コロナ禍が明け、スポーツイベント・音楽ライブやフェスといった興行が再び盛り上がりを見せている。「これからは再びリアルイベントの時代だ」と思う方もいるかもしれないが、ライブ配信の需要が無くなったかと言えばそうではない。リアルとオンライン、世界のどこからでもイベント参加できる「ハイブリッドイベント時代」だ。

屋外のイベント配信は屋内のものより数段ハードルが上がる。天候・電源・回線という課題に加え、会場が広くなりがちな屋外では配線距離が延びるという問題もある。 そんな課題をたやすく解決できそうなカメラがPanasonic connectから発売された。ありがたいことに今回レビューの機会をいただいたので早速紹介していきたい。

AW-UR100GJ

野外撮影に適したリモートカメラ「AW-UR100GJ」

今回発売されたAW-UR100GJは防塵防水の保護等級IP65に準拠した一体型リモートカメラだ。 業務用ビデオカメラにも引けを取らない24倍光学ズームレンズを搭載し、最大4K60pでの撮影ができるという基本性能の高さに加え、特徴的なワイパーを備え雨天時でも視界をクリアにして撮影することができる。
塩水にも強く、強風時の海沿いなど海水が吹きかかる過酷な環境でも使用可能だ。さらに、-15℃まで対応しているデフロスターを搭載しており結露や霜・吹雪による雪の付着も除去できるという、まさに「完全無欠」なリモートカメラになっている。

外観

AW-HE75(左)、AW-UR100GJ(右)

筆者所有のPanasonic AW-HE75と比較してみた。一般的な屋内型リモートカメラに比べ重厚感が伝わるだろう。風速50m/sでも使用可能という堅牢さが伝わってくる。

台座には金属製のしっかりとした足が付いている。付属のボルトを使ってカメラを対象物に固定することが可能だ。

三脚等に固定する場合、台座に金属プレートを取り付ける。プレートには3/8インチネジが複数ついている。

筆者がAW-UR100GJのリモートカメラを手にした際、その重さに驚いた。このカメラは約9.0 kgもあり、筆者が持っている、AW-HE75の約1.5 kgとは大きな違いがある。ただ、この重さは、ただの数字以上の意味を持っていると感じた。

この重さが意味するのは、安定した映像撮影の可能性だ。強風の中や不安定な場所での撮影。軽いカメラだと、風で簡単にブレてしまう可能性が高い。しかし、AW-UR100GJのように安定性に優れたカメラは、風や小さな振動でも映像がブレにくい。このカメラの頑丈さと安定性は、どんな環境でも信頼して使えると考える。

高度なブレ軽減機能を搭載

またブレ軽減の点では、光学式画揺れ補正(OIS)、電子式ROLL補正(EIS)、パンチルト式画揺れ補正(D.I.S.S.:Dynamic Image Stabilizing System)の3つの揺れ補正が搭載されていることも注目するべき点だろう。

パンチルト式画揺れ補正(D.I.S.S)により水平、垂直方向。そして、電子式ROLL補正(EIS)で回転方向のブレを、光学式画揺れ補正(OIS)で光学による上下左右のブレを高精度に補正してくれる。この安定性があり、なおかつ4K60pの撮影が可能なAW-UR100GJは、間違いなく野外での撮影の幅を広げてくれるだろう。

入力端子

SPF+での映像出力に対応しているため、UHDを長距離引き回す場合も安心だ。もちろん12G/3G SDI出力もあるので既存カメラとの置き換えも容易にできる。

NDI・NDI/HX2に標準対応

筆者にとって非常に嬉しかったことの一つにNDIというIP映像伝送規格の標準対応である。先日Panasonicから発表されたAV-HSW10というスイッチャーもNDIの映像入力に対応し、カメラとスイッチャーを同一のネットワーク上に置くだけで映像伝送が可能になる。近年TricasterやvMixなどといったソフトウェアスイッチャーでは多く使われているこの規格だが、ハードウェア中心で構成されるシステムでも今後ますますNDIを使う機会は多くなってくるだろう。

防水機能

端子周りには専用の防水カバーが付属する。

4本のネジを使ってしっかりと留める機構になっている。(実際に施工する場合はもちろんケーブルが出てくる部分もシールドする必要がある)

このリモートカメラで最も目を引くのがワイパーである。レンズに水滴がついてしまった場合はリモート操作でこのワイパーを動かすことで水滴を除去できる。 常に水滴が付着するような過酷な環境にも対応できるよう、車のワイパーのように動かし続けることもできる。

IPX5は3メートル離れた場所から毎分12.5Lの噴流水を3分間、どのような方向から当てても耐えられる性能を示している。YouTubeで「IPX5 試験」などで検索すると同基準を満たす製品の試験映像を見ることができるが、想像していたより遥かに多い水量を製品に噴射しているのに驚いた。天気予報と睨めっこをしながらカメラ設置位置に頭を悩ませる必要がなくなるのはありがたい。

また、近年真夏の音楽フェスなどでウォーターキャノンを演出として取り入れたような環境でも、この「無人・防水」という武器で、安全に、かつ確実に撮影を行うことができるだろう。

画質・操作性

屋内で画質のチェックを行った。画像はHigh bandwidth NDIで出力したものをキャプチャした広角端(35mm換算で25mm相当)の画像である。歪みも少なく十分な画質であることがわかる。

壁に取り付けてあるテストパターン紙を望遠端(35mm換算で600mm相当)で表示した。パターンのつぶれもなく、搭載レンズ自体の解像度の高さがわかる。

少しだけ引いて、周辺部の解像度もチェックしてみるが全く破綻は無く、しっかりと解像している。

次に屋外利用である場合、太陽が映り込む場合を想定して、天井に当てていた200W照明を直射してみる。

このように極端に点光源がカメラに当たる状態で、再度望遠端の画質をチェックしてみる。

流石にフレアによるコントラストの低下は見られるものの、色情報・解像度は保持していることがわかる。光学設計にはかなり力を入れているようだ。

操作には個人所有しているPanasonic AW-RP60GJを使用した。カメラの大きさから普段使用しているリモートカメラと操作性が変わるのを危惧したが、全くそんなことは無く非常に細かいタッチの操作にもレスポンス良く反応してくれた。予想できない激しい動きの多いサッカーラグビーといったスポーツ撮影でも選手をしっかりと追従できる性能を持っている。

使いやすいWebインターフェース

Panasonicリモートカメラは非常に使いやすいWeb GUI機能を備えている。映像のモニタリングはもちろん、サムネイル付きで表示されるプリセット呼び出しやPTZ操作、各種設定が全てブラウザから行うことができる。反応も非常にスムーズで専用アプリが必要ないほどよくできた作りになっている。
ブラウザ操作するにはリモートカメラのIPアドレスを調べる必要があるが、同社製の無料アプリケーション「Easy IP Setup Tool Plus」を利用すればネットワーク内のリモートカメラやコントローラを自動で検索しリスト表示してくれる。そこからIPアドレスの設定やWeb GUIページを開くことも可能だ。

ハイブリッドイベントでのリモートカメラという選択肢

筆者は専ら小規模~中規模でのライブ配信業務に従事している。実際のオペレートはもちろんのこと使用するカメラの選定までを行うことも多く、その中で最近のハイブリッド配信型のイベントではリモートカメラを選択する機会が増えてきている。

お客様が多くいるハイブリッドイベントではカメラの設置位置が制限されることが多い。その名の通りコントロールを遠隔で行うことができるリモートカメラはパン・チルトズームからアイリスやゲイン・NDフィルタやホワイトバランスなどいったすべての操作・設定を離れたオペ卓から行えるため、設営さえしてしまえば基本的にカメラに人が付く必要はない。

また、LANケーブルで電源を供給でき映像のIP伝送まで対応しているリモ―トカメラは、最もシンプルな構成だとLANケーブル1本で電源・コントロール・映像伝送までの全てを行うことができる。常設ではない現場ではケーブルは少ない方が当然楽であるし、電源を気にする必要が無いというメリットは皆さまよくご存じのはずだ。

AW-UR100GJの登場で、これまで設置することが難しかった場所に高画質・高機能なカメラを置けるようになった。それは今まで撮影できなかった映像を撮ることができるようになったということだ。より臨場感のある映像を、より高画質で撮れるこのカメラが、リアルとオンラインの壁を一層低いものにしていくと考えている。

Panasonic「AW-UR100GJ」レビュー。全天候対応4K60p撮影可能なリモートカメラがもたらす屋外配信の新時代