JAF(日本自動車連盟)は10月23日までに、自動車ユーザーへのアンケート調査の結果を基に「2024年度税制改正に関する要望書」を作成し公開しました。自動車ユーザーに課される様々な税金についての問題点を指摘したうえで、自動車ユーザーの税負担の軽減を求めるものです。その内容について、税理士・黒瀧泰介氏(税理士法人グランサーズ共同代表)が解説します。

JAF「2024年度税制改正に関する要望書」の内容とは

JAFは毎年、「税制改正に関する要望書」を作成し、政府・関係省庁に提出しています。今回の要望事項は、大きく分けて以下の通りです。

1. 自動車税制の簡素化と、自動車ユーザーの負担軽減の実現

2. 「重課措置」の是正

自動車ユーザーに対するアンケート調査を行い、その結果を基に現行の税制の問題点を指摘したうえで、自動車に関する税金の負担軽減を求めるという内容になっています。JAFによれば、アンケートの回答者数は18万9,285名にのぼり、過去最高を記録したとのことです。

以下、要望書の内容に沿って解説します。

自動車税制の簡素化と、自動車ユーザーの負担軽減の実現

JAFの要望書は、現在の自動車税制が複雑であり、自動車ユーザーに過度の負担を負わせていると指摘しています。

◆自動車税「環境性能割」の廃止

まず、要望書は自動車税の「環境性能割」の廃止を求めています。この制度は、自動車を購入した年度に、燃費性能に応じて車両価格の0~3%(軽自動車は0~2%)が課税されるものです。

自動車税の「環境性能割」は、2019年10月に、同年9月に廃止された「自動車取得税」と入れ替わりに導入されたという経緯があります。「自動車取得税」は車両価格の3%(軽自動車は2%)で、「エコカー減税」によって一定の条件をみたせば軽減されるというものでした。

JAFはこの点をとらえ、自動車税の「環境性能割」が「自動車取得税の単なる付け替えのようなもの」であり、廃止すべきとしています。

この点については、「自動車取得税」と自動車税の「環境性能割」はそれぞれ課税の根拠が異なるので、税法理論上は、単なる「付け替え」とはいえません。

すなわち、自動車取得税は元来、道路整備に充てるための「道路特定財源」として導入されたものが、2009年の税制改正で「一般財源」に変わったものです。これに対し、自動車税「環境性能割」は、CO2削減という政策目的のため、燃費性能の高い車を優遇するというものです。このように、両者の課税の根拠・目的は一応異なります。

ただし、JAFは、課税標準(車両価格)と税率がほぼ同じであること、自動車取得税の廃止と同時に自動車税「環境性能割」が導入されたことをさして、実質的に「課税ありきの付け替え」ととらえているものと考えられます。

◆自動車重量税の廃止

要望書は自動車重量税についても廃止を求めています。

もともと、自動車重量税は道路整備に充てるための「道路特定財源」でした。しかし、2009年の税制改正で「道路特定財源の一般財源化」が行われました。道路特定財源は、道路整備が進むにつれ、税収が歳出を大きく上回るようになっていました。それが問題視され、一般財源への組み込みが行われたのです。

なお、この後に述べる「ガソリン税」も、元来「道路特定財源」だったものが一般財源化されたものです。

JAFの指摘は、2009年時点で道路特定財源(自動車重量税)は存在意義を失っていたのだから、本来ならば廃止すべきだったというものです。

この点については、ガソリン税が国会の議決を経て道路特定財源から一般財源へと変わるプロセスで、課税の根拠が「変更」されたと考えざるを得ません。租税法律主義(憲法84条参照)の下、税制に関する基本事項は国会が決めることになっているからです。

ただし、一般財源に組み込まれた後の課税の理論的な根拠は、必ずしも明らかとはいえません。JAFはこの点を指摘していると考えられます。

◆ガソリン税等の「当分の間税率」の廃止

要望書はそれに加え、ガソリン税等の「当分の間税率」の廃止も求めています。

本来、ガソリン税の税率は「1リットル28.7円」です(本則税率)。しかし、現在のガソリン税は「1リットル53.8円」の「暫定税率」が適用されています。これはもともと、1974年に「道路整備の財源が不足している」という理由で、暫定的に引き上げられたものが、50年近く維持されているものです。あくまでも暫定的な税率だったはずということで、「当分の間(とうぶんのあいだ)税率」といわれているのです。

1974年当時、ガソリン税は「道路特定財源」でしたが、その後、道路特定財源は税収が歳出を大きく上回るようになりました。その時点で「道路整備の財源が不足している」という理由は失われたことになります。また、2009年には「一般財源化」もされました。

そうであるにもかかわらず、本則税率に戻されることなく、高い暫定税率が約50年間にわたって維持されているということです。この点についても、前述の自動車重量税と同じく、国会の議決を経て一般財源化された時点で「課税の根拠」がどう変更されたのかという問題が生じています。

なお、ガソリン税の税率については、もう一つ、「トリガー条項」の問題も指摘されます。トリガー条項とは、ガソリン価格が1リットル160円を超えた場合に自動的に税額が本則税率の「1リットル28.7円」まで引き下げられる制度です。しかし、このトリガー条項は2011年に起きた東日本大震災の後、いわゆる復興財源を確保するためという理由で凍結されています。

政府はガソリン価格の高騰への対策として、トリガー条項の凍結を解除して発動させるのではなく、事業者に「補助金」を支給する施策を採用しました。

実は当初、政府はトリガー条項の発動も検討していました。しかし、ガソリン税が国と地方自治体にとって重要な税収源になっていることを考慮した結果、補助金で対処することになったという経緯があります。

ところが、10月26日~11月1日の補助金の額は1リットル35.7円に達しており、トリガー条項が発動した場合のガソリン価格引き下げ額(1リットル25.1円)を上回っています。また、ガソリン価格高騰の原因とされるロシアのウクライナ侵攻や円安は直ちに収まる気配がなく、長期化する可能性があります。

さらに、補助金は元来その性質上、期間限定の暫定的な措置として位置づけられており、長期的・恒久的な制度として予定されてはいません。

したがって、もし、ガソリン価格の高騰がこのまま長期化・定着化すると、補助金ではなくガソリン税のトリガー条項の発動(「当分の間税率」の一時停止)、あるいは減税(「当分の間税率」の廃止等)という選択肢が改めて議論の対象となる可能性が考えられます。

◆Tax on Tax(ガソリン税と消費税の「二重課税」)の解消

要望書はガソリン税と消費税の「二重課税」の問題も指摘しています。

現行制度の下では、ガソリン価格にガソリン税が含まれており、全体を包括して消費税が課税されるしくみになっています。「1リットル53.8円」のガソリン税にさらに10%の消費税が課税されているということです。

たとえば、50リットル給油したらガソリン税の額は2,690円ですが、そこにさらに269円の消費税がかかるということです。

この税金にさらに税金が課税されているという構造は、講学上、「Tax on Tax」あるいは「二重課税」といわれることがあります。要望書は、この二重課税の状態を解消すべきと指摘しています。

「重課措置」の是正

要望書では「重課措置」の是正を求めています。

重課措置とは、新規登録から13年を経過した自動車に対して、自動車重量税や自動車税・軽自動車税の税率が高く設定されていることをいいます。

これに対し、JAFは、個々の車の使用実態や環境負荷等を考慮することなく一律に新規登録からの経過年数によって税金を重くすることは合理性・公平性を欠くと指摘しています。

現行の自動車税制が複雑であること、課税の理論的根拠に多少なりとも問題を抱えていることは否めません。また、ガソリン価格の高騰が長期化しており、自動車ユーザーの経済的負担をいかに軽減するかが重要な政策的課題の一つとなっています。

さらに、今後、「カーボンニュートラル」の流れのなかでEVが急速に普及していくことが予見され、税制上、ガソリン車とEVとの間で著しい不公平が生じないようにすることが求められます。

そんななかで提出された今回のJAFの要望書は、今後の自動車税制のあり方を考えるうえで重要な問題提起を含んでいるといえます。

黒瀧 泰介

税理士法人グランサーズ 共同代表

公認会計士

税理士

(※画像はイメージです/PIXTA)