ひともんちゃくなら喜んで!
『ひともんちゃくなら喜んで!』(八海つむ/小学館)

 多すぎる残業・少ない休日・人手不足によるパンク状態。理不尽な暴言を吐く上司や、自分勝手な同僚にも悩まされ、どうにかならないものかと悩む人は多いだろう。そんな人に読んでほしい作品がある。マンガワンで連載中の『ひともんちゃくなら喜んで!』(八海つむ/小学館)だ。

 本作は、現代の企業が抱える闇を天使なコンサルと悪魔な社長がタッグを組んで解決していく、痛快オフィスラブコメディー。ただし甘いだけの作品ではない。ストーリーを楽しみながら、コンサル視点で働き方を向上させる術を得られるという、一石二鳥な内容だ。今年2023年1月には、原作の3巻までをベースにテレビドラマ化もされている。

 人見まもるは人事コンサルタント派遣会社「オフホワイト」の女性社員。「天使すぎるコンサルタント」としてSNSで人気だが、実経験はゼロで、社長に祭り上げられた広告塔に過ぎない。

 実務をさせてもらえない現状に悩んでいたある日、アパレルメーカー「(株)ジェットブラック」の社長・佐京紫織と出会う。彼に半ば脅される形になりつつも、「最高の人事マネジメントがしたい」とコンサルとしての派遣を志願するまもる。しかし彼女を待っていたのは、人格に一癖も二癖もあるモンスター社員たちだった……。

 冒頭でも触れたように、本作はただのラブコメではない。オフィス内の問題社員たちと対峙し、彼らの悪行や悩みを解決していくお仕事マンガでもある。

 業績は右肩上がりでありながら新人離職率100%の「(株)ジェットブラック」には、「マウント四天王」と呼ばれる社員たちが潜んでいた。愛社精神が強すぎるがゆえに、熱すぎる情熱で後輩を追い込む経理。佐京に恋愛感情を持ち、邪魔者を排除しようとする営業。目的のためなら平気で噓をつき相手を操って傷つけるマニピュレーターに、「ラブ・ジャイアン」と呼ばれ他人の功績を奪うことに快感を覚えるデザイナー。

 社内をかき乱すモンスターたちをキャッチーに描きつつも、“あるある”なブラック企業問題を現実的なアドバイスで解決していく。問題に対するまもるのコンサル視点での分析は、現実社会でも役に立ちそうなTipsがもりだくさん。悩める社会人のちょっとしたアドバイスブックにもなりうる要素を含んでいる。

 社員たちがなぜ問題行動をとるようになってしまったのか、背景や動機を丁寧に描いている点も本作の魅力のひとつだろう。身近にいると厄介な存在であることは間違いない彼ら。しかし理由を知ってしまうと、その人間臭さに情すら湧いてきてしまうから不思議だ。

 また、「人が続く会社にしたい」と環境を憂う佐京だが、なんと彼自身も俺様暴君なワンマン社長! 当初は問題が発覚した部下たちを即解雇しようとしていたが、まもるに説得され彼らと向き合おうと変わっていく。まもるとともに問題を解決していく過程で、佐京自身もまた己の悪癖を見つめ直して成長していくのだ。

 そして本作最大の魅力は、なんといっても佐京とまもるの恋の行方。お互いに惹かれ合っていく二人だが、社長と派遣コンサルという立場が障害となり、もどかしい展開が続く。俺様系イケメンでありながら、まもるに対してピュアな恋心を抱く佐京に、読者はキュンとくること間違いなし。

 物語が進むにつれて二人の距離は着実に縮まっていくものの、じつはそれぞれ秘密を抱えていてすんなり前には進まない。そして企業を追い詰める真のラスボスは社外にいて……!?

 お仕事マンガ・ラブコメマンガの両軸で読め、独特の面白さがある本作。仕事も恋も一難去ってまた一難。ラスボスとの対決を乗り越え、超ブラック企業は無事にホワイトニングされるのか!? ハラハラドキドキとトキメキが入り混じったストーリーを楽しみつつ、ぜひまもるのコンサル視点での人事アドバイスに注目してほしい。困った部下や同僚との接し方に悩んでいる読者にとって、より良い働き方へのヒントになるだろう。

文=倉本菜生

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