事業の成功には「適切な節税」が必須です。本記事では、個人事業者に役立つ、家族を青色事業専従者として給料を全額経費化する方法と、消費税の納税に簡易課税を選択すべき理由を解説します。※本記事は『<改訂2版>らくらく個人事業開業のすべてがわかる本』(あさ出版)より抜粋・再編集したものです。

家族を青色事業専従者にすれば、給料は「全額経費」にできる

◆「適正な給料の設定」がポイント!

自分の家族に生活費やお小遣いを渡したとしても、その金額を経費にすることはできません。それでは、家族を従業員にしてお給料を出した場合はどうなるでしょうか。

その家族が青色事業専従者で、その給料が仕事の内容に照らして適正な金額であれば、その給料は経費にすることができます。

青色事業専従者とは、青色申告をしている事業主の家族で次の条件に当てはまる人です。

●事業主と生計を一にしていること

●その年の12月31日で15歳以上であること

●その年を通じて6カ月超、その仕事に専ら従事していること

簡単に言えば「同じ屋根の下に暮らしている家族のうち事業を手伝ってくれる人」なのですが、「その仕事に専ら従事」という条件がありますので、別に職業を持っている場合や、学生である場合には青色事業専従者には当てはまらないことになります。

次に、「適正な給料の金額」ですが、具体的な仕事の内容や時間に応じて決めることになります。高すぎる金額は経費として認められません。

「もし他人を雇って同じ仕事をさせるとしたらいくらまで出せるか」を基準に考えてください。

一方、この金額は安すぎても意味がありません。

なぜならば家族が青色事業専従者になった場合、その家族について配偶者控除や扶養控除が受けられなくなるからです。

例えば月に3万円程度しか給料を出さない場合、給料として1年分の経費にできる金額は36万円です。

配偶者控除・扶養控除は38万円ですから、給料を出さないで所得控除を受けたほうが得だったということになってしまいます。

なお、青色事業専従者に払う給与を青色事業専従者給与といい、「青色事業専従者給与に関する届出書」として、税務署へその金額を届出する必要があります。

なお、奥さんやお子さんへ出した給料は給与所得として所得税・住民税がかかります。

ただし、給与所得については給与所得控除という概算経費の控除が認められ、家族それぞれについて所得控除が使えます。

所得税は所得の金額が大きければ大きいほど税率が高くなる仕組みになっています(累進課税)。

家族に給料を出して所得を分散することで事業主一人に所得が集中することを防ぎ、累進税率の緩和・所得控除の最大限の活用が可能になるのです。

消費税は「簡易課税」で納税しよう

◆計算も簡単、納税額も抑えられる

消費税は預かった消費税(売上に対する消費税)から支払った消費税(仕入や経費に対する消費税)を控除してその差額を納めます。この計算方法を一般課税方式と言い、原則的にはこの一般課税方式で消費税を計算する必要があります。ただし、この方法は計算が煩雑です。

そこで、売上が5000万円以下の比較的小規模な商いをしている人であれば、簡易課税方式という簡単な方法で計算することが認められています。

簡易課税では売上に対する消費税にみなし仕入率を掛けて、控除する消費税の金額を計算します。控除率は事業の種類によって定められています。

卸売業は90%、小売業は80%、製造業は70%(農林水産業のうち軽減税率の対象となる一定の飲食品類の譲渡は80%)、飲食店は60%、その他のサービス業・金融保険業は50%、不動産業は40%です。

複数の異なる事業を営む事業者が簡易課税を適用する場合には、納税額はそれぞれの業種の売上高にそれぞれの業種のみなし仕入率を乗じて判定します。

主要な事業が全体の売上高の75%を占めている場合には、主要な事業のみを営むものとして納税額を算定してもかまいません。

この簡易課税で計算することによって、実際に支払った消費税の金額よりも多くの金額を控除できる可能性があります。具体的な例を見てみましょう。

●売上の金額2200万円、仕入・経費の金額1760万円の場合(卸売業:税込)

①一般課税の場合

(2200万円×10/110)−(1760万円×10/110)=40万円

②簡易課税の場合

(2200万円×10/110)−(2200万円×10/110)×90%=20万円

→ 簡易課税のほうが20万円安くなり有利です。

ただし、支払った消費税の金額が多い場合には一般課税のほうが安くなる場合もあります。

考え方としては、売上の金額に対する仕入・経費(消費税が課税されていないもの、例えば給与・保険・税金などは除きます)の金額の割合が、簡易課税のみなし仕入率よりも大きいか小さいかで判定します。大きければ一般課税、小さければ簡易課税が有利です。

先ほどの例の場合だと、

①売上に対する仕入・経費の割合 → 1760万円÷2200万円×100=80%

②みなし仕入率(卸売業の場合) → 90%

③判定 → 80%∴簡易課税が有利

となります。

なお、簡易課税制度を適用するには、その年の前年12月31日までに「消費税簡易課税制度選択届出書」の提出が必要になります。

また、課税事業者を選択し、その2年以内に100万円以上の設備投資をするなど一定の要件に該当する場合には、設備投資をした年から3年間は簡易課税制度を適用することができません。

山端 康幸 東京シティ税理士事務所 代表税理士

(画像はイメージです/PIXTA)