沖縄に駐留するアメリカ海兵隊の第12海兵連隊が、第12海兵沿岸連隊に改編されます。それはインド太平洋地域で島嶼戦闘を考慮するからだとか。従来とどう変化するのか、組織や装備、戦い方などについて見てみます。

島嶼戦闘しやすいよう姿変えます!

沖縄県うるま市キャンプ・コートニーに司令部を置く、アメリカ海兵隊第3海兵遠征軍は2023年10月17日沖縄県に駐留する第12海兵連隊を改編し、新たに第12海兵沿岸連隊として発足させると発表しました。

この「海兵沿岸連隊」、もともとは今年(2023年)1月にアメリカのワシントンD.C.で開催された日米安全保障協議員会(いわゆる日米2+2)において、2025年までに沖縄県へ配備すると明言された部隊です。ただ、従来の海兵隊部隊とはどのような違いがあるのでしょうか。

海兵沿岸連隊とは、これまで海兵隊において編成されていた部隊の体制を改めたもので、特にインド太平洋地域の島々での戦闘を意識した部隊編成となっているのが特徴です。もし、アメリカと中国の間で戦争が起きた場合、その主戦場は太平洋、東シナ海、南シナ海といった広大な海と、そこに点在する島々ということになります。

そうした島々に素早く展開し、それらへ各種の拠点を構えることで、アメリカ海軍の艦艇が安全に作戦を実施できるようにするというのが、この海兵沿岸連隊の役割となります。つまり、敵に先んじて重要な地点を確保し、アメリカ軍の艦艇や航空機が通過するための「入口を開けっぱなしにする」ことを任務としているわけです。

海兵沿岸連隊を構成する「3本柱」とは?

こうした任務を実施するため、海兵沿岸連隊は主に3つの部隊で構成されます。ひとつは、歩兵部隊と対艦ミサイル部隊などから構成され、作戦を実施する基盤を確保する「沿岸戦闘チーム(LCT)」。そして、対空ミサイルによる防空や航空管制、さらに燃料や弾薬の補給拠点を設けるといった役割を担う「沿岸防空大隊(LAAB)」。最後に、物資の補給や戦場での車両整備といった兵站面での支援を行う「戦闘兵站大隊(CLB)」です。

部隊サイズでいうと、海兵沿岸連隊は約1800人から2000人という比較的、小さな規模で構成される予定です。2022年にはじめて海兵沿岸連隊へと改編されたハワイ駐留の第3海兵連隊(現・第3海兵沿岸連隊)が、もともと約3400人で構成されていたことを考えると、そのスリム化の規模がうかがえます。

一方で海兵沿岸連隊には、無人兵器を含む各種の新型装備が配備される予定です。たとえば、無人車両に地対艦ミサイルNSM」の発射装置を搭載した「海軍海兵遠征艦艇阻止システム(NMESIS)」や、各種の無人機ヘリコプターなどを撃墜するための各種兵器を車載化した「海兵防空統合システム(MADIS)」などが代表的でしょう。

さらに、敵の位置を把握するレーダーやMQ-9Aなどの無人機に各種無人水上艇、逆に敵のレーダーや通信システムを妨害するジャミング装置、そして部隊を島から島へと輸送する「軽水陸両用輸送艦(LAW)」といった各種装備に支えられながら、海兵沿岸連隊は広大なインド太平洋地域で戦うことが想定されています。

海兵沿岸連隊は具体的にどう戦う?

それでは、海兵沿岸連隊は具体的にどのような戦い方を想定しているのでしょうか。

まず、海兵沿岸連隊は前述したような各種部隊を、各々75人から100人程度の小さな部隊に分け、それぞれに対艦攻撃や防空、兵站や情報収集などの特化した役割を持たせます。次にこれら部隊を、ヘリコプターやLAWを用いてあらかじめ島を始めとした各地域に分散配置し、「遠征前進基地(EAB)」という小規模な拠点を設置します。

そして、この各EABが連携して、敵の艦艇や航空機の位置を把握しミサイル攻撃や各種ジャミングを実施したり、各種補給拠点を設けて海軍の作戦を支援したりすることによって、たとえば空母を中心とする艦隊の安全な航行を支援するというわけです。

こうした小規模に分散された部隊は、航空機や衛星による発見が難しく、それらが島から島へと素早く移動するという戦術をとります。これにより、敵からの攻撃を避けると同時に、敵の「情報・監視・偵察(ISR)」能力に大きな負荷をかけることも期待されます。

また、この海兵沿岸連隊は当然、日本の安全保障にとっても重要な存在となります。そこで、「日本版海兵隊」とも称される陸上自衛隊の水陸機動団や、今後創設される各種の長射程ミサイル部隊など、こういった自衛隊側の各種部隊と密接な連携をとることが南西諸島の防衛にとって要となるのは間違いありません。

一方で、海兵沿岸連隊は戦争が発生する前の段階で、先んじて前線となり得そうな島々へ展開しておくことで、戦争の発生そのものを抑止するとともに、仮に戦端が開かれてしまった場合には、アメリカ軍や同盟国の部隊が安全に活動できる下地を整えることになります。

そこで、南西諸島の島々において、平時やグレーゾーン(平時とも有事ともいえない中間の状態)の段階から、いかに沿岸海兵連隊がEABを設置できるようにするのか、法的、政治的な課題も残されているように筆者(稲葉義泰:軍事ライター)は感じます。

今後、こうした課題を乗り越えながら、いかに海兵沿岸連隊が活動することになるのか、今後の動向含めて興味は尽きません。

海兵隊の新型水陸両用車「ACV」(画像:アメリカ海兵隊)。