デジモン」TVアニメシリーズの第2作「デジモンアドベンチャー02」の登場人物たちのその後を描く映画『デジモンアドベンチャー02 THE BEGINNING』が、10月27日(金)よりスクリーンに登場。にぎやかで楽しい「02」らしさを映しだすと共に、“選ばれし子どもたち”の誕生秘話に迫る本作は、真の友情や幸せというテーマに深く踏み込んだ1作として完成した。MOVIE WALKER PRESSでは、今回の物語のカギを握る新キャラクター、大和田ルイ役の緒方恵美とウッコモン役の釘宮理恵を直撃。世界で初めてパートナー関係を結んだとされる人間とデジモンという重要な役で共演した感想や、壮絶なシーンのアフレコ秘話、そして声優業について感じている醍醐味について語った。

【写真を見る】緒方恵美、ピュアなウッコモンを演じた釘宮理恵に感謝!

■「ルイとウッコモンの関係は、子どもだけではなく大人同士も含めて、現代の人間関係に通じるものがあると思いました」(緒方)

舞台となるのは、お台場とデジタルワールドを行き来した冒険の日々から10年が過ぎた2012年。それぞれの道を歩きだしつつも、本宮大輔(片山福十郎)たち“選ばれし子どもたち”とパートナーデジモンは変わらぬ絆で結ばれていた。そんなある日、大輔たちの前に欠けたデジヴァイスを持った謎の青年・大和田ルイ(緒方)が現れる。実は“選ばれし子どもたち”誕生の裏側には、幼いルイのたった一つの願いが隠されていた。過去、そして現在、すべてがつながった時、デジモン史上最大の危機が訪れる。

――お2人が今回演じられたルイとウッコモンは特別な友情を育みつつも、気持ちがすれ違い、ぶつかってしまうこともある間柄です。役の印象や、彼らの関係性に感じた印象を教えてください。

緒方「もともと4歳と20歳のころを演じることになるキャラクターだと伺っていましたので、振り幅があって大変だなと思っていました。ルイは小さなころと青年になってからではだいぶ性格が違うので、その間になにがあったのだろうと思いながら台本を読んで。親子関係やウッコモンとの関係についてもなかなか壮絶な場面が描かれていたので、もともとの『デジモン』ファンの方にどのように受け取っていただけるのだろうかという想いもありつつ、現代にはルイのような子は多いのではないだろうかと感じました。いまって、表面上は誰も傷つけずに“よいお付き合い”をすることを推奨されているようなところがありますよね。『君のことは僕が守るよ!』というウッコモンに対して、『ありがとう!』と答えるルイの関係性は、表面上は穏やかに見えても、本音が見えてこない部分もある。子どもだけではなく、大人同士も含めて、現代の人間関係に通じるものがあるなと思いました」

釘宮「私も、大人が観ても重みのあるストーリーだなと思いました。やはり人と人がわかり合うためには、心のなかで思っているだけではなく、コミュニケーションを取り合うことがとても大事なことだなと。ルイとウッコモンの関係性から、シンプルでも、現代を生きる人たちが大切にしたい、根幹のようなものが身に染み渡ってきました。またウッコモンを演じるうえでは、とにかく体当たりでやるしかない!という思いで現場に向かいました。幸いにも緒方さんと一緒に収録ができたのですが、初めてルイとウッコモンが出会うシーンでは、『お友だちになるよ』『守ってあげたい』『幸せになってほしい』というウッコモンの気持ちがあふれてきて、その瞬間に『ルイのために全力を傾ける』というウッコモンを演じる方向性が決まった気がしています。ウッコモンにはまったく雑念がなくて、ひたすらピュアに、ルイに愛情を捧げているんです」

■「緒方さん演じるルイは体中からせつなさがにじみでていた」(釘宮)

――お2人で一緒にアフレコができたとのこと。悲しい過去を抱えたルイと、彼のパートナーになるウッコモンとして共演した感想を教えてください。

緒方「釘宮さんは、ピュアなものを演じられるまま、大人になっている方なので。外側だけではなく、ピュアな中身までを演じられるんです。外側だけを演じられる人はいますが、ピュアなものを持ち続けて、さらに経験値を積んで年齢を重ねている声優というのは、実はすごく少ないのではないかと私は思っていて。そして伝え方が、ものすごく的確。ルイを演じる私としては、ウッコモンが優しくしてくれることに乗っかっていけばよかったので、とても楽でした(笑)」

釘宮「ありがたい。光栄です」

緒方「ウッコモンの優しさに身を委ねていたルイは、次第に『あれ?これでいいのかな?』と違和感を覚えていきますが、それもウッコモンに悪意がなくピュアでい続けていてくれたからこそ、戸惑いが生まれるわけで。釘宮さんのおかげで、乗っかっていったまま演じることができました。ありがとうございました」

釘宮「こちらこそありがとうございます。私は、悲しい想いを抱えている4歳のルイとウッコモンの出会いが強烈すぎて。緒方さん演じるルイは体中からせつなさがにじみでていて、『なんてかわいい子なんだ。なぜこんなつらい目に遭わなければいけないんだ』『自分にできることは全部やってあげたい』と心から思いました。そんなルイから『お友だちになってくれるの?』と言われたら、『なる。全員、友だちにする!』と愛情が湧きでてきました」

緒方「ウッコモンを演じるのが愛情深い人で、本当によかったです」

■「『やっちゃっていいですか』と確認しました」(緒方)

――ルイとウッコモンは気持ちがすれ違い、ぶつかり合うこともあります。ルイが感情を爆発させるシーンは、彼の悲痛な叫び、それを目の当たりにするウッコモンを演じられた、緒方さんと釘宮さんの熱演が心に響き、お2人のすごみを実感するようなシーンとなっています。その場面のアフレコで印象的だったことがあれば教えてください。

緒方「私が本気でやると、だいぶ悲惨なシーンになってしまうと感じたので『どこまでやっちゃっていいのかな』と思いました。監督を始めスタッフの方々に『やっちゃっていいですか』と確認したところ、『少しお待ちください』ということで、15分くらいディスカッションされた時間があって。そこで『やっちゃってください。いきましょう!』と言っていただき、よりリアリティを追求する方向で演じさせていただきました。検討する時間があって現場の空気もグッと引き締まったものになりましたし、ルイに対するウッコモンの反応も本当にすごかった。実際に出来上がった映像を観て『ヤバい』と思うほどでした」

――ルイの痛みを体現するのは、とてもつらい時間だったようにも感じます。

緒方「私は長年、戦う声優なので(笑)。これまでも悲惨なシーンをたくさん体験してきました。私たちがやることは、作ったものを通してお客様に共感してもらって、擬似体験してもらって、笑ったり、泣いたりしてもらうこと。ルイとウッコモンのやり取りを通して、切なさに共感していただいたり、ホッとしてもらえたらいいなと思っていました」

――ディスカッション後のルイの叫びは、釘宮さんから見ていかがでしたか。

釘宮「ルイくんの悲痛な、全身全霊の叫びが胸に迫りました。ウッコモンとしては、身を裂かれるような想いがしましたね。緒方さんがおっしゃったように、ディスカッションの時間があったことで、アフレコブースの中、そして監督やスタッフさんの意志が一つになって、同じ方向に突き進んでいけたような気がしています。『みんなで一つのものを創造していくぞ』というエネルギーが生まれた瞬間でしたし、そういう意味でも、緒方さんの『やっちゃっていいですか』という問いかけは、今回の作品作りにおいて肝になったと思っています」

――ルイとウッコモンの関係性や、大輔たちに背中を押される様子から、「絆や信頼を深めるためには本音で話したり、お互いをきちんと知ることが大切なんだ」と感じる人も多いと思いますが、本作の現場でもいいディスカッションがあったのですね。

釘宮「本当にそう思います。そういった話し合いからも、監督やスタッフの方から『託します』という全力の信頼をいただけていると感じたので、こちらもやれることは全力でやりたいという気持ちが一層湧き上がる。そういった信頼関係を結ぶことができた現場だったと思います」

■声優業の醍醐味は「お客様に快感を渡すことができる」(緒方)、「人の心を動かすことができる作品に出会える」(釘宮)

――緒方さんと釘宮さんは、これまでにも年齢や性別、人間ではないものなど、あらゆる壁を超えていろいろなキャラクターを演じられています。そんなお2人がいま感じている、声優業の醍醐味とはどのようなものでしょうか。

緒方「人間は80%の情報を視覚から得ていると言われていて、実写のお芝居では視覚の映像として、お客様の印象に残ることが多いと思います。一方、声のお芝居は、演者が細かい部分まできちんと想像することができていると、お客様のなかでいろいろなものが増幅されて、ぶわっと世界を広げていくことができる。そういう意味では、想像力を注ぎ、お客様に快感を渡すことができるのが、声優業の醍醐味であり、楽しいことだなと思っています。例えば朗読劇などはとてもそれが顕著に表れるのですが、朗読劇は演者が想像を広げきれないままやると、退屈なものになってしまう場合もあって。きちんと演者が細部の細部や深い部分まで想像してやり切ることができると、不思議なことにお客様がその物語の空気感や背景までを感じることができる。いいものを追求していくことには限りがなく、一生をかけてもっといろいろなことができるのではないかと思っています」

釘宮「人の心を動かすことができる作品に出会える。そういったことが起きることが、醍醐味だと感じています。本作のように作り手が愛情を注いで臨み、シリーズとしての歴史もあって、たくさんの人に伝えられるストーリーを持っている作品に出会えると、とてもうれしく思います。もちろん観てくださる方の受け取り方は、それぞれ自由です。そんななか『誰かの心を動かすことができるかもしれない』と思えるような要素がたくさん含まれているものこそ名作と呼ばれるものだと思いますし、演者としてそういった作品に出会えることは稀であるだけに、ものすごく幸せなことです」

緒方「『デジモン』を通っていない人は尻込みをしてしまうかもしれませんが、本作ははじまりの物語でもあって、単体のお話として楽しんでいただける作品だなと思っています。『デジモン』を好きな人、そして通って来なかった人にも楽しんでいただけて、なおかつ人間が生きていくうえで根源的な部分に触っているような作品。ぜひいろいろなことを感じていただけたらうれしいです」

取材・文/成田おり枝

『デジモンアドベンチャー02 THE BEGINNING』で共演した緒方恵美&釘宮理恵が声優業に感じる醍醐味を告白!/[c]本郷あきよし・東映アニメーション・東映