年を重ねるとに従い、身体はだんだんと自由がきかなくなり、介護が必要になる場合も。「家族に迷惑をかけたくない」と老人ホームへの入居を決める人もいるでしょう。しかし本心は……みていきましょう。

老人ホームに入居していた80代母は、なぜ家に帰りたいと言ったのか

年齢と共に高まる介護リスク。75歳未満では5%に満たない要支援・要介護度は、75歳以上になると30%を超え、3人に1人の水準になります。要支援・要介護認定者は全国でおよそ690万人。そのうち在宅が493万人、特養や老健等の施設に102万人、有料老人ホームに49万人、サービス付き高齢者向け住宅に24万人、認知症グループホームに21万人となっています(国土交通省資料『高齢者の住まいに関する現状と施策の動向』より)。

要介護でも自宅で暮らす人が圧倒的多数ではあるものの、核家族化が進み、家族が付きっきりで介護することが難しいケースが増えているなか、存在感を増しているのが老人ホーム。さまざまな種類がありますが、最近は看取りまでOKの施設も増え、終の棲家としても人気が高まっています。

老人ホームへの入居が決まれば安心……介護する側も介護される側も、そう思うでしょうが、老人ホームからの退去を決めるケースもあるようです。

ーー老人ホームで暮らしていた母が自宅に戻ってきました

そう投稿したのは、50代の男性。80歳になる母親は、5年前から老人ホームに入居していましたが、最近になってガンが発覚。すでに進行していたため、施設と提携する病院に入院する予定だったといいます。

元々母親は男性家族と同居。70歳を超えたあたりから少しずつ足腰が弱くなり、家族の手を借りることも多くなっていったといいます。そんなある日、「家族に迷惑をかけたくない」と自分で老人ホームを探し、1人で入居を決めてしまったのだとか。しかし最近になって「家に帰りたい」とポツリ。「人生の最期は住み慣れた我が家が良かったんでしょうね」と男性。母親の希望をくんで、在宅の緩和ケアに移行したのだといいます。

ーーケアマネージャーがいたので、在宅医療に必要なモノの手配はスムーズに進めることができましたし、私のほか2人の妹で仕事を調整して、泊まり込みで看病したり家事をしたりしています。

男性、会社では部長という立場。厚生労働省令和4年賃金構造基本統計調査』によると、部長クラスの平均給与は月収で59.3万円、年収で926.6万円。会社員人生でもピークに達するときで、組織にとってもなくてはならない存在です。しかし日本において介護休暇は、それ以外の制度利用者と合わせても普及率は1割に満たないといわれています。また介護を理由とした離職者は、年に8万~9万人で推移。政府は「介護離職ゼロ」を掲げてはいるものの、目標達成は不透明です。そのようななかで在宅介護を決断。男性は家族の協力があったほか、「期限付きだから可能」と話します。

ーー在宅介護を決めることができたのは、残された時間がある程度わかっているから。近い将来、母親はいなくなると思うと仕事を優先している場合でもないし、会社も「いまは母親の側に」と理解を示してくれました

在宅介護…介護者の1割が「このまま働き続けるのは無理」

仕事との両立は難しいイメージのある在宅介護。その実態について『在宅介護実態調査結果の分析に関する調査研究事業【報告書】』でみていきましょう。

厚生労働省 令和2年度 老人保健事業推進費等補助金 老人保健健康増進等事業

「主な介護者と本人との関係」で最多となるのは「子」で47.8%。「配偶者」29.6%、「子の配偶者」13.8%と続きます。また性別でみると「女性」が65.5%、「男性」29.6%と、家族の中でも女性に介護の負荷はかかる傾向にあります。また介護者の年齢で最多となるのは「60代」で31.8%。「50代」24.2%、「70代」19.5%とつづきます。

では在宅介護において、実際にどのような介護を行っているのでしょうか。最多は「掃除、洗濯、買い物等の家事」で78.8%。「食事の準備(調理等)」69.9%、「外出の付き添い、送迎等」68.2%、「金銭管理や生活面に必要な諸手続き」68.0%、とつづきます。

また「介護保険サービスの利用の有無」では、「利用している」が7割。一方で「保険適用外」の支援・サービスの利用率はおよそ3割。最多は「配食」で全体の8.5%で、「移送サービス」「外出動向」「掃除・洗濯」とつづきます。

「働き続けることの可否」については、12%が「難しい(「やや難しい」「かなり難しい」の合計)」と回答。また在宅介護継続の不安で最も多いのが「認知症状への対応」で27.5%、「夜間の排泄」「外出の付き添い、送迎」と続きます。報告書では、「訪問系サービスの利用」により、介護者の「認知症状への対応」「夜間の排泄」の不安が軽減されるといっています。

在宅介護では、介護者が孤立無援になりがち。介護保険サービスのほか、保険適用外のサービスも利用しながら負担の軽減を図ることが、“共倒れ”を防ぐ方法のひとつです。

(※写真はイメージです/PIXTA)