物語っているのか分かりますか?

一言で言うと、この調査結果は、「多くの人が投資判断を誤ってしまうので、ほったらかし運用の方がよい」ということを示しています。

「どうやったら儲かるか」ではなく、「どうしたら誤った投資判断を避けられるのか」に重きをおけばよいのです。

そのことを頭に置いて、以下のルールを守り続けていきましょう。

資産形成を成功させるための「ルール」

■自信過剰にならない

プロの投資家やトレーダーでも、市場の動向に一喜一憂したり、判断を誤ってしまうことがあるものです。どんなに勉強したとしても、運用成績がよかったとしても「自分は優秀な投資家だ」と過信しないようにしましょう。「もっと資産を増やすことができるのではないか?」と感じたら、一度「お金の価値観」に立ち戻ってみてください。

■市場予測をしない

金融経済に興味が湧いて、勉強するのはよいことです。ただ、本当に多くの人がやってしまいがちなのですが、市場予測のために勉強しようとしないでください。勉強するなら、自分が投資している商品について、より深い知識を身につけましょう。また、金利、株式、為替の仕組みや中央銀行の役割などについて学びを深めれば、経済ニュースを読みこなせるようになるでしょう。投資は淡々と「毎月定額積立」のみで十分です。

■一攫千金を狙わない

一攫千金は投資ではなく、投機です。一攫千金を狙う暇があるなら、もっと幸せを感じることに時間を使いましょう。たとえば、リスキリングなどで自分自身を磨いたり、家族とのんびり過ごしたり、自分の趣味に没頭するなどです。「いつの間にかお金が増えている」状態が真の豊かさへのパスポートです。

「年に1回の見直し」で確認したい3つのポイント

年に1度の見直しで確認したいのは、次の3つのポイントです。

●年末年始に1回だけ、運用成績とライフプランをチェック

●資産配分が5%以上変動、またはライフイベントの変更があったらリバランス

●年代が上がったらリスク許容度を再診断して、資産配分を見直す

「リバランス」とは資産配分の調整です。商品の価格が上下することで、崩れてしまった当初の資産配分を元の状態に戻します。これはプロの運用会社もやっている手法です。

なぜリバランスが必要かというと、資産配分が変わるとリスクが大きくなり過ぎたり、期待通りの運用ができなくなったりするからです。

リバランスは、初めに決めた資産配分から、1つでも5%以上増減している商品があったら、全体の資産配分を調整します。

もし、その変動が金額で見て1~2万円のズレだったとしても、割合が5%を超えているならば毎年やるのがおすすめです。なぜなら、1年単位ではわずかな差でも、長期間放置しておくと大きなズレとなり、運用に支障をきたしてしまうからです。

リバランスの手法には、大きく分けて2つあります。

1つ目は、増えた資産を売却して少ない資産の購入に当てる方法です。5%以上増えた商品を売却し、逆に割合が減った商品を買い増すのです。

この方法は、NISAやiDeCo制度を使う場合に適しています。売却益が非課税で購入手数料が無料だからです。

ただし、売却時に解約手数料(信託財産留保額)がかかる商品を売却する場合は、もうひとつの方法が適しています。それは、比率が一番高い商品の金額に合わせて、他の商品を買い増すというやり方です。

どちらの方法が適しているかは状況によって変わりますが、年に1回見直しておくと、大きなリスクを回避することができます。最低限の基本をしっかりと実行していくことこそが、理想の未来を実現する近道なのです。

<ポイント>

お金を増やしたいからといってとらわれすぎると、かえって執着が生まれ、判断を誤ることもある。定期的に基本に立ち返ろう。

上原 千華子

(株)ウェルス・マインド・アプローチ代表取締役、金融教育家

欧米投資銀行勤務歴17年、個人投資家歴26年。証券外務員一種、最新の心理学NLPを使ったマネークリニック®認定トレーナー。金融知識だけではお金の不安が消えなかった経験から、心理学を取り入れたライフプランと資産運用を教えている。「お金の教育をもっと身近に、心から豊かな人生を」がモットー。

2022年より「3ヶ月マネー実践講座」を提供開始。ライフプランから資産運用まで自分でできるようマンツーマン指導。多忙な中小企業経営者から支持され、口コミでビジネスが広がっている。

※「ウェルス・ファイナンシャル・セラピー®」は株式会社ウェルス・マインド・アプローチの登録商標です(登録668701)。

(※写真はイメージです/PIXTA)