同居する人がいない「おひとりさま」が亡くなった場合、遺産があれば相続の問題が発生します。しかし、親族と折り合いが悪い、疎遠である等の理由で、親族に遺産を相続させたくないというケースも考えられます。そのような場合、事前にどのような手段をとっておけばよいのでしょうか。相続に詳しいダーウィン法律事務所共同代表の野俣智裕弁護士が解説します。

1.おひとりさまの財産の行方

もし、相続について事前に何も手を打っておかなかった場合、おひとりさまが亡くなった後の財産の行方はどうなるのでしょうか。

相続が発生したときに、法律上、「誰が」「どれだけ相続することができることになっているのか」ということを確認しておきましょう。

誰が相続人になるのか

まず、「誰が相続人になるのか」についてです。

民法で相続人になる者として定められている人のことを、「法定相続人」といいます。

配偶者がいれば、配偶者は常に相続人になります。ここでいう配偶者は法律上の配偶者に限り、内縁の配偶者は含まれません。

第一順位の相続人は子(すでに亡くなっているときは孫以下の直系卑属)です。配偶者と子がいれば、その両者が相続人となります。また、配偶者がおらず、子だけの場合には、子だけが相続人になります。ここでいう子には、養子も含みます。

第二順位の相続人は直系尊属(親、親が亡くなっているときは祖父母、更にその上など)です。子や孫などの第一順位の相続人がいない場合に相続人になります。配偶者と直系尊属がいれば、その両者が相続人となり、直系尊属しかいない場合には、直系尊属のみが相続人になります。

ここでいう直系尊属には、養子縁組した養親も含まれます。

第三順位の相続人は兄弟姉妹です。

第一順位、第二順位の相続人が全くいない場合には、兄弟姉妹が相続人になります。すでに亡くなっているときは、その子、つまり甥または姪が相続人になります。なお、甥や姪までも亡くなっているとき、その子は相続人になりません。

どれだけ相続することができるのか

次に、「どれだけ相続することができるのか」についてです。

法定相続人の間の相続分(相続することができる割合)は民法で定められています。これを法定相続分といいます。法定相続分は次の7つに場合分けすることができます。

・相続人が配偶者のみ⇒配偶者が全部相続

・相続人が配偶者と子(直系卑属)⇒配偶者が2分の1、子が2分の1(複数の場合は頭数で等分)を相続

・相続人が子(直系卑属)のみ⇒子が全部相続

・相続人が配偶者と親(直系尊属)⇒配偶者が3分の2、親が3分の1(複数の場合は頭数で等分)を相続

・相続人が親(直系尊属)のみ⇒親が全部相続

・相続人が配偶者と兄弟姉妹⇒配偶者が4分の3、兄弟姉妹が4分の1(複数の場合は頭数で等分)を相続

・相続人が兄弟姉妹のみ⇒兄弟姉妹が全部相続(複数の場合は頭数で等分)

2.おひとりさまが親族に遺産を渡したくない場合にとりうる方法

このように、人が亡くなった場合には、その人に同居の家族がいなくても、基本的には自分の親族の誰かが法定相続人になり、その親族に財産が渡ることになります。

関係性が良くない親族や、長らく疎遠になっている親族に自分の財産を渡したくない場合にはどうすれば良いでしょうか。その場合には、何らかの対策が必要になります。そこで、主な対策を3つご紹介します。

対策1. 遺言を作成しておく

もっとも一般的な対策としては、遺言を作成しておくという方法が考えられます。

遺言を作成することで、遺産を誰に渡すのかについて自分で決めることができます。関係性の良くない親族に財産を渡すくらいであれば、生前にお世話になった人や、自分がお世話になった施設を運営する法人に財産を残したいというような場合、遺言を作成しておくべきです。

ただし、この対策をとる場合に、念頭に置いておくべきことがあります。おひとりさまに特有の問題が2つありますので、ご留意ください。

第一に、特におひとりさまの場合に顕著ですが、遺言の内容が実現されないリスクがあります。

遺言は、その遺言が発見され、さらには実現されて初めて意味のあるものです。遺言が発見されずに、あるいは、発見されても発見者がその遺言をなかったことにしてしまって、本来財産を渡したくなかった法定相続人が遺産を受領してしまっては元も子もありません。

そこで、自分が亡くなったタイミングで、遺言の内容を実現してくれる「遺言執行者」を選任しておくことが有効です。また、遺言執行者が相続開始時期(本人が亡くなったこと)を知ってもらえるように、定期的なやり取りを行うなどの必要があるでしょう。

加えて、遺言を毀棄したり隠匿したりすることが難しい形式で作成しておくことが推奨されるでしょう。特に有効なのが、「公正証書遺言」を作成して公証役場で保管される方法をとることです。

第二に、遺留分への配慮です。

遺留分とは、兄弟姉妹以外の相続人が、相続について法律上取得することを保証されている財産の一定の割合であって、遺言等の処分によっても奪われることのないものを指します。

要するに、遺言等で対策をしたとしても奪うことのできない相続人の最低限度の相続分のようなものです。

遺産を渡したくない親族が兄弟姉妹(または甥姪)ではない場合には、遺言によって財産を受け取った人が、後に遺留分を主張する相続人から「遺留分侵害額請求」を受ける可能性があります。このことを想定して、あらかじめ遺留分に配慮した遺言にしておくべきか、遺言で財産を受け取ることになる人と事前に打ち合わせをしておくべきか、など、詰めておかなければならない点があります。

対策2. 推定相続人の廃除

遺留分の話と関連して、遺留分を有する推定相続人(将来相続人になるはずの人)に非行や虐待・侮辱などがある場合に、その相続人の相続資格をはく奪する民法上の制度があります。これを「推定相続人の廃除」といいます。

この制度は誰にでも適用できるわけではなく、あくまでも、推定相続人に廃除事由がある場合に限られます。

廃除事由には3つの類型があり、1つ目は被相続人に対する「虐待」があった場合、2つ目は「重大な侮辱」があった場合、3つ目は「著しい非行」があった場合です。

廃除の方法としては大きく分けて2つあり、「生前廃除」と「遺言廃除」があります。生前廃除は、まだ自分が生きているうちに、家庭裁判所に審判を申し立てるものです。他方、遺言廃除は、遺言の効力が生じた後に、遺言執行者が家庭裁判所に申し立てるものです。

廃除事由があるかどうかは微妙な判断になることがありますし、裁判所が絡む手続ですので、ご自身のケースで廃除を行うべきかどうかや、細かい手続きについては、個別に弁護士にご相談いただくのが良いと思います。

「信託」利用のメリット・デメリット

対策3. 信託を利用する

昨今、「民事信託」や「家族信託」という言葉を耳にする機会が増えてきました。

民事信託とは、一定の目的に従って財産管理等をしてもらうべく、自分の財産を信頼できる人に信じて託す仕組みのことです。

民事信託は、財産を託された人(「受託者」といいます)が自分のために財産を使うのではなく、財産を託した人のために財産を使う形で設定されることがほとんどです。

高齢者が認知症対策のために信託を設定する場合には、受託者はその人の身近な家族である場合が多いため、世間的には「家族信託」という呼称も広まっています。しかし、法的には必ずしも受託者が家族である必要はありません。

ご自身の身近に、信頼することが出来て、将来的にはその人に自分の財産を渡したいと思うような関係性の人がいれば、その人を受託者として民事信託の契約を締結することも可能です。

そして、民事信託は、生前の財産管理と死後の財産承継の両方のために使える仕組みです。

本人が生きている間は、本人の財産を適切に管理運用して本人の生活を守り、本人が亡くなった場合には特定の人に残った財産を承継させることができるため、生前の認知症対策を兼ねる形にもできます。

また、葬儀やお墓のことについてお願いする「死後事務委任契約」というものがありますが、このような内容も信託契約書の中に盛り込んでしまうことも少なくありません。

信託では、受託者に預ける財産を設定時に決めておき、信託が継続中は受託者が関与し続けるため、遺言のように、発見されずに実現されない、というような心配は基本的にはありません。

信託では受託者を務めてくれる人を見つける必要がありますので、適任の人を見つけることができなければ、利用ができないという点が、難しい部分かもしれません。

弁護士等の専門家であっても、受託者については信託業法上の規制があるため、現在は対応していない場合がほとんどです。ただし、弁護士が遺言における遺言執行者を務めることや、受託者の監督をする立ち位置の信託監督人等に就任することはできます。

3.まとめ

生涯を通して結婚されない方も増えてきており、また、結婚しても離婚や死別等によっておひとりさまになるケースも少なくありません。

これに伴い、疎遠な親族の相続人よりも、身近な人に感謝の気持ちとして財産を渡したいという願いを持たれる方が増えるのも自然なことだと思います。

これまで見てきた通り、この願いを実現するためには事前に対策が必要になります。まだ自分がしっかりしていて動けるうちでなければ難しい対策もありますし、一度とった対策を練り直すこともできますから、思い立ったときに行動に移すことが大切でしょう。

気になることがありましたら、ぜひ一度、相続に詳しい弁護士にご相談してみてください。

野俣 智裕

弁護士法人ダーウィン法律事務所 共同代表

弁護士

(※画像はイメージです/PIXTA)